自らの夢を捨て家族のために生きるのか? それとも自分の夢のために家族に犠牲になってもらうのか?少女ルビーはその葛藤の中で思い悩む…。考えさせられる主題であるが、久々に「良い映画を観たなぁ」という思いに浸った2時間だった…。
本日午前、札幌市民交流プラザのクリエイティブスタジオで札幌映画サークルが主催する映画「Coda あいのうた」上映会に参加した。
題名の「Coda」とは「Children of Deaf Adults」の頭文字からとったもので「耳の聴こえない両親に育てられた子ども」という意味だという。そう映画の主人公の少女ルビー(エミリア・ジョーンズ)は一人の兄と両親との4人家族であるが、ルビー以外は3人ともに聾唖者という家族である。家族は漁業で生計を立てているが、ルビーがいわば他者との通訳の役目を果たし、家業の漁の仕事も毎日欠かさず手伝っていた。
そのルビーが長じて高校に入学すると、高校の音楽教師がルビーの音楽的な才能に気付き、音楽の名門バークリー音楽大学への進学を強く勧めるのだった。
家族の通訳を担うルビーが大学へ進学し家を離れることに両親は強く反対したため、ルビーは板挟みに遭ってしまう…。
映画は奇想天外な着地点など用意はしていない。むしろ極めて穏当といえる終末を用意してくれていた。それが私には何とも心地良く、涙腺が緩むような終末だったのだ。
この映画が2021年度アカデミー賞の作品賞・助演男優賞・脚色賞を受賞したということに私はすごく納得したが、その背景の一つとして聾唖者を演じた父親、母親、兄を演じた人たちが本当の聾唖者であったことを知って、その演技の迫真さを知る思いだったが、監督がそのキャスティングには特にこだわったそうだ。特に父親役を演じたトロイ・コッツァーが助演男優賞を受賞したことにもとても納得した。
また演出においてルビーが歌う場面で画面が無音になるところがあった。それは観客自身に聾唖者の立場に立ってもらうという巧みな演出が素晴らしいと思った。
映画の中では、ルビーが有名な何曲も歌うのだが、私的には彼女がバークリー音楽大学の歌唱試験のために歌った「青春の光と影」がとても懐かしく感じた歌だった。
と私世代にとっては、久しぶりに「良い映画に出会えたなぁ」という思いで会場を後にすることができた映画だった。