希美(のぞみ)は、翔太(しょうた)を呼(よ)び出して優(やさ)しい声で言った。「――もし、あなたが小百合(さゆり)に振(ふ)られても、私がいるから…。これは、保険(ほけん)よ。私のことは保険と考(かんが)えて」
翔太は戸惑(とまど)いながらも答(こた)えた。「君(きみ)は、それでいいのかい?」
「私のことは気にしないで。あなたは、勇気(ゆうき)を出して、小百合に告白(こくはく)して。私、応援(おうえん)してるから…。絶対(ぜったい)に上手(うま)くいくわよ。私が保証(ほしょう)するから」
「あ…、ありがとう。告白してみるよ。ずっと片思(かたおも)いじゃ、格好悪(かっこわる)いし…」
「うん。…それでね、もし…、もしもなんだけど、小百合に振られたときは、私と…付き合ってくれる?――あーッ、これは、もしもの話しだから…。ちょっと考えてくれると、嬉(うれ)しいなって…」
「えっと、それは…、どうかな? 今は――」
「分かってる、分かってるわ。今、そんなこと考えられないよね。ごめんね、ほんと…」
「じゃあ…、行ってくるよ。自分の思いを、伝(つた)えてくるから…」
「うん、行ってらっしゃい。頑張(がんば)ってね」
希美は、翔太を見送りながらブツブツと小さな声で呟(つぶや)いていた。
「振られて…、あなたは振られるのよ。そして、私と付き合いなさい」
翔太が突然(とつぜん)振り返って訊(き)いた。「えっ、なんか言った?」
<つぶやき>これは確信犯(かくしんはん)? 希美は、翔太が振られることを知っているのかもしれない。
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