みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1057「復職」

2021-04-27 17:46:34 | ブログ短編

「えっ…、君(きみ)の言ってること…よく分からないよ。君は貿易会社(ぼうえきがいしゃ)に勤(つと)めていたんだろ?」
 夫(おっと)は混乱(こんらん)していた。妻(つま)は、覚悟(かくご)を決(き)めたように話を続けた。
「ごめんなさい。本当(ほんとう)は諜報部員(ちょうほうぶいん)だったの。あなたと結婚(けっこん)したとき、辞(や)めたんだけど…」
「じゃあ、さっきの人は…。あの男は、浮気相手(うわきあいて)じゃ…」
「ち、違(ちが)うわよ。あの人は、その時の上司(じょうし)で…。ある情報(じょうほう)を、知らせにきてくれたの」
「どうして…。そういうことは、付き合ってるときに話してくれよ」
「あたしのこと…、嫌(きら)いになった? いいわよ、別(わか)れても…。その方が…」
「なに言ってんだよ。そ、そんなこと…。嫌いになるわけないだろ」
 妻は、夫に抱(だ)きついた。そして、夫の耳元(みみもと)でささやいた。
「よかった。じゃあ、このまま聞いて…。あたし、狙(ねら)われてるの。某国(ぼうこく)のスパイに…」
 夫は妻から離(はな)れようとしたが、妻は夫を強(つよ)く抱きしめて、「動かないで。あたしから離れないでよ。あたしが、ちゃんとあなたを守(まも)るから…」
 その時、窓(まど)ガラスが割(わ)れて何かが飛(と)び込んで来た。妻は夫を押(お)し倒(たお)して、テーブルを立てて盾(たて)にした。破裂音(はれつおん)とともに爆風(ばくふう)が巻(ま)き起こった。部屋(へや)の中はめちゃくちゃに――。
 妻は外(そと)の様子(ようす)をうかがいながら、「思ったよりも早く来ちゃったね。逃(に)げるわよ」
「えっ…。ちょっと待ってよ。家が……これ直(なお)すのに、いくらかかるかな?」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。あたし、復職(ふくしょく)するから。あたしの給料(きゅうりょう)で新しい家を買いましょ」
<つぶやき>妻には隠(かく)された顔があったのです。これから二人はどうなってしまうのか?
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