海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「中国は、いくつかの行動を起こす」と題するホルブルックの論説。

2005年05月28日 | 中国の政治・経済・社会
『ワシントン・ポスト』紙5月27日号に掲載された論説です。筆者のリチャード・ホルブルックは、アメリカが中国との国交正常化をした当時の「東アジア及び太平洋問題」担当の国務次官。
「世界の嵐の中心は、中国に移った」と1869年に国務長官ジョン・ヘイは述べた。「あの強力な帝国を理解する者は誰でも、次の500年間世界政治の鍵を握っている。」
ヘイが有名な門戸開放政策を宣言したとき以来、すべては異なっているが、何も変化していない。その政策は、中国に対するアメリカの商業的接近が他の主要国と平等であることを要求した。中国とアメリカ関係の上がり下がりの一世紀が、--下がる場合のほうが多かったのだが、--その後に続いている。しかし、今日では、非常に異なる仕方で、アメリカは、門戸開放を探し求めている。財務長官と憤激した議会は、アメリカの会社に世界の急速に成長する経済と競争するもっと良い機会を与えるために、中国に通貨の再評価をするように要求している。
 元とドルとの交換率を巡る主張は、世界で最も重要な両国の間で起こっていることのほんの一部に過ぎない。ワシントンと北京は、テロリズムに対する戦争と太平洋と南アジアでの戦略的安定性に対する欲求についていくつかの共通の重要な利害関心を持っている。そして両国は今なお協力しようという努力をしている。アメリカ側では、ワシントンが「グローバルな対話」と呼んでいるものに対する責任は、主として、間もなく北京を訪問する予定のロバート・ゼリック国務次官の手の中にある。
しかし、両側とも公式には否定しているが、中米の結びつきは、ゆっくりと緊張しているおり、他の案件は年配のアメリカ高官の注意を引いている。いつまでも終わらない台湾問題と中国の増大する軍事力についてのワシントンの懸念を越えて、二つの巨大なファクターが両国の関係を絶えず圧迫している。第一に、国民の自分を自由に表現する権利に対する本質的に異なる態度と第二に大きな貿易不均衡である。
 中米関係を非常に複雑にしているものは、両国の間のすべての大きな外交政策上の問題は同時に国内問題であるという点である。議会に圧力をかけるグループとNGOとは、人権から生命擁護に到る、チベット支持派から組織労働問題に到るアメリカの政治的スペクトルの全体を横断している。次のような二国間の議題が脅かしている。つまり、台湾、チベット、人権、宗教的自由、言論の自由、法輪功、奴隷労働、北朝鮮、イラン、貿易、対ドル交換率、知的財産権、中国市場へのアクセス、敏感な技術輸出、武器禁輸などである。
行政組織のさまざまな部分がそれぞれの問題を支配し、議会が主要な役割を演じているワシントンでは、整合的な政策に固執することは困難である。他方、高度に選択的で緊密に規律を保った非民主的システムを持つ中国は、長期の政策目標を打ち立て、それに向かってゆっくり仕事をすることができる。中国人は、我慢強い国民である。
 長期目標に向かう中国の前進は、1979年に始まったト小平の改革以来、経済的結果を生み出した。天安門事件における挫折にもかかわらず。しかしながら、外交政策においては、事態は、最近までは異なっていた。1979年の対ベトナム戦争以来、中国は、世界の舞台では、守勢に、否、受動的になった。
 しかし、中国の新しい指導者は、彼らの経済力をもっと積極的な外交政策と一致させ始めた。個別に見ると、中国の行為は、一連の無関係な出来事のように見える。だが、それらは長期の戦略の一部である。以下はその実例である。
1.温家宝首相は、4月に「歴史的なインド訪問」を行い、その間に、世界の二大国家は、「戦略的パートナーシップ」を宣言した。これは勿論曖昧な言葉であるが、過去50年の間このライバル同志の国を特徴づけた関係とは全く異なっている。
2.4月末の胡錦涛主席と二人の台湾の政治的指導者との会見は、1945年に毛沢東と蒋介石が会って以来の最初の一対一の会見であった。
3.政府の黙認の下で起こった4月の反日デモ。表面的には、第二次世界大戦中の日本の残虐行為を日本の教科書が削除したことに抗議することを意図していたが、実際は、デモは、中国の公式の立場がどうであれ、中国は、日本が国連の安全保障理事会の常任理事国となることを欲しないということの粗野な表現であった。
4.アメリカの対北朝鮮政策についての中国外務省による5月12日に行われた非常に普通でない批判。北京は、アメリカサイドの協力がないために、北朝鮮が殆ど一年間ボイコットしている六者協議を救うようにワシントンから要求されることにうんざりしているのだ。
5.北京が国連の安保理の座席を引きついで以来初めて、次の国連事務総長の選挙で中心的な役割を演じようとする中国の意図。それは地域のロテーションによって、アジアから出ることになっている。2007年1月1日以後仕事を引き受ける新事務総長は、中国人ではありえない。なぜなら、安保理の常任理事国は、事務総長を出すことができないからである。指導的な候補者は、今月、コンドリーザ・ライス国務長官に援助を要請したが、ワシントンは、まだこの問題に十分な注意を払っていない。
6.最後に、中国はスーダンやアンゴラのような離れた地域に油田を買い始めた。それはそれ自身の急速に成長しつつあるエネルギー需要に対応する長期的戦略である。エネルギー政策と主要な外交政策とが一致している。このことは、スーダンのダルフール地方に対して国連が介入することに対して中国が気乗りがしないことと関係がある。
 ワシントンがこの地域に十分な注意を払っていないという東アジアにおける他の国々の間の増大する印象がある場合に、世界舞台での政治的役者としての中国の登場が起こる。(皮肉なことに、これはアメリカとの関係が歴史上最善であるインドとは極端な対照をなしている。)もし、われわれがアジア・太平洋に対する関心と政治的影響を失うならば、不均衡は、必ずや、後に新しい世代の政策立案者や国家につきまとうことになるだろう。チャレンジは明らかであるが、この地域に対するわれわれの重大な国家的な関心についてワシントンの非常に高いレベルでは、はっきりした焦点が欠けていることは、憂慮すべきである。
[訳者の感想]アメリカがイラン及び中東問題に注目する余り、アジアに対する明確な外交政策を持っていないように見えることをホルブルックは憂慮しているようです。逆に中国はその間に、大胆な資源政策・外交政策を確立して、着々と実行しているように見えます。日本政府に果たして長期的な外交政策などあるのでしょうか。小泉内閣には、場当たり的な目先の外交政策しかないように思います。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする