得意先(とくいさき)を回って帰って来た社員(しゃいん)。机(つくえ)の上にメモが貼(は)りつけてあるのを見て呟(つぶや)いた。
「〈コウモト…センジ…ツ…ヘン…コ……〉ダメだ。これは…、何て書いてあるんだ?」
彼は隣(となり)の席(せき)の同僚(どうりょう)に訊(き)いてみた。すると、その同僚は答(こた)えて、
「ああ、それだったら、川本(かわもと)さんが貼ってったぞ」
そこで彼は女子社員の川本に訊いてみた。すると彼女は、
「それですか…。それは、平野(ひらの)さんから頼(たの)まれて…。もう、何て書いてあるのか分かんないですよね。あたしも解読(かいどく)しようと思ったんですけど、まったく読めませんでした」
平野…、彼は最近配属(はいぞく)になった新人(しんじん)だ。そこで彼は平野にそのメモを見せて訊(たず)ねた。
「これは誰(だれ)からだ? 僕(ぼく)の得意先の中にコウモトなんて人は思いつかないんだけど…」
平野はメモをチラリと見て答えた。「えっ、俺(おれ)ですか…、こんなの知りませんけど」
「知らないわけないだろ? これは君(きみ)が書いたんじゃないのか?」
「ああ、確(たし)かにそうですけど…。何だったかな…? すいません…、俺(おれ)には関係(かんけい)ないことなんで…。電話(でんわ)あった時、ちょうど忙(いそが)しかったんですよねぇ」
「君は…、なに言ってんだよ。もし大事(だいじ)な用件(ようけん)だったらどうするんだ?」
「もしそうなら、またかかってきますよ。俺だったら、そうしますから」
彼は、片(かた)っ端(ぱし)から得意先に電話をかけることになってしまった。
<つぶやき>伝言(でんごん)は正確(せいかく)に伝えなくてはいけませんよね。そうじゃないと大変(たいへん)なことに…。
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