昨日は『娘道成寺の舞台を訪ねる旅』で、和歌山県日高川町の道成寺へ出かけた。片道4時間の長旅であったけれど、そんな感じを抱くこともなく終わることが出来たのは参加メンバーが気持ちの良い人たちだったためだろう。大和塾の発足5周年を記念して、ソプラノの中川洋子先生による『異聞道成寺縁起』の上演を11月3日に計画している。それなら一度は道成寺を見てこようと参加者を募り、集まった14人で出かけたのである。
道成寺は大宝元年(701年)の建立で、和歌山県では最古の寺と言われている。発掘調査では法隆寺型の寺であったようだ。寺の建立の言われは、村の娘の恩返しである。この村の美しい黒髪の娘が藤原不比等の養女に召し上げられ、宮子と言う名をいただき、文武天皇の夫人にまでなった。そこで出世の元となった観音様と実の両親のために文武天皇にお願いして建てて貰ったというのである。それから2百年ほど経て、さらにこの寺を有名にした事件が起きた。これが安珍清姫伝説である。
道成寺よりさらに南の田辺に清姫と言う娘がいた。この娘が熊野詣でに来た安珍というイケメンの若い坊主に一目惚れして、一夜を共にした。「帰りには必ず寄ってください」と言う清姫に、安珍も約束して出発する。けれど、もう帰る頃だと思うのに安珍の姿が一向に見えない。熊野詣でから戻る人々に尋ねるとすでに何里か先に行ったと言う。清姫は安珍に会いたくて追いかける。ところが安珍はますます先へと行ってしまう。
日高川まで追いかけて来た清姫の姿は髪振り乱しまるで鬼のようであった。ところが船頭は安珍からお金をもらっているので、船に乗せてくれない。思い余って清姫は着物を脱ぎ捨てて日高川を渡る。その姿はヘビのようであった。安珍はやっとの思いで道成寺へとたどり着き、鐘楼の中にかくまってもらう。清姫はどこを探しても安珍が見つからないので、鐘楼に火をつけ、自らも命を断ってしまう。凄まじい恋物語である。追いかけても振り向いてくれない安珍が悪いのか、諦めない清姫が悪いのだろうか。
男が女を追いかける物語は多いけれど、女が男を追いかけるケースが少ないというのでこの物語が注目されるのだろうか。道成寺では毎日、絵巻を使って「絵とき説法」が行われている。その院代さんが「こんな風に女の人に追いかけられた男の人はおりますか?」とか、「追いかけたことのある女の人はおられますか?」と聴衆に問いかけて笑わせる。「追い掛け回すほどの男がいないと前の女性が言われておりました」とオチもある。そして最後は「主婦は家庭の柱です。妻こそ宝と思えば家門の繁栄うたがいなし。極楽は西方の遠きにあらず、家庭すなわち妻宝極楽の浄土となり」と結ぶ。
山間の寺は猛暑の中でも清々しく、日陰にいれば暑さも感じられないほどだ。道成寺の山門を下りて見上げると、青い空が見えた。安珍も清姫もこの階段を登ったけれど、再び下りることはなかった。蝉が喧しく鳴いていた。
道成寺は大宝元年(701年)の建立で、和歌山県では最古の寺と言われている。発掘調査では法隆寺型の寺であったようだ。寺の建立の言われは、村の娘の恩返しである。この村の美しい黒髪の娘が藤原不比等の養女に召し上げられ、宮子と言う名をいただき、文武天皇の夫人にまでなった。そこで出世の元となった観音様と実の両親のために文武天皇にお願いして建てて貰ったというのである。それから2百年ほど経て、さらにこの寺を有名にした事件が起きた。これが安珍清姫伝説である。
道成寺よりさらに南の田辺に清姫と言う娘がいた。この娘が熊野詣でに来た安珍というイケメンの若い坊主に一目惚れして、一夜を共にした。「帰りには必ず寄ってください」と言う清姫に、安珍も約束して出発する。けれど、もう帰る頃だと思うのに安珍の姿が一向に見えない。熊野詣でから戻る人々に尋ねるとすでに何里か先に行ったと言う。清姫は安珍に会いたくて追いかける。ところが安珍はますます先へと行ってしまう。
日高川まで追いかけて来た清姫の姿は髪振り乱しまるで鬼のようであった。ところが船頭は安珍からお金をもらっているので、船に乗せてくれない。思い余って清姫は着物を脱ぎ捨てて日高川を渡る。その姿はヘビのようであった。安珍はやっとの思いで道成寺へとたどり着き、鐘楼の中にかくまってもらう。清姫はどこを探しても安珍が見つからないので、鐘楼に火をつけ、自らも命を断ってしまう。凄まじい恋物語である。追いかけても振り向いてくれない安珍が悪いのか、諦めない清姫が悪いのだろうか。
男が女を追いかける物語は多いけれど、女が男を追いかけるケースが少ないというのでこの物語が注目されるのだろうか。道成寺では毎日、絵巻を使って「絵とき説法」が行われている。その院代さんが「こんな風に女の人に追いかけられた男の人はおりますか?」とか、「追いかけたことのある女の人はおられますか?」と聴衆に問いかけて笑わせる。「追い掛け回すほどの男がいないと前の女性が言われておりました」とオチもある。そして最後は「主婦は家庭の柱です。妻こそ宝と思えば家門の繁栄うたがいなし。極楽は西方の遠きにあらず、家庭すなわち妻宝極楽の浄土となり」と結ぶ。
山間の寺は猛暑の中でも清々しく、日陰にいれば暑さも感じられないほどだ。道成寺の山門を下りて見上げると、青い空が見えた。安珍も清姫もこの階段を登ったけれど、再び下りることはなかった。蝉が喧しく鳴いていた。