海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「海賊に対する戦いの中で役割についての論争」と題する『ヴェルト・オンライン』の記事。

2009年03月07日 | 外交問題
ベルリン発:二つの省が、海賊との戦いにおける役割について争っている。内務省は、外務省に対して、これまで、拘留された海賊の訴追についてドイツと第三国との協定を結ばなかったという理由で、外務省の怠慢を非難している。外務省はこの非難を退けた。
両省でそれと分かる不機嫌の原因となっている対立の背景は、今週、火曜日にドイツの商船「MVクーリエ」を攻撃し、救助に駆けつけた護衛艦「ラインラント・プファルツ」号に逮捕された9人の海賊を巡っている。
 一昨日、同艦上に抑留されている9人逮捕者の取り扱いを巡って管轄を超えた研究委員会は、何の結論も出せなかった。昨日午後、公表された委員会の説明では、「連邦政府は、海賊容疑者達が、刑事裁判を受けるように第三国に引き渡されるかどうか、熱心に検討した。」この決定は、まだされていないけれども、『ヴェルト』紙の入手した情報によると、「ラインラント・プファルツ」号は、アデン湾から公海に出て、モンバサに向かって航行中とのことである。明らかに海賊達は、このケニアの港町で裁判所に引き渡されるはずである。
 内務省と外務省の言い争いに火を付けたのは、ヴォルフガング・ショイブレ内相の報道官であるシュテファン・パリスである。彼は、一昨日、シュタインマイヤー外相に率いられた外務省が海賊引き渡しと裁判に関する二国間協定を第三国との間で先月中に作成しなかったと述べた。欧州連合が2008年9月に連邦内閣で決議された反海賊軍事作戦「アタランタ」に対するこのような規定を取り決めたということが、欧州連合に対して十分に働きかけられなかったと述べた。
 外務省の報道官は、この非難を退けた。第三国協定についての欧州連合とケニア政府との間の取り決めについては、十分に話し合われた。その取り決めは、近日中に、署名される予定である。
 外交筋では、内務省の攻撃について、遺憾の意が表明された。ショイブレ内相の代理は、欧州連合レベルでの話し合いに参加していたが、二国間協定も必要だとは主張しなかったそうである。
 内務省では、フランスと英国は、同様に、このような二国間協定を持っていると主張されている。しかし、そのような協定は、欧州連合との話し合いによって、ドイツにとっては不必要だと外務省は述べている。
 ベルリン政府は、難民申請に対する配慮から、海賊を裁判にかけたくない。確かに、「MVクーリエ」号はドイツの船であるが、それはドイツの国旗を掲げておらず、ドイツ人の船員もいない。それゆえ、「ドイツが刑事訴追する十分な利害関心はない」とパリス報道官は主張した。
 けれども、公海での海賊行為に対して責任を持っているハンブルク検事局は、水曜日に、船舶航行に対する攻撃未遂のかどで容疑者の逮捕状を請求した。
[訳者の感想]海賊を逮捕したのはいいが、そのあとどうするかで、外務省と内務省とがもめています。内務省はドイツで裁判にかけたいのでしょうか。そんなことをすると釈放されたあとで、元海賊がドイツに難民申請する可能性は大きいと思いますが。
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「日本と合衆国は、北朝鮮について憂慮している」と題する『新チューリヒ新聞』の記事。

2007年04月28日 | 外交問題
二日間のアメリカ訪問の締めくくりとして、日本の安部晋三首相は、ブッシュ大統領との共同記者会見で、北朝鮮が核武装論議で譲歩しない場合、より強硬なやり方に賛成した。ブッシュもアメリカとその同盟国との忍耐には限りがあると断言した。彼らの対話においては、両首脳は、初めから明らかに状況判定における完全な一致を目指していたなかった。だが、正直な意見の交換について語ったということは、外交上の隠語では、かなりの相違があったことを示唆している。
二月に北京で開かれた六者協議で目指された協定の実施に際して、遅延が生じた。北朝鮮は、4月14日までに寧辺にある核反応炉を停止し、国際原子力機関の査察を受け入れるという期限を取り消した。平壌は、この遅延の責任が凍結された北朝鮮の銀行預金を巡る議論の未決着に責任があると主張している。日本は、北京協定で米国が北朝鮮に対して余りに譲歩したという疑惑が裏書きされたと考えている。
