白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(174)一幕物戯曲

2016-12-15 07:23:35 | 演劇資料
          オール読物一幕物戯曲

昭和35年から昭和44年まで「オール読物」が募集したオール読物新人賞の戯曲版
選考委員 川口松太郎 菊田一夫 戸板康二 中野実 北条秀司
(二回目より参加 安藤鶴夫以降この六人)
9回目明治座三田政吉・オール読物編集部参加

当時 唯一の脚本家の登竜門であったので劇作家を目指す人 作家の卵など色々な人が応募して泣きそして喜んだ 
僕のつたない演劇界の知識で第一回より振り返ってみる
(賞金の目安 昭和35年公務員の月給13000円)

第一回(昭和35年)賞金10万円+記念品 次点賞金2万円
受賞 出雲 隆 「石の壺」
次席 別所 啓 「女の一等待合室」
   野口達二 「富樫」
   藤井 薫「蚊帳の中」

野口達二はこの後歌舞伎台本作家となる 「草の根の志士たち」「肥後の石工」など
藤井薫は松竹新喜劇文芸部員

第二回(昭和36年)佳作第一席賞金5万円 第2,3席 賞金3万円 選外佳作2万円
佳作第一席 榎本滋民 「孤塁」
佳作第二席 氷川十五 「虎と狐と狼と」
佳作第三席 芦沢弘志 「ママっちゃん」
選外佳作  芳賀好美 「はつ」
選外佳作  神谷八郎「清四郎の討たれ」
候補    藤井薫 「乱れ友禅」

榎本滋民はこの受賞を機に作家となる 「同期の桜」「寺田屋お登勢」「愛染高尾」「たぬき」などの東宝作品を書く 梅田コマ「花の吉原百人斬り」は助手についた
藤井薫「みだれ友禅」は日生劇場・渋谷天外「わてらの年輪」の「盗作」問題のもとになった作品

第三回
(昭和37年)賞金10万円+記念品 佳作賞金3万円+記念品
受賞 青山 伯 「あげくの果て」
佳作第一席  坂口元子「とうさん」
佳作第二席  甲山五一「石に花が咲く日」

第四回
(昭和38年)賞金10万円+記念品 佳作賞金8万円+記念品
受賞 戸口茂美「毒蛇はぶ」
佳作 大場義之「飛脚はん」

第五回(昭和38年)佳作 賞金5万円+記念品
佳作第一席 伏見丘六 「竜笛」
佳作第二席 谷村礼三郎「とひになった女」
佳作第三席 吉田文五 「海の橋」

伏見丘六は翌年の佳作第二席の伏見丘太郎と同一人物か?
そうだとしたら今売れっ子の艶笑小説の第一人者の伏見丘太郎である
昭和38年江戸川乱歩賞候補 昭和40年小説現代新人賞受賞と「賞金かせぎ」であった
谷村礼三郎 明石ペンクラブ会員に同姓同名の作家がいる

第六回(昭和40年)
佳作第一席 夏目千代 「雁(かり)」
佳作第二席 伏見丘太郎「この天に」
佳作第三席 さくまゆうじ「浅草象潟あたり」

夏目千代は当時大映京都で企画部にいた鈴木照子である
彼女のほぼ晩年の雷蔵さんの思い出話にこうある
・・・親身になって読んでくれた 小春・治兵衛の心中後のおさんを描いた「後のおさん」がオール読物の一幕物に落ちると雷蔵さんは「題名があかん このままでええよって「雁」とつけてみい 幕切れに雁を鳴かすんや」そのとおりにしてもう一度出したら今度は入選した 「みてみい やったやないか」と喜んでくれた

この作品は2年後歌舞伎座中村錦之助吉例公演で前狂言として上演された
演出は巖谷槙一 配役は治兵衛女房おさんに阿部洋子 おさんの父五右衛門に柳永二郎 粉屋孫右衛門に坂東好太郎であった

第七回(昭和41年)賞金10万円+上演料10万円+記念品時計
受賞 関川 周 「奥地の鶯」
受賞 西川清之 「蝸牛の少将」

関川周は同年「聖保羅福音使学院」で直木賞候補となる のち作家
西川清之は劇作家テレビラジオ脚本を多数書く一方大のミステリーファンで落語とミステリーをテーマにした「遊びをせんとや生まれけむ(1982)」を書く

第八回(昭和42年)賞金10万円+上演料10万円+記念品時計
          佳作 賞金10万円
受賞     安達靖利 「艀、海神丸」
佳作第一席  柏原正一 「東西南北(とんなんしいぺい)」
佳作第二席  小泉秀男 「鈴虫」
佳作第三席  尾城 緑 「秋時雨」

安達靖利 梅田コマ文芸部での僕の先輩 ペンネーム 安達靖人
そう北島公演の芝居を公演最終まで担当した安達さんだ 北島以外では木暮美千代・山城新伍でやった「花の道頓堀囃子」(五味康祐「興行師」が原作)が良かった
また鶴田浩二でやった笠原和夫の名作「総長賭博」を脚色した「傷だらけの人生」の脚色も良かった これは山下耕作の演出も冴え名作となった
村田英雄の「夫婦春秋」も良かったがこれは「幸助餅」の焼き直しだ
僕は何度もコマから独立を勧めたが聞かず 定年までコマに飼い殺しされていたが当時のコマの給料の良さでは独立する気がなくなるだろう 
なお「艀、海神丸」は新派の乾譲さんによって劇化されたらしい
柏原正一 東宝に同姓同名のプロデューサーがいたが同一人物であろうか

第九回(昭和43年)賞金10万円+上演料10万円+記念品時計 佳作賞金10万円
当選作 なし
佳作 星 三生 「もっこす」

第十回(昭和44年)賞金20万円+記念品時計 佳作賞金5万円
受賞    深沢幸雄  「包丁野郎」
佳作第一席 榊原直人  「女の檻」
佳作第二席 高橋長治  「山火事」
榊原直人 放送作家 戦前ムーランルージュで台本を書いていた 昭和48年オール読物新人賞候補昭和49年同賞候補 直木賞候補 

この賞はこの十年の応募で終わった
応募作が減少したためであった
 




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