日本列島(にほんれっとう)が海に沈(しず)んで五年がたとうとしていた。日本政府(せいふ)は、世界(せかい)に散(ち)らばった国民(こくみん)のために、どこかに国土(こくど)を求(もと)めていた。どんな土地(とち)でもいい。砂漠(さばく)でも、荒(あ)れ地でも、日本の技術力(ぎじゅつりょく)があれば、緑(みどり)の大地(だいち)に変えられるはずだ。
しかし、大国(たいこく)をはじめとして、どこの国も労働力(ろうどうりょく)として移民(いみん)は受(う)け入れても、土地を譲(ゆず)ってくれるような国はまったくなかった。この計画(けいかく)は完全(かんぜん)に暗礁(あんしょう)に乗(の)り上げてしまった。
こうなったら、海に求(もと)めるしかない。太平洋(たいへいよう)の真ん中なら――。政府はとんでもない計画を立案(りつあん)した。海底(かいてい)から海上(かいじょう)へ巨大(きょだい)な構造物(こうぞうぶつ)を造(つく)ろうというのだ。幸(さいわ)いなことに、小笠原(おがさわら)の島々(しまじま)はまだ残(のこ)されている。
ここで財務大臣(ざいむだいじん)が頭をかかえた。そんな資金(しきん)は、今の政府には残されていないのだ。他の国に支援(しえん)を求(もと)めても、実現(じつげん)できるかどうか分からない計画に協力(きょうりょく)する国はないだろう。総理(そうり)はここで大きな決断(けつだん)をした。何年、何十年かかろうとも、この計画を進(すす)めると――。
総理は世界中に散らばった国民に発信(はっしん)した。これは、日本人の悲願(ひがん)である。すべての国民が団結(だんけつ)して力を合わせれば、必(かなら)ず実現できると信(しん)じている。どれだけ時間がかかっても、私たちの子孫(しそん)のために諦(あきら)めてはいけないのだ。
日本再生(さいせい)の歴史(れきし)が、いま始まろうとしていた。果(は)たして、達成(たっせい)できるのか?
<つぶやき>国を失(うしな)うということは、とてつもない喪失(そうしつ)を感じてしまうものなのですね。
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