米国産牛肉の輸入に対する二国間の争いには、何の進展もなかった。昨年夏、日本が輸入禁止措置をゆるめ、生後20ヶ月以内の牛からの牛肉の輸入を例外として認めた後で、議論は机上から消えたように見える。だが、米国は、もっと年齢が上の牛からの牛肉とより広い範囲の部分の輸入を望んでいる。日本は、BSEの危険が今後もあると考え、背骨を含む危険な部位を輸入したくない。ブッシュは、米国がこの健康上の憂慮は根拠がないということを明らかにし、日本からの使節団に牛肉とハンバーグを振る舞った。
安部首相は、政府首脳としては、初めて米国を訪問した。彼の前任者である小泉は、ブッシュと非常に友好的な関係を育てたが、それは米国にとっても政治的に引き合うものだった。安部の滞在中、アメリカ側は、両首脳とその妻達がより良く知り合うように、家庭的な雰囲気を作るのに努めた。ホワイトハウスでの儀礼的な晩餐会の後で、両首脳は、金曜日、キャンプ・デイビッドにある大統領の別荘で数時間過ごした。
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「米軍移転の負担を分け合う困難」と題する『ガーディアン』紙の記事。

2006年05月14日 | 外交問題
米国と日本はかれらの軍事同盟がアジア太平洋地域で最も重要であるということを世界に思い出させる機会を無駄にすることは稀である。
だが、第二次世界大戦以来日本に駐留する米軍の再編成の詳細を解決する段になると、東京とワシントンは、困ったことに、金が外交的意図と同じぐらい声高にものを言うのを発見しつつある。
世界の二つの最大の経済大国が数千人の海兵隊員を日本から米国へと送還するためのうまい汁を誰が払うのかについて言い争っているが、過去数日が示しているように、最低線よりも遥かに多くのものが問題となっている。
去年10月、両国は8千名の海兵隊員を沖縄からグアム島に移転することに合意した。
多くの沖縄島民にとって、海兵隊員とその家族の引っ越しは早すぎるということはあり得ない。この島は日本の全領域の一部であるが、在日米軍総数3万5千人の75%を抱えている。
 米軍の足跡を削減する試みにおいて、日本は友情が高くつくということを学んでいる。
 米国は、海兵隊のグアム島への移転費用が100億ドル(1兆1千億円)かかるだろうと見積もっており、日本が勘定書の75%を負担することを要求している。これまで日本は、30億ドル(3千300億円)支払うこと、さらに残り30億ドルは低利の借款で供与することに同意した。
 小泉政権は両国同盟に対する責任と日本の納税者に対する義務とを天秤にかけるねばならない。日本の納税者は世論調査によれば、政府が彼らの客の帰国費に一文も出すべきでないと望んでいる。
 両者は、海兵隊移転に決着をつけるデッドラインである3月31日を既に逃している。4月中旬に東京で行われた協議は余り進展しなかった。
 五月の初頭に起こりそうな取引についての米国の交渉者の肯定的な声は、一方(日本)が両国の間にある重大なキャップと表現しているものの兆候を隠すことは出来なかった。
法的にはそうする必要はないのだが、日本は既に米軍基地に対して年額2,350億円を支払っている。それは駐留経費の70%に相当する。
 多くの日本人は追加の要求が我慢できないと思っている。
「この要求は度はずれたものだ」と『ジャパン・タイムズ』は社説で述べた。「米軍施設と人員を米国の領土内に移転する費用を相手国政府に出させるということは殆ど前代未聞だ。」同様のドイツ駐留の米軍の再編は、米国政府が負担した。批評家達は40億ドルと見積もられたプロジェクトのために結局二倍以上の費用がかかるということがどうして可能なのかと質問した。その答えは、日本は再配置のための費用を出せと頼まれているのではなく、グアム島における家屋の建設や海兵隊の新居のための設備の費用もだせと頼まれているということであるようだ。もし日本人が譲歩すれば、アメリカ人達は幸せだと考えるかもしれない。グアム島への移転は、結局、太平洋におけるアメリカのプレゼンスを強化しようとするブッシュ政府の努力の一部なのだから。(以下省略)
[訳者の感想]4月18日にジャスティン・マッカリー記者が書いた記事です。アメリカの極東戦略の中に日本はますます組み込まれているようです。小泉政権は結局少し値切るぐらいしかできないのではないでしょうか。
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「日本、産業スパイと戦う」と題する『アルジャジーラ』局の記事。

