海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「体制に刺さった棘」と題する『ドイツの波』の記事。

2009年10月18日 | 中国の政治・経済・社会
ミュンヒェンの「芸術の家」のファサードは、展覧会の表看板になった。100メートルある正面には、9000個の白・赤・青・黄・緑で彩られたプラスチックのランドセルが掛けられている。ランドセルの色の配置で「7年間、あの子は、この世で幸せに生きていました」という文章が中国語で書かれている。これは、2008年に四川省の大地震で校舎が倒壊したために死んだ娘についてその母親が言った言葉だ。「校舎は崩壊し、数千人の人間が消えた。数千人の子供たちも死んだのに、政府は彼らの名前を公表しようとしない」と艾未未(アイ・ウェイウェイ)は言う。
漢字で書かれたこの文章は、ミュンヒェンの中心に告発者のように立っている。展覧会を見る前に、その文字は、中国の腐敗した政治家に注意を向けさせる。なぜならば、艾未未は、彼らが数千の学童の死に対して責任があると言っているのだ。校舎を建築する際、手抜き工事が行われたからこんなことになったのだと彼は信じている。だが、「この國にとっては、貧しい者の権利はどうでもいいのです」と彼は嘆く。
 艾未未の芸術は、中国における彼の政治的参加の表現だ。彼の作品は、現実の変化を糾弾している。そういうわけで、彼は6000年以上経っている新石器時代の壺に安っぽくどぎつい色の工業用ペンキを塗る。彼は築後数百年経っていたが、近代的な建物やショッピング・センターを建てるために取り壊された寺院の材木や机で仕事をしている。幾つかの作品では、彼は幅30センチある板で古代の木製の机の天板をぶち抜いている。こうして出来上がったオブジェは、がっしりしていると同時に同時に優雅だ。「文化大革命の間、非常に価値のあるものを壊した人は、良い毛沢東主義者でした。私たちは歴史的な作品に対して、今でも全く敬意を払わないのです」と艾未未は言う。伝統的な中国の美学から見ると、これらの作品は、古いものすべてを遠慮なく破壊する近代化の野蛮さを反映している。
 知識と記憶とをコントロールしようとすることは、独裁政の本質に属している。中国では、若い人たちは、1989年6月の民主化運動の弾圧(天安門事件のことを指している)について一度も聞いたことがない。1930年代のドイツにおけるナチの宣伝も、何を思いだしてよいか、何を思いだしてはならないかを定めていた。艾未未は、ミュンヒェンの「芸術の家」で、この統制を取り上げているが、彼はヒトラーがこの建物をドイツ芸術のために、--ヒトラーが頽廃していないと考えた芸術作品ために、--建てさせたということを示唆している。この建物の大きな中央ホールに、艾未未は、長さ35メートルのジュウタンを敷いた。最初はそれは目につかない。なぜなら、彼は、元の床タイルの色や木目を正確に再現しているからである。このジュウタンの上に、艾未未は、100本の木の根や木の部分を置いた。表面下にあるものは、彼の作品では上に向けられており、そこにあったものが、目立つようになっている。
 「私はこの体制と取り組まざるをえないのです。なぜなら、もし、私が何も言わなかったら、私は体制の一部になってしまいます。でも、私は北京に住んでいるから、芸術家として中国と政治的に対決しなければなりません。」それゆえ、彼は、おそらく再び中国に戻るだろう。なぜなら、彼は公然たる批判者、体制に突き刺さった棘でありたいからである。
[訳者のコメント]この記事を載せた「ドイツの波」というのは、海外向けの放送局です。ドイツ連邦外務省の管轄下にあるのではないかと思います。
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