彼女は、家族(かぞく)と一緒(いっしょ)に親戚(しんせき)の伯父(おじ)さんの家に遊(あそ)びに来た。そこは自然(しぜん)に包(つつ)まれた田舎(いなか)で、お兄(にい)ちゃんは従兄弟(いとこ)と外(そと)へ飛び出して行った。両親(りょうしん)は伯母(おば)さんたちと話に夢中(むちゅう)になっていて、ひとり残(のこ)された彼女はつまらなそうにしていた。
彼女は家の中を見て回ることにした。古(ふる)い大きな家なので、見たこともないようなものがいっぱい置いてあった。彼女は二階へ行く階段(かいだん)を見つけた。急(きゅう)な階段を登(のぼ)って行くと、薄暗(うすぐら)い廊下(ろうか)が続いていた。両脇(りょうわき)に部屋(へや)があり、さらに上に行く細(ほそ)い階段を見つけた。階段の上は扉(とびら)でふさがれている。彼女が階段の下で見上げていると、伯父さんが声をかけた。
「この上には、行っちゃダメだぞ。子供(こども)が入ると、あぶねぇんだからなぁ」
まだ幼(おさな)かった彼女は、そういうものかと深(ふか)く考えなかった。それから何年かして、その親戚の家でひとりで留守番(るすばん)をすることになった。昼間(ひるま)はそうでもなかったが、日が暮(く)れてくると何だか心細(こころぼそ)くなってきた。彼女は不安(ふあん)を紛(まぎ)らすようにテレビのボリュームを上げた。
ふと、彼女は昔(むかし)のことを思い出した。そういえば、あの階段の上には何があるんだろう?
彼女は好奇心(こうきしん)にかられて、行ってみることにした。その細い階段は、彼女の記憶(きおく)そのままに、そこにあった。階段の下で見上げてみると、こんなに低(ひく)かったんだと気がついた。子供の頃(ころ)はとっても高く感じたのに…。彼女は自分に言いきかせるように呟(つぶや)いた。
「あたし、もう子供じゃないんだから…。入っても…問題(もんだい)ないよね。うん…」
<つぶやき>古い家には、いろんなものが棲(す)み着いていることも…。異界(いかい)への扉かもよ。
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