2006年04月17日 | 外交問題
彼の向かい側の男は、彼の頭の中にある価値ある秘密を漏らさせるのがどれぐらい難しいか、どれぐらいの金がかかるか値踏みしている。
産業スパイと技術上の秘密のやりとりは、日本では当たり前になりつつあるので、新しい法律は日本の地域的競争者への知識の流出を食い止める試みとして書かれている。
警視庁は、昨年、ロシアの通商代表部のメンバーの一人が東芝子会社の従業員に八ヶ月間、半導体に関するデータを提供する見返りに91万円を支払ったことを明らかにした。
東京駐在のロシアの役人は、日本側の主張に対してアルジャジーラに語ることを拒否した。
価値のある技術の流出を食い止める試みにおいて、小泉首相が座長を務める知的財産権戦略司令部の事務局は、間もなく法律化されるプログラムを立案中である。
「知的財産の保護は、日本では重大な問題であり、われわれはこの包括的な提案が日本の会社に対する脅威を軽減することを希望している」と事務局のスポークスマンは、アルジャジーラ局に語った。
 上記の出来事は、1989年以来日本の警察が東京駐在のロシアの通商代表部が絡んだ産業スパイを調査したのはこれで五度目である。
 2002年の事件では、通商代表部代表は日本の自衛隊の隊員からミサイル技術を買おうとした。警察によると、彼が最初に東芝の社員に近づいた時、その男はイタリア人のコンサルタントであるように見せかけた。この授業員の名前は明かされておらず、罪に問われてもいない。
「その男は、ロシアとは違う国から来たと言い、彼の仕事はビジネス・コンサルティングと関係があると述べた。後で私は何処かおかしいと思ったがその理由は、彼の仕事に不必要な書類を私に頼んだからだ」と東芝の社員は警察に述べた。
「私はその金を娯楽に使った」と彼は言った。
 そのロシア人の男は、東芝社員の申し立てが公表される前に、離日した。警察庁は、彼の再入国は認められてはならないという命令を出した。
 報道されたところによると、装置は、戦闘機やミサイル誘導システムや潜水艦に応用される。
 これらの産業スパイが行われる原因の一つは、日本の人口である。リスク・コンサルタントの「クロル」の支配人であるマイク・オキーフは、日本の労働力が高齢化し、定年に近づいている多くの技術者には、彼らを待っている退職金が余り多くはないだろう思っている。
「彼らのある者は、早期退職を取って、そのまま飛行機に乗って中国へ行き、日本の競争者である中国を助けようとする。ある者は、退職を待たないで、週末に彼の知っていることを譲り渡すのだ」と彼は言った。
 しかし、東芝の社員は、ロシアのスパイが求めた半導体の能力や価値を否定した。
「秘密の半導体は、トランジスターやダイオードなどカラーテレビや他の家電製品に使われている簡単な装置だ」と東芝の役員のケイスケ・オオモリは述べている。
「それは日本の貿易統制法の下で輸出ライセンスを必要とする高度のテクノロジーや製品やサービスを含んでいなかった。」
 オキーフの言うところでは、「誰もがハイテクの秘密をほしがっており、それを護ることは、チャレンジだ。特に日本ではセキュリティーが余り高くない。」
 工場や研究センターの周りの物理的なセキュリティーがしっかりしていても、こういった場所は、データ泥棒が彼らの商品を買いに行く場所ではない。
「窓を壊してつかみ取るタイプの盗みは、非常に稀である。なぜなら、保護されたデータがどこに蓄えられているかを見つけ出すのは難しいからだ。」
 求められている知識とノウハウは、コンピューター・チップを作るのに必要な高度の技術から、シリコン・ウエファーを磨いたり、特殊なプロセスで用いられる一種のバクテリアを捕まえる手段にまで及んでいる。
 「中国は20年前あるいは30年前の日本の技術段階にいるので、日本の技術に追いつこうとしている」とオキーフは言った。「中国は技術上の指導者を恐れており、過去にテクノロジーを悪用した人々(日本人のこと)に追いつく権利があると信じている。日本は、1937年に中国を侵略し、南京で30万人の民間人を虐殺したことを責められている。
[訳者の感想]筆者はアルジャジーラ・テレビの東京特派員であるジュリアン・ライアル記者です。「セキュリティが弱い」というオキーフの指摘は正しいと思います。それはウイニーを通じて自衛艦のデータが流出したという事件でも明らかです。
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「平和は来ないが、ビジネスはうまく行っている」と題する『ヴェルト』紙の記事。

