海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「日中対立における台湾の役割」と題するジェームズタウン財団の雑誌の論文。

2005年05月05日 | 外交問題
「ジェームズタウン財団」のホームページで見つけた論説です。書かれたのは、反日デモが始まる少し前です。
 中国の温家宝首相は、全国人民代表者会議後の記者会見の重要な部分を中国と日本の関係に費やし、台湾問題に手を出さない場合、彼の言う「三原則と三つの推薦」で東京にオリーブの枝を差し出した。
 しかし、日中関係を明らかに変えたのは、2月19日の日米共同宣言であった。それは1960年の日米安保条約に対する最初の根本的修正であった。この宣言は、東アジア地域での中国の増大する力と対決するという東京の覚悟であり、アジアと世界の舞台での日本の新たに見いだされた自己主張であると受け取られた。東京とワシントンの同盟を強調することによって、それは台湾と海峡の両側との関係がこの地域における日本と中国の増大する対立的関係においてどれほど基本的な決定要素になったかを明らかにした。
 アジアにおける日本と中国の対立関係は、2004年末の津波災害の余波において、はっきりと見られた。温家宝首相と小泉首相は、2005年1月6日にジャカルタで開かれたASEANが組織した「津波サミット」で二つの大国が示した大きな注意を強調した。そうすることで、両方の国は、地域のリーダーシップと力と地位とを明確に伝えようとした。
 東京が国連安全保障理事会の常任理事国になろうとするとき、日本と中国の対立関係は、増大することは確かである。中国は日本の立候補に公然と拒否権を発動はできないだろうが、承認を日本からのある譲歩と結びつけることによって、東京の地域的国際的野心を鈍らせようとするかもしれない。台湾は、アジアの他の国々と同様、このゲームにおいて重要な決定要素をなしており、最終的な結果における取引の札となるかもしれない。
「台北の戦略的価値」
 台湾が日中関係における戦略的決定要素となる四つの主な仕方がある。
第一に、台湾は、日本にとって中国の南からの軍事的進出に対する重大な関門であると考えられている。だから、この島は、日本にとって防衛上の至上命令を表現している。それは中国がそれ自身の戦略的計算において認めていることである。日本の国際関係研究所からの資料によれば、中国の海軍は、北のサハリン島から南は沖縄まで、西は台湾から東はフィリピンまで、日本周辺とその太平洋沿岸へのアクセス経路を探ってきた。これらのアクセス経路は、万一、中国の潜水艦が紛争の際に日本を攻撃する場合には、決定的に重要である。
 この「中国の脅威」は、最近、日本の白書の中で分析され、日米共同宣言の中に挿入された。台湾を失うことは、中国の潜水艦が南から日本の水域に入ること可能にし、こうして南シナ海から日本を海軍力で包囲するのを容易にする。こうして、台湾は、日本の水域への自然の関門として存在している。昨年11月の潜水艦事件は日本の不安を単に増大しただけであった。更に、中国現代国際関係研究所から来た中国人研究員は、私的にこの戦略的計算を認めている。
第二に、台湾は、日本・韓国・台湾・フィリピン・オーストラリアに対するアメリカの戦略的安全保障の傘を表現している。日本は、力を強めている隣人に対して、この傘を維持しようとしている。明らかに中国は、これをアジアに対する自分自身の戦略的関心にたいして敵対的であると感じている。台湾より北にある沖縄は、アメリカの戦略的配置点であって、東京はそれをアジアの舞台への中国の進出に対する決定的なバランスであると見ている。
 この理由で、日本は台湾へのアメリカの180億ドルの武器売り込みについて公式には慎重であったが、私的には、それを支持している。日米共同宣言を謳った後でのみ、東京はこの問題で公然と口に出すことができた。ミサイル防衛構想に対する台湾と日本の支持は、自分が狙われているという北京の恐れを更に高めた。明らかに台湾は中国と日本及びアメリカの間の地政学的争いの接点にいる。
第三に、日本との台湾の歴史的文化的近親関係は、特に東京にとって自信を持たせるものであり、心地よいものである。これに対して、北京は、台湾における中国的ナショナリズムや忠誠心の欠如や「台湾分離主義者」と日本の「右翼」との間の危険な結びつきを見ている。台湾と日本との歴史的文化的親近性や、台湾に対する日本の公衆の明らかな共感や台湾の人権や民主主義に対するスタンスも最初の二つの戦略的考慮を支えている。日本は、1895年に台湾を領有し、戦後に台湾を失うまで、統治した。文化的に、日本のポップ音楽は、台湾の若者を魅了し、台湾人のエリートや政治家は、李登輝元総統のように、日本の大学で教育を受けた。実際、中国や韓国とは違って、台湾では日本は温情ある支配者だったと感じられている。日本人と台湾人との間の相互の共感は、非常に大きいので、台北が大陸に復帰したら、日本についての感じ方の相違は、厄介な問題の一つとして浮上するだろう。
