海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「疑り深い隣人達」と題する『ツァイト』紙の最近号の記事。

2005年05月11日 | 国際政治
 われわれドイツ人は、われわれが外国で好まれていないということに悩んでいる。隣人がわれわれに鏡を突きつけたり、それが歪んだ鏡が問題であることが分かったりすると、われわれはがっかりしたり、腹を立てたりして反応する。何とこの世は不当であることか。なぜなら、われわれは殆ど60年間安定した民主主義の中で生活し、われわれは非戦闘的な国民ですよと取り入ってきたし、過去の悪行を細かく懺悔したではないか。
 英国の新聞は、特にわれわれに嫌がらせをしているように見える。ドイツ人の法皇が選ばれたことについて、英国の新聞は、われわれの『ビルト新聞』によって非難された。(訳者注:ベネディクト16世が少年時代、ヒトラー・ユーゲントに属していたことをイギリスの新聞があげつらったことに対してドイツでは非難が出ていました。)イギリス人がヒトラー・ドイツに対して長く孤独だが最後には成功を収めた抵抗を祝い、このパーティでドイツ人のスケープゴートは必然的に常連客であるということを否定することは困難である。ロンドン駐在のドイツ大使トーマス・マトウーセックがイギリス人達にはっきりした言葉で、余りに脅迫観念的にナチの過去をほじくることは、現代の民主的なドイツへの眼差しを歪め、両国民の間の関係にとって好ましくない帰結を与えるだろうと言ったのは正しかった。多くの若い英国人は、ナチと戦争を中心にした「ドイツ」と一緒に成長している。
その上、英国の左翼リベラルと保守主義者のグループの中には、われわれの国民に特に好意的な感情を持たない同時代人が十分に存在する。彼らは、「ドイツ人は特に悪に染まりやすいのだ」と信じている。マーサ・ゲルホーンは、1990年代半ばに、「ドイツ人は恐らく遺伝子一つ分ゆるんでいるのだ」と書いた。われわれの平和な変貌を本当には信じない人たちが沢山いる。このことを遺憾に思うこともできるし、腹立たしく思うこともできる。だが、ドイツでも同様な疑いが全く知られていないわけではないと言うことを見逃すべきではなかろう。われわれの親たちが時に不安にさせるほど素朴な熱心さでかき抱いたヨーロッパ統合のプロジェクトは、ヨーロッパ大陸の真ん中にある不安定な国をガリバーみたいに超国家的な契約の網でつないでおこうという意図から生じたのだ。「安全なものは、安全である。」
 (ドイツの)左翼グループの一部は、ドイツ統一に抵抗し、自分自身の国に対する疑いを繰り返し表明した。その自己懐疑の頂点は、ベルリンの「自立的」光景で鳴り響いた「二度とドイツを復活させるな」という呼び声であった。ギュンター・グラスは、ドイツ統一に対して、マーガレット・サッチャーが言うのと殆ど同一の主張をした。極端な場合には、自分の国民の精神的安定性に対するドイツ人の疑いは、選民の妄想の裏返しのように作用する。ナチのイデオロギーは、われわれを優れた人種に変えた。かなり多くの同時代人は、別の極端に陥ろうとしている。(「ドイツ人は最低の民族だ」という主張を指している。)
 ドイツに対する疑いや恐れについて言うと、英国人は、意見の自由と全く野放しの自由な新聞によって、われわれの隣人が考えていることを口に出しているだけである。ドイツの周りには、われわれを信用せず、特に評価もしない多くの隣人が生きている。われわれの堕罪、ナチとホロコーストがわれわれの民族的素質から生じたにせよ、あるいはわれわれの過去の最も暗い局面が、経済的社会的政治的ファクターと結びついた人間本性によって、説明されるにせよ、われわれは、歴史の重荷を背負って生きなければならない。
 われわれはなぜ戦後60年は長い年月であるという幻想的な希望を捨てるべきなのか。問題になっているのは、歴史的には、短い挿話である。これに対して、民族相互の間の考え方は、何世紀もかかって形成されたのである。その上、偉大な国民は、その隣人達によって評価されることは稀である。われわれドイツ人も、多くの悪い思い出を持った多くの国民を持っている。特に、われわれは、どうしても愛されたいと思うことを止めるべきだろう。愛好は強制することはできないし、裏切られた希望は、結局、フラストレーションしか生まない。むしろわれわれはフランス人から学ぶべきだ。彼らは、人が彼らを好んでいるかいないかを余り気にかけない。もっと平然としていることが得策である。特にわれわれの過去を思い出させる記念日の数は、確かに減ることはないのだから。
[訳者の感想]ドイツ人がいくら過去についてついて謝罪しても、相変わらずイギリス人あたりから、いろいろと文句をつけられていささかうんざりしているドイツ人の考えかたが良く分かると思います。日本人は、もう少し自己反省すべきだとは思いますが。フランス人は、他国民の評価を余り気にしないというのは、面白いとおもいました。
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