2005年11月22日 | 外交問題
小見出し:千島を巡る争いが、東京での日ロ会談に影を落としている。
モスクワ発:ロシアと日本の間の千島列島を巡る紛糾した問題は、未解決のまま残っている。この問題については、昨日東京で行われたプーチンロシア大統領と小泉首相との間の会談も何も変えることができなかった。
二人の政治家は、改めて、この問題を解決するためにあらゆる努力をすることを保証した。「そのために自分は東京へ来たのだ」とプーチンは会談後の記者会見で言った。そのために日本の首相はモスクワに来るだろう。
プーチンの訪問は、ロシア側でも日本側でも激しい抗議に見舞われた。ユジノサハリンスクでの集会では、デモ隊はロシア大統領に「彼はロシア領土の返還をはっきり断るべきだ」と要求した。「千島列島は、昔からロシアの領土だ。小泉よ、第二次大戦の結果を変えようとするな。」とプラカードには書かれていた。プーチンは、東京では「イワンよ、ゴー・ホーム!」「秘密警察は帰れ!」という呼び声に直面した。
争いは、千島列島のうち、歯舞、色丹、択捉、国後の四島を巡って行われている。これらの島々は、1945年にソヴィエト連邦によって占領された。東京はこの四島の返還を要求している。昨年11月、セルゲイ・イワノフ・ロシア外相は、ロシアは、色丹と歯舞を返す用意があると言明した。但し、それ以前に、平和条約が締結されなければならない。日本人は、これまで彼らが「北方領土」と呼んでいる島々の部分的返還を認めていない。この問題に対する共通の文書は存在しない。「この問題を解決するために、われわれはあらゆることをするだろう」とプーチンと小泉は東京で改めて保証した。「ロシアと日本は、この問題に共同して信頼をもって取り組むことについて意見が一致した。」
プーチン大統領は、これとの関連して、平和条約がこれまで締結されなかったことがいろいろな関係に対して障害となっていることを指摘した。にもかかわらず、一ダースほどの経済協定は示すように、貿易と交流とは盛んである。その中には、ロシアが計画している石油輸送パイプについての協定がある。東シベリアのタイシェットから太平洋までの輸送管が建設される予定である。そこから原油は日本や東南アジア諸国へ輸送される予定である。
11月22日の記事です。
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「11月に朝鮮戦争が始まるか?」と題する『ヴェルト』紙の記事。

2005年05月13日 | 外交問題
北京発:ある高位の中国人北朝鮮通は、中国によって組織された平壌の核開発を解決するための六ヶ国協議が挫折したと見なしている。彼は、遅くならない内に、すべての参加国が北朝鮮政策における「180度の転換」することを要求している。「年末ぐらいに、米国と北朝鮮との間の戦争になるかもしれない。われわれはますます急激にエスカレーションへと滑り込んでいる」と中国党大学の国際戦略問題のチャン・リアンギ教授は述べた。チャン教授によると、「余りに多くの人が、北朝鮮は、交渉においてより高い代価を狙うために、核武装を使ってポーカーをやっているのだと思っている。われわれはそれについて幻想を抱くことを止めるべきだろう。」
ますます多くの中国の研究者達は、北朝鮮が六ヶ国協議によって核武装を譲歩することはありえないという点でチャン教授に同意している。平壌は、2月10日に、とっくに核兵器を所有しているということを初めて公に告知したとき、一線を越えてしまったのだ。
チャン教授にとっては、事態は明らかである。アメリカと日本にとっては、北朝鮮の核武装を国連総会に懸ける以外の他の選択はもはや残されていない。「それは国際社会による北朝鮮の断罪と同様、避けることができない。」両方のこと(北朝鮮の核武装を安保理に付託することと北朝鮮を断罪すること、)は、9月か10月に起こるかもしれない。北京は、その議決に反対する何らの理由もない。「われわれは核のない朝鮮半島を望んでいる。ところが北朝鮮は核武装をしてしまった。われわれは六者協議を組織したが、平壌はそれから下りてしまった。われわれは対決は望まないが、平壌は対決へ向けて突き進んだ。」アメリカは結局経済制裁をするように迫るだろう。11月には北朝鮮が(国連総会を)ボイコットするかもしれない。そうなったら、アメリカと北朝鮮との衝突は、もはや止められない。北朝鮮の分析で有名な61才の研究者は、悲観的な見通しによって、北京政府の希望とは反対の立場をとっている。北京政府は、引き続き平壌との交渉に賭けている。「新しい状況は、われわれれに特に慎重に振る舞うことを要求している。六ヶ国協議への復帰が核問題解決の唯一の道である」と中国外交部の孔泉報道官は言う。もっとも孔泉報道官は、中国がどのようにして、圧力を加えることなく、北朝鮮を話し合いへと説得するつもりなのかは、漏らすことができなかった。