 この日本に対する高い評価が、台湾にはナショナリズムが欠如していると批判するように北京を刺激するのである。
 北京は、台湾の「分離主義者」と日本の「軍事的右翼」とを結びつける。李登輝伝説は、この点に光を当てる。北京は、李登輝が日本の右翼や大陸を再び征服しようという夢を捨てない軍部の中の勢力の協力者であると非難している。北京は、昨年秋、石原慎太郎東京都知事の不幸な台湾訪問について苦情を述べた。台湾の「分離主義者」と日本の右翼軍国主義者の間の結びつきは、台湾を今一度中国と日本の間におくのである。
 最後に、台北との日本の貿易・投資・経済関係は、強くかつ多面的である。日本は、大陸とのよりよい関係のためにこれらの結びつきを放棄したくないのだ。だが、北京は、台湾が北京に対して日本カードを使うだろうと疑っている。日中と中台の経済関係は、過去三年の間に劇的に増大した。2003年には中国と日本との貿易額は、1,335億ドルに達した。台湾と中国の間の貿易額は、584億ドルである。台湾の中国に対する投資額は、1億ドルに留まっている。
 日本と台湾にとって、北京は決定的な経済パートナーとして現れているにもかかわらず、日本と台湾との間の経済関係は、依然として健全で重要である。北京は台北が、日中関係を損なうために、東京で「中国の脅威」をこれ見よがしに見せていると疑っている。更に、東京が今年一月に東シナ海での天然ガス試掘の許可を民間会社に与えることを決定したように、東シナ海での天然ガス開発問題がある。現在、日本と中国は、互いにこの地域で排他的経済水域を主張している。台湾は、偶然にこの争いに巻き込まれるかもしれない。
(結論)
 それゆえ、台湾は、アジアにおける支配を巡る中国と日本の権力闘争に巻き込まれるように運命づけられている。戦略的歴史的文化的決定要素が台湾を多くの問題についての決定的ファクターにしている。その問題のいくつかは、アジア太平洋におけるアメリカの未来に関わっている。クアラ・ルンプールで開かれる今年の東アジア・サミットがアメリカを排除するように、アメリカの役割は既に減少しているかもしれない。
[訳者の補足]この論説の筆者エリック・テオ・チュウ・チョウ氏は、シンガポールの「国際問題研究所」のCouncil Secretaryであり、シンガポールのSavoir Faire Corporate Consultantsの支配人であるようです。中国の反日デモの前にこのような論説が書かれていたのは、スゴイと思いました。もっともこの論説を掲載した「ジェームズタウン」財団は、チェイニー副大統領と近い、アメリカのネオコン系の財団らしいので、逆にブッシュ政権が、日中問題をどう見ているかを知るのには都合が良いかもしれません。日本の軍関係の中に中国をもう一度征服しようと考えている人たちがいるという中国側の疑惑は、被害妄想だとしか思えません。
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「ネオコンは、ひょっとしたら、中近東で正しく理解したかもしれない」という『ガーディアン』紙の論説。

2005年05月05日 | アメリカの政治・経済・社会
副題:われわれはブッシュを評価する場合、リベラル派の先入見によって盲目にされてはいけない」というマックス・ヘイスティングスの論説。長文なので一部省略します。
 イラクの予見の陰鬱な側面や中近東の平和の見通しやブッシュ政権の健全さについての論じている人たちは、最近、考えさせらることが多かった。一方では、5月2日には87人目のイギリス兵がイラクで殺された。先週以来、自爆と武力衝突によって、40人以上のイラク人が殺された。他方では、ブッシュ政権は、勝利した気分でいる。最近、ワシントンを訪問した友人は、ブッシュ大統領のイラク十字軍についての元気の良い説明を描写している。イラクの新内閣が組閣されたこと、シーア派とクルド人居住地域では、正常化に向けて進歩がなされていること。レバノンからのシリア軍の撤退が、レバノンに民主化を可能にしつつあると言うこと。これらは中東での民主化が次第に進んでいる証拠だとワシントンは考えている。
