それを使(つか)うと、肌(はだ)がもっちり、しっとり。そばかすとかくすみ、皺(しわ)なんかもきれいさっぱり――。妻(つま)はネットでそれを見つけて、そく購入(こうにゅう)した。それが家に届(とど)くと、妻はさっそく顔にたっぷり塗(ぬ)りつけた。
そこへ夫(おっと)が帰ってきた。夫は、洗面台(せんめんだい)の前にいる妻を見て驚(おどろ)いた。
「お前、どうしたんだ? 顔が、真っ白じゃないか」
妻はにっこり微笑(ほほえ)むと、「ああ、これ…。洗顔(せんがん)クリームよ。すごいの見つけちゃったの。これを使うと、とってもきれいになっちゃうのよ」
夫は興味(きょうみ)なさそうに返事(へんじ)を返(かえ)した。妻は、怒(おこ)った顔をして言った。
「だって…。あなた、あたしのことなんか…。ちゃんと見てくれないじゃない」
「何だよ。何を怒ってるんだ?」
「あなたって、綺麗(きれい)な人がいると、すぐ見とれるじゃない。だから、あたしも綺麗に…」
「俺(おれ)は、そんな、他(ほか)の女性(ひと)に見とれたことなんか――」
夫は、妻の顔を見てのけぞった。妻の顔に、あるべきものがなくなっていたのだ。
「お前…、顔が…、なくなってるぞ。まるで、ゆで卵(たまご)みたいに…」
「なに言ってるのよ」妻は鏡(かがみ)を見て、「やだ、どうなってるの? あたしの顔が…」
妻はあまりのことに卒倒(そっとう)した。夫は、妻を抱(だ)き止(と)めて、
「おい、しっかりしろ。大丈夫(だいじょうぶ)だ。俺が、顔のパーツを買ってやるから」
<つぶやき>どういうこと? 顔のパーツが買えちゃうのかい? だったら、あたしも…。
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