5月13日号の『ヴェルト』紙に掲載されたジョニー・エルリング記者の記事です。
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「六ヶ国協議は、なぜうまくいかないのか」と題する論説。

2005年05月07日 | 外交問題
これも「ジェームズタウン財団」のホームページに掲載された論説です。筆者はジ・ユウ(中国系の人だろうと思います。)という人で、オーストラリアのニュー・サウス・ウエールス大学の政治学・国際関係論講師だそうです。
 なぜ、六ヶ国協議は、うまくいかないのか?主な理由は、北朝鮮がアメリカの政権を変えようとする戦略に対する対抗手段として大量破壊兵器を保持しようと決断しているからである。しかし、六ヶ国の間の優先の順位が違っていることも、どのようにして北朝鮮に圧力をかけるかという問題の要因となっている。
 米国も中国も平壌の核計画を終わらせるために平和的手段を用いることに同意してる。けれども中国にとっては、北朝鮮の非核化は、戦争の回避に比べれば二次的な目標である。今年二月、北京は初めてこの議論がどのように解決されるかについて関心があると述べた。話し合いによる決着以外の方法は、戦争に至る点まで緊張をエスカレートするかもしれないという北朝鮮の脅しを深刻に受け取った。なぜなら、それは中国にとっては破滅的であるからである。北京にとっては、戦争を防ぐことは、どんな犠牲を払ってでも追求されなければならないからである。これは六ヶ国協議に関するアメリカの優先事項に矛盾する。ワシントンにとては、軍事的オプションは、目下はオプションではないが、もし、多国間の枠組みが行き詰まれば、そのオプションは、適用可能である。
 優先性の順序は、六者協議の長期的結果に対して重大なインパクトを与える。例えば、戦争回避を強調することは、敏感な問題であり、他の参加者によって、歓迎されるだろう。しかしながら、それは間接的に平壌を助けるかもしれない。話し合いが長引けば、その間に北朝鮮は、核物質を武器化することができる。更に、平和的手段を強調することによって、北京は実現可能な解決を見いだす道として北朝鮮の安全保障をオウム返しに繰り返すようになる。結果として、北京は、アメリカが文書で北朝鮮の安全を保証することが六者協議の目標にとって、必要であるだけでなく、本質的であると見なしている。最後に、平和的解決を強調することは、取引決着にいたる段階的で並行的なプロセスに好都合な立場に中国を追い込む。つまり、アメリカの安全保障プラス平壌の核施設の撤去と引き替えに石油資源を補償するというプロセスである。
 このような解決は、アメリカの目標と明らかに抵触する。ワシントンによれば、圧力を最大にすることは、平壌をその誓約の感じられる評価へともたらすための前提条件である。これは軍事的威嚇のレベルに基づかなければならない。それゆえ、先制攻撃を完全に除外することはできない。過去二年間、アメリカは、イラクで手一杯だったし、北朝鮮の言い逃れ戦術を大目に見なければならなかった。ワシントンも別の戦術を展開するには時間が必要であることは、言うまでもない。六者協議は、この背景の中では最善のメカニズムであった。しかし、今や状況は変わった。イラク問題は解決の目途が見えてきた。六者協議の非効率性によって、ワシントンは、北朝鮮に圧力を加える別のオプションを考えなければならないと考えている。
 北朝鮮の安全を保証することは、アメリカ政府の関心事ではない。文書で安全を保証することは、政治的には危険であり、ブッシュ政権にはイデオロギー的に受け入れられない。核施設の停止と引き替えに発電所や石油の供給をすることは、アメリカの欲するところではない。失敗した合意の枠組みの教訓から学ぶことによって、ワシントンが、核施設の完全で検証可能な不可逆的な廃棄を要求することは、論理的である。事実、ワシントンは、リビア・モデルを北朝鮮に適用しようとしている。国連大使に任命されたボルトンは、リビアが大量破壊兵器の開発を止めたことに対して代償を与える気はない。その代わりに、リビアが国際社会に再び入ることを許しただけである。アメリカは、北朝鮮の協力に平壌が置いた高い代価をゆすりだと見なしている。合意の枠組みに同意させるために北朝鮮に賄賂を使ったのだとクリントン政権を批判しているブッシュ政権にとっては、多額の代償は問題外である。