 これらの主張のどれも直ちに否定されるべきではない。ジョージ・ブッシュを嫌っているわれわれのような人間にとって、最大の危険は、われわれの本能が彼の外交上の目的が失敗するのを見たいという欲求にまで転倒するかもしれないということである。理性的な人なら誰も、イスラム民主主義への大統領の関与に反対できない。西欧のブッシュ嫌いの多くは、彼の目的についての不同意に動機づけられているのではなくて、ワシントンのネオコンのやり方が粗野であり、それは西欧とイスラムとの間の対立を解消するよりはむしろエスカレートしそうだという信念に動機づけられている。
 しかし、このような懐疑は、ブッシュの企てを再評価するように後戻りすることを妨げるべきではない。
死体の数を数えることによって、イラクにおける進歩をもっぱら評価してはならないと示唆することは意地悪く聞こえるかもしれない。けれども、反乱活動の多くは、政権から排除されたスンニー派か、アメリカが主導している企てに腹を立てているジハード主義者の仕業である。
 鍵となる質問は、シーア派とクルド人多数派は、どの程度、機能する社会の創造に向かって進んでいるのかということである。これについての証拠は、さまざまである。ジャーナリスト達は、バグダッドの囲みの外へ殆ど出て行くことができないので、情報は、もっぱら西欧の軍関係者と外交的ソースに依存している。
私自身の情報源によれば、状況は改善しつつあるが、まだ不安定である。彼らは無政府状態は次第に食い止められていると示唆している。イラク治安部隊の募集は、少しましになった。
 イラクについて依然として注意深くあるべき最も強力な理由は、この国が統一のある国家として維持可能であるかどうかということである。スンニー派がシーア派の優位に対して素早く和解するだろうと信じることは困難である。あるいは、現在政府を指導しているシーア派が、従属の数十年に対する仕返しを否定するだろうと信じることは困難である。クルド人達は自分たちの地域で彼ら自身のやりたいことをするだろう。
アメリカの怒りとトルコの干渉が、彼らに分裂を思い留まらせるだろう。
われわれリベラルな懐疑派は、「われわれはイラクがちゃんとなることを欲する。たとえそれがジョージ・ブッシュを正しさを証明するとしても」というマントラを唱え続けなければならない。
 イラク人達は民主主義が機能するようにはできないという人たちは、正しいと言うことが分かるかもしれない。しかし今後数ヶ月の間に何が起こるかを見るまでは、われわれはイラク国民がある種の和解を図る可能性を否定すべきではないだろう。
ワシントンの現在のオプティミズムは、アメリカの圧倒的な軍事的圧力のせいで、パレスティナの武闘派が三年前ほどはアラブの支持を意のままにできないという事実に基づいているように見える。地域の正義に基づくよりは、パレスティナ人の従属に基づくどんな平和も、永続しそうに見えない。
実際、アメリカ外交政策についての問題点は、ここにある。ブッシュのヴィジョンは、軍事力の行使に基づいている。コンドリーザ・ライスの「魅力攻勢」や、二期目には外交が花咲くという国務省の主張もお化粧以上のものと見なすことは難しい。大統領自身が、ゲームは、ワシントンの条件でプレイされるだろうと宣言した。
 われわれはアメリカの力を尊重しなければならないし、世界が時にそれを必要とするということも認めなければならない。英国の戦略的思想家の中で最も賢明なマイケル・ハワードは、次のように言っている。「アメリカがやらなければ、他の誰もやろうとはしないだろう。」われわれは国連の限界を認めなければならない。多くの国際的平和維持部隊の情けない業績は、ヨーロッパの安全政策に役立つものの弱さを浮きだたせる。
 けれども、ワシントンのネオコンの間に現在流行しているオプティミズムを疑うことは道理に適っているように見える。なぜならば、このオプティミズムは、悲しむべき単純なヴィジョンに基づいているからである。ある周期的に不安定になる地域では、タリバンやサダム・フセインなだのある悪い政府は、アメリカによって取り除かれた。しかし、ワシントンが軍事力の行使の大胆さを遥かに繊細な政治的巧妙さとマッチさせ、他文化への敏感さとマッチさせなければ、壊れやすい長所は、失われるだろう。
訳者の感想:イギリスのリベラル派の知識人がワシントンのネオコンに何が欠けているかを指摘した的を射た論説だと思います。
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