海外のニュースより

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「ネオコンは、ひょっとしたら、中近東で正しく理解したかもしれない」という『ガーディアン』紙の論説。

2005年05月05日 | アメリカの政治・経済・社会
副題:われわれはブッシュを評価する場合、リベラル派の先入見によって盲目にされてはいけない」というマックス・ヘイスティングスの論説。長文なので一部省略します。
 イラクの予見の陰鬱な側面や中近東の平和の見通しやブッシュ政権の健全さについての論じている人たちは、最近、考えさせらることが多かった。一方では、5月2日には87人目のイギリス兵がイラクで殺された。先週以来、自爆と武力衝突によって、40人以上のイラク人が殺された。他方では、ブッシュ政権は、勝利した気分でいる。最近、ワシントンを訪問した友人は、ブッシュ大統領のイラク十字軍についての元気の良い説明を描写している。イラクの新内閣が組閣されたこと、シーア派とクルド人居住地域では、正常化に向けて進歩がなされていること。レバノンからのシリア軍の撤退が、レバノンに民主化を可能にしつつあると言うこと。これらは中東での民主化が次第に進んでいる証拠だとワシントンは考えている。
 これらの主張のどれも直ちに否定されるべきではない。ジョージ・ブッシュを嫌っているわれわれのような人間にとって、最大の危険は、われわれの本能が彼の外交上の目的が失敗するのを見たいという欲求にまで転倒するかもしれないということである。理性的な人なら誰も、イスラム民主主義への大統領の関与に反対できない。西欧のブッシュ嫌いの多くは、彼の目的についての不同意に動機づけられているのではなくて、ワシントンのネオコンのやり方が粗野であり、それは西欧とイスラムとの間の対立を解消するよりはむしろエスカレートしそうだという信念に動機づけられている。
 しかし、このような懐疑は、ブッシュの企てを再評価するように後戻りすることを妨げるべきではない。
死体の数を数えることによって、イラクにおける進歩をもっぱら評価してはならないと示唆することは意地悪く聞こえるかもしれない。けれども、反乱活動の多くは、政権から排除されたスンニー派か、アメリカが主導している企てに腹を立てているジハード主義者の仕業である。
 鍵となる質問は、シーア派とクルド人多数派は、どの程度、機能する社会の創造に向かって進んでいるのかということである。これについての証拠は、さまざまである。ジャーナリスト達は、バグダッドの囲みの外へ殆ど出て行くことができないので、情報は、もっぱら西欧の軍関係者と外交的ソースに依存している。
私自身の情報源によれば、状況は改善しつつあるが、まだ不安定である。彼らは無政府状態は次第に食い止められていると示唆している。イラク治安部隊の募集は、少しましになった。
 イラクについて依然として注意深くあるべき最も強力な理由は、この国が統一のある国家として維持可能であるかどうかということである。スンニー派がシーア派の優位に対して素早く和解するだろうと信じることは困難である。あるいは、現在政府を指導しているシーア派が、従属の数十年に対する仕返しを否定するだろうと信じることは困難である。クルド人達は自分たちの地域で彼ら自身のやりたいことをするだろう。
アメリカの怒りとトルコの干渉が、彼らに分裂を思い留まらせるだろう。
われわれリベラルな懐疑派は、「われわれはイラクがちゃんとなることを欲する。たとえそれがジョージ・ブッシュを正しさを証明するとしても」というマントラを唱え続けなければならない。
 イラク人達は民主主義が機能するようにはできないという人たちは、正しいと言うことが分かるかもしれない。しかし今後数ヶ月の間に何が起こるかを見るまでは、われわれはイラク国民がある種の和解を図る可能性を否定すべきではないだろう。
ワシントンの現在のオプティミズムは、アメリカの圧倒的な軍事的圧力のせいで、パレスティナの武闘派が三年前ほどはアラブの支持を意のままにできないという事実に基づいているように見える。地域の正義に基づくよりは、パレスティナ人の従属に基づくどんな平和も、永続しそうに見えない。
実際、アメリカ外交政策についての問題点は、ここにある。ブッシュのヴィジョンは、軍事力の行使に基づいている。コンドリーザ・ライスの「魅力攻勢」や、二期目には外交が花咲くという国務省の主張もお化粧以上のものと見なすことは難しい。大統領自身が、ゲームは、ワシントンの条件でプレイされるだろうと宣言した。
 われわれはアメリカの力を尊重しなければならないし、世界が時にそれを必要とするということも認めなければならない。英国の戦略的思想家の中で最も賢明なマイケル・ハワードは、次のように言っている。「アメリカがやらなければ、他の誰もやろうとはしないだろう。」われわれは国連の限界を認めなければならない。多くの国際的平和維持部隊の情けない業績は、ヨーロッパの安全政策に役立つものの弱さを浮きだたせる。
 けれども、ワシントンのネオコンの間に現在流行しているオプティミズムを疑うことは道理に適っているように見える。なぜならば、このオプティミズムは、悲しむべき単純なヴィジョンに基づいているからである。ある周期的に不安定になる地域では、タリバンやサダム・フセインなだのある悪い政府は、アメリカによって取り除かれた。しかし、ワシントンが軍事力の行使の大胆さを遥かに繊細な政治的巧妙さとマッチさせ、他文化への敏感さとマッチさせなければ、壊れやすい長所は、失われるだろう。
訳者の感想:イギリスのリベラル派の知識人がワシントンのネオコンに何が欠けているかを指摘した的を射た論説だと思います。
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