 北京はリビア・モデルについては沈黙しているが、私的には、中国のアナリストは、それが北朝鮮にも適応可能であるかを疑っている。なぜならば、北朝鮮は、国際社会に復帰することを気にしていないからである。北朝鮮の唯一の関心事は、政権の存続である。更に、リビアは、豊富な石油資源を持っているが、北朝鮮は、絶望的に代償と援助に依存している。それゆえ適当な代償がなければ、北朝鮮は核施設を決して廃棄しないであろうと中国政府は考えている。(以下省略)
[訳者の感想]この論説を読んで、六者協議が開かれない理由が、どこにあるかがよくわかりました。
 
 
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「日中対立における台湾の役割」と題するジェームズタウン財団の雑誌の論文。

2005年05月05日 | 外交問題
「ジェームズタウン財団」のホームページで見つけた論説です。書かれたのは、反日デモが始まる少し前です。
 中国の温家宝首相は、全国人民代表者会議後の記者会見の重要な部分を中国と日本の関係に費やし、台湾問題に手を出さない場合、彼の言う「三原則と三つの推薦」で東京にオリーブの枝を差し出した。
 しかし、日中関係を明らかに変えたのは、2月19日の日米共同宣言であった。それは1960年の日米安保条約に対する最初の根本的修正であった。この宣言は、東アジア地域での中国の増大する力と対決するという東京の覚悟であり、アジアと世界の舞台での日本の新たに見いだされた自己主張であると受け取られた。東京とワシントンの同盟を強調することによって、それは台湾と海峡の両側との関係がこの地域における日本と中国の増大する対立的関係においてどれほど基本的な決定要素になったかを明らかにした。
 アジアにおける日本と中国の対立関係は、2004年末の津波災害の余波において、はっきりと見られた。温家宝首相と小泉首相は、2005年1月6日にジャカルタで開かれたASEANが組織した「津波サミット」で二つの大国が示した大きな注意を強調した。そうすることで、両方の国は、地域のリーダーシップと力と地位とを明確に伝えようとした。
 東京が国連安全保障理事会の常任理事国になろうとするとき、日本と中国の対立関係は、増大することは確かである。中国は日本の立候補に公然と拒否権を発動はできないだろうが、承認を日本からのある譲歩と結びつけることによって、東京の地域的国際的野心を鈍らせようとするかもしれない。台湾は、アジアの他の国々と同様、このゲームにおいて重要な決定要素をなしており、最終的な結果における取引の札となるかもしれない。
「台北の戦略的価値」
 台湾が日中関係における戦略的決定要素となる四つの主な仕方がある。
第一に、台湾は、日本にとって中国の南からの軍事的進出に対する重大な関門であると考えられている。だから、この島は、日本にとって防衛上の至上命令を表現している。それは中国がそれ自身の戦略的計算において認めていることである。日本の国際関係研究所からの資料によれば、中国の海軍は、北のサハリン島から南は沖縄まで、西は台湾から東はフィリピンまで、日本周辺とその太平洋沿岸へのアクセス経路を探ってきた。これらのアクセス経路は、万一、中国の潜水艦が紛争の際に日本を攻撃する場合には、決定的に重要である。
 この「中国の脅威」は、最近、日本の白書の中で分析され、日米共同宣言の中に挿入された。台湾を失うことは、中国の潜水艦が南から日本の水域に入ること可能にし、こうして南シナ海から日本を海軍力で包囲するのを容易にする。こうして、台湾は、日本の水域への自然の関門として存在している。昨年11月の潜水艦事件は日本の不安を単に増大しただけであった。更に、中国現代国際関係研究所から来た中国人研究員は、私的にこの戦略的計算を認めている。
第二に、台湾は、日本・韓国・台湾・フィリピン・オーストラリアに対するアメリカの戦略的安全保障の傘を表現している。日本は、力を強めている隣人に対して、この傘を維持しようとしている。明らかに中国は、これをアジアに対する自分自身の戦略的関心にたいして敵対的であると感じている。台湾より北にある沖縄は、アメリカの戦略的配置点であって、東京はそれをアジアの舞台への中国の進出に対する決定的なバランスであると見ている。
