結婚式(けっこんしき)の前夜(ぜんや)のこと。彼女は嫌(いや)な夢(ゆめ)をみた。式の最中(さいちゅう)に、見知(みし)らぬ女が飛(と)び出してきて、新郎(しんろう)の腕(うで)をつかんで逃(に)げて行くのだ。彼女はただ呆然(ぼうぜん)と立ちつくすだけ。
あまりにもリアルな夢だったので、彼女はバージンロードを歩くとき、その女が来ていないかキョロキョロと見回(みまわ)してしまった。もう、夢と現実(げんじつ)がごちゃごちゃになっていたのだ。彼への不信感(ふしんかん)もわいてきて、それを否定(ひてい)するのに必死(ひっし)になっていた。
彼女は心の中で――。彼はとっても優(やさ)しい人よ。そんな、浮気(うわき)とか…あたしを裏切(うらぎ)るようなことするはずないわ。あれは、ただの夢なんだから…。
別(べつ)の気持(きも)ちが――。確(たし)かに優しいわよねぇ。それは、誰(だれ)にでも…他(ほか)の女にだって…。
何を言ってるのよ。彼がそんなこと…。彼は、あたししか見てないわ。ほら、今だってあたしの方を見つめてるじゃない。彼の愛(あい)は…、あたしだけのものなんだから…。
愛ってなに? そんな形(かたち)のないものを信(しん)じるなんて…。男は嘘(うそ)をつくものよ。愛してるって言いながら、平気(へいき)で他の女を抱(だ)くことができるんだから。
式は、いよいよ誓(ちか)いの言葉(ことば)に――。夢では、ここで女が現(あらわ)れて…。彼女は唐突(とうとつ)に後(うし)ろを振(ふ)り返った。飛び出して来る女はいない。神父(しんぷ)さんの言葉が耳(みみ)に入ってきた。
「あなたは、この男を生涯(しょうがい)の伴侶(はんりょ)として、愛し続けることを誓いますか?」
彼女は、彼の顔をじっと見つめる。彼女の口が、もぞもぞと動(うご)いていた。
<つぶやき>彼女は「はい」と答(こた)えるのでしょうか? それとも、別の選択(せんたく)をするのか…。
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