難しい映画だったと表現するのが適切なのかなぁ…。標高4,800mのブータンの寒村で貧しく暮らす村人たち56人。文明の世界から取り残され、文明の利器など何も知らず純朴に生きる9人の子どもたちと、彼らを教える若い教師の卵との物語である。
※ ポスターを飾る学級委員長役のペン・ザムの表情がとても印象的だった。
2月12日(月)午後、「リサイクルプラザ宮の沢」が主催するエコ映画会「ブータン 山の教室」がちえりあホールで上映されたので観賞した。
映画はブータンの首都・ティンプーの教育系大学に学ぶウゲンは教師の仕事に魅力を感じられず、ミュージシャンを夢見て授業もさぼりがちな生活を送っていた。しかし、卒業するためには教育実習を数か月間課せられている。ウゲンはブータンでも最も僻地にある標高4,800mもの高地にあるルナナ村の学校へ行くように言い渡された。
ティンプーからルナナ村までは半日間バスに揺られてガザという町へ行き、そこからは徒歩で7日間歩いてようやく人口56人というルナナ村に着いたのだった。
※ 映画の主役のウゲン(右側)と彼の村での生活をなにくれとなく面倒を見る村の若者です。
そこからルナナ村の9人の子どもたちとウゲンの学校生活が始まった。ウゲン村には電気はもちろん、子どもたちが学習するための紙も不足していた。学校とはいっても黒板もチョークもない。まさにないない尽くしである。
ウゲンにとっては何もない生活の始まりだった。しかし、子どもたちは純朴だった。ウゲンの言葉に瞳を輝かせて聴き入ろうとする。特に学級委員長役のペン・ザムの表情がいい!!(彼女は演技を学んだ子ではなく、ルナナ村に実在した子どもだったそうだ)
※ ルナナ村の学校で学ぶ9人の子どもたちです。
渋々赴任したウゲンだったが、純朴な子どもたち、村人たちの素朴な期待、そして素晴らしい自然…、等々に心を動かされウゲンは冬が来るまで続けてみようと決心した。
ウゲンは村人たちに受け入れられ、彼なりに任期を誠実に務めるが、結局彼は教師とはならず、彼の夢だったミュージシャンとなるためオーストラリアに渡ったのだった。
つまりウゲンは、何もないけれど幸せに暮らす寒村の人たちと生活を共にし、そこにある種の生きがいを感じつつも、やはり便利で華美な世界へ還ってしまった。
ブータンという国は、世界各国がGDPやGNPの多寡を追い求める中、国王がGNH(Gross National Happiness 国民総幸福量)こそ大切だと提唱している国として有名であるが、大学教育を受けたウゲンなどは若者たちはそのことを信じていないということなのか?はたまた、ルナナ村の子どもたちも教育を受け、成長した暁に現在のような境遇を素直に受け入れることができるだろうか?
映画の制作者であり監督も務めたブータン人のパオ・チョニン・ドルジ氏は、映画の中で何も主張しようとはせず、ある意味淡々と標高4,800mの高地のルナナ村の美しい自然と、そこに暮らす村人や子どもたちを淡々と写すことに徹している。
※ 標高4,800mのルナナ村から見える風景です。
微かに感ずることができたのは、オーストラリアに移住しミュージシャンとなったウゲンの表情がけっして幸せそうには写っていなかったところに、パオ・チョニン・ドルジ氏の微かな主張を見たようにも思ったのだが…。
私たち人間にとって、何が幸せなのかを考えさせてくれた映画だった…。