 この理由で、日本は台湾へのアメリカの180億ドルの武器売り込みについて公式には慎重であったが、私的には、それを支持している。日米共同宣言を謳った後でのみ、東京はこの問題で公然と口に出すことができた。ミサイル防衛構想に対する台湾と日本の支持は、自分が狙われているという北京の恐れを更に高めた。明らかに台湾は中国と日本及びアメリカの間の地政学的争いの接点にいる。
第三に、日本との台湾の歴史的文化的近親関係は、特に東京にとって自信を持たせるものであり、心地よいものである。これに対して、北京は、台湾における中国的ナショナリズムや忠誠心の欠如や「台湾分離主義者」と日本の「右翼」との間の危険な結びつきを見ている。台湾と日本との歴史的文化的親近性や、台湾に対する日本の公衆の明らかな共感や台湾の人権や民主主義に対するスタンスも最初の二つの戦略的考慮を支えている。日本は、1895年に台湾を領有し、戦後に台湾を失うまで、統治した。文化的に、日本のポップ音楽は、台湾の若者を魅了し、台湾人のエリートや政治家は、李登輝元総統のように、日本の大学で教育を受けた。実際、中国や韓国とは違って、台湾では日本は温情ある支配者だったと感じられている。日本人と台湾人との間の相互の共感は、非常に大きいので、台北が大陸に復帰したら、日本についての感じ方の相違は、厄介な問題の一つとして浮上するだろう。
 この日本に対する高い評価が、台湾にはナショナリズムが欠如していると批判するように北京を刺激するのである。
 北京は、台湾の「分離主義者」と日本の「軍事的右翼」とを結びつける。李登輝伝説は、この点に光を当てる。北京は、李登輝が日本の右翼や大陸を再び征服しようという夢を捨てない軍部の中の勢力の協力者であると非難している。北京は、昨年秋、石原慎太郎東京都知事の不幸な台湾訪問について苦情を述べた。台湾の「分離主義者」と日本の右翼軍国主義者の間の結びつきは、台湾を今一度中国と日本の間におくのである。
 最後に、台北との日本の貿易・投資・経済関係は、強くかつ多面的である。日本は、大陸とのよりよい関係のためにこれらの結びつきを放棄したくないのだ。だが、北京は、台湾が北京に対して日本カードを使うだろうと疑っている。日中と中台の経済関係は、過去三年の間に劇的に増大した。2003年には中国と日本との貿易額は、1,335億ドルに達した。台湾と中国の間の貿易額は、584億ドルである。台湾の中国に対する投資額は、1億ドルに留まっている。
 日本と台湾にとって、北京は決定的な経済パートナーとして現れているにもかかわらず、日本と台湾との間の経済関係は、依然として健全で重要である。北京は台北が、日中関係を損なうために、東京で「中国の脅威」をこれ見よがしに見せていると疑っている。更に、東京が今年一月に東シナ海での天然ガス試掘の許可を民間会社に与えることを決定したように、東シナ海での天然ガス開発問題がある。現在、日本と中国は、互いにこの地域で排他的経済水域を主張している。台湾は、偶然にこの争いに巻き込まれるかもしれない。
(結論)
 それゆえ、台湾は、アジアにおける支配を巡る中国と日本の権力闘争に巻き込まれるように運命づけられている。戦略的歴史的文化的決定要素が台湾を多くの問題についての決定的ファクターにしている。その問題のいくつかは、アジア太平洋におけるアメリカの未来に関わっている。クアラ・ルンプールで開かれる今年の東アジア・サミットがアメリカを排除するように、アメリカの役割は既に減少しているかもしれない。
[訳者の補足]この論説の筆者エリック・テオ・チュウ・チョウ氏は、シンガポールの「国際問題研究所」のCouncil Secretaryであり、シンガポールのSavoir Faire Corporate Consultantsの支配人であるようです。中国の反日デモの前にこのような論説が書かれていたのは、スゴイと思いました。もっともこの論説を掲載した「ジェームズタウン」財団は、チェイニー副大統領と近い、アメリカのネオコン系の財団らしいので、逆にブッシュ政権が、日中問題をどう見ているかを知るのには都合が良いかもしれません。日本の軍関係の中に中国をもう一度征服しようと考えている人たちがいるという中国側の疑惑は、被害妄想だとしか思えません。
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