みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0722「古寺百計」

2019-11-21 18:34:51 | ブログ短編

 とある古(ふる)びたお寺(てら)を訪(たず)ねた旅人(たびびと)。本堂(ほんどう)にいた古老(ころう)の住職(じゅうしょく)に声をかけた。
「あの、私、全国のお寺巡(めぐ)りをしておりまして。ある人から、このお寺は弘法大師(こうぼうたいし)が開いたものだと聞いて来たんですが…」
 住職はちょっと困(こま)ったような顔をして答えた。「そうですか…、そんな古(ふる)いお話を覚(おぼ)えている方がみえるとは…。実(じつ)はですね、それは先代(せんだい)の住職が勝手(かって)に作った話でして。見ての通り寂(さび)れた寺で、そういう話が広まれば参拝者(さんぱいしゃ)が増(ふ)えると考えて、寺の参道(さんどう)に看板(かんばん)をつけたんです。しかし、この辺(あた)りは観光地(かんこうち)でもありませんし、何の効果(こうか)もありませんでした。先代が亡(な)くなった時に、看板は外(はず)してしまいました」
「そうですか、そういう事情(じじょう)があったんですね。でも、こういう古い建物(たてもの)は今ではなかなかお目にかかりませんよ。お参(まい)りさせてもらってもいいですか?」
 住職は旅人を本堂に招(まね)き入れた。中はあちこち痛(いた)んでいたが、それなりに味わいのあるものだった。旅人は本尊(ほんぞん)の前に座(すわ)り手を合わせた。――目を上げた旅人は、本尊の脇(わき)に置かれている小さな仏像(ぶつぞう)に目が止まった。そして、まじまじとそれを見つめて言った。
「これは、まさか…、円空仏(えんくうぶつ)じゃありませんか? こんなところにあるなんて…」
 住職は首(くび)をかしげながら言った。「いや、違(ちが)うと思いますよ。それは先々代(せんせんだい)の住職が、若い頃(ころ)に暇(ひま)つぶしに彫(ほ)ったものだと聞いてますので。こんな寺に、そんな貴重(きちょう)なものが…」
「しかし、よく似(に)てるなぁ。なかなかの出来(でき)だと思いますよ」
<つぶやき>伝承(でんしょう)は時とともに変わってしまうことがあります。もしかしたら本物(ほんもの)かも…。
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