地球を造り上げると
神さまは山の上から満足げに眺めた。
起伏に富んだ大地や
青い海原、緑の森・・・。
それはそれは美しかった。
けれど
何かが足りないような気がした。
そこで神さまは
花を咲かせようと思った。
葉を重ねてみると
かわいらしい花になった。
さて、色に悩んだ神さまは
太陽に尋ねた。
すると太陽は答えた。
「私の赤い色を差し上げましょう」
神さまは大地にも聞いてみた。
すると大地は答えた。
「私の黒い色を差し上げましょう」
緑の花は
深い紅色の花になった。
天と地とを
艶やかに彩るその花を
神さまはたいそう気に入った。
神さまは山の上から満足げに眺めた。
ずっと後になって人が生まれ
それを「百花の王」と呼んだ。
今でも中国の高い山の懐に
その花は咲くという。
牡丹〈ボタン科〉
copyright Maoko Nakamura
スポットライトを浴びて
踊ることに疲れた金魚は
ふと下を見た。
するとドジョウが
のんびり寝そべっていた。
泥にまみれて
働くことに疲れたドジョウは
ふと上を見た。
すると金魚が
楽しそうに遊んでた。
「もしもしドジョウさん」
「はいはい金魚さん」
「ちょっと替わってみませんか」
「それはいい考えだ」
金魚はドジョウになって
ドジョウは金魚になった。
けれど
楽しいどころか居心地悪く
楽などころか大変で・・・。
「もしもし金魚さん」
「はいはいドジョウさん」
「もう元に戻りましょうか」
「それはいい考えだ」
金魚は金魚になり
ドジョウはドジョウになった。
もう下を見たり
上を見たりすることもなく・・・。
金水引〈バラ科〉
copyright Maoko Nakamura
遠い国の小さな町に「薔薇屋敷」と呼ばれる家がありました。
庭にはたくさんの種類のバラが競って咲き
馨しい香りが辺り一面に漂っていました。
とてもお天気のよい朝、エイミーは
天使の羽根のような花びらをそっと広げました。
花びらをなでて通り過ぎる風がくすぐったくて笑っていると
ひとりの若者がエイミーのところにやってきました。
そして、そっと手を添えると顔を近づけ香りをかぎました。
エイミーはドキドキしました。
若者はすぐにどこかへ行ってしまいましたが
エイミーはその若者のことが好きになってしまいました。
エイミーは毎日、その若者のことを待っていましたが、
彼はやってきませんでした。
ピンク色だった花びらは白くなり、やがて散る時がやってきました。
エイミーは悲しくて泣きました。
風が色褪せてしまった花びらをハラハラと散らしていきました。
憐れに思ったお日さまは
エイミーの涙を優しい光を包んでやりました。
気がつくとエイミーは小さな朱色の実になっていました。
ローズヒップの実が酸っぱさはエイミーの悲しみ。
そして体に良いのはエイミーのきれいな想いがいっぱいだからとさ。
おしまい
上段/スキャボロフェアー、不明、シーガル、不明
下段/フレグラントオールドローズ、野バラ
copyraight Maoko Nakamura
あるところに
悟りが開けなくて
苦しんでいたお坊さんがいました。
熱心にお題目を唱えたり
偉いお坊さんに
教えを乞うたりしましたが
心穏やかになれませんでした。
ある日寝ていると
夢に仏様が現れて
「毎日あんこの入ったおまんじゅうを作り
村人にあげなさい」と告げられました。
といっても
小豆もなければ粉もありません。
お坊さんは檀家へ托鉢に行き
小豆と粉を分けてもらうと
見よう見まねでまんじゅうを作りました。
最初はうまく作れませんでしたが
次第に上手になりました。
村人は「ありがたいおまんじゅう」と
感謝していただき
作り方を教えてもらいました。
そのおまんじゅうは村の名物となり
お坊さんもともに働きました。
お寺は檀家の人で賑わうようになり
気がつくと
苦しみはどこかへ行っていました。
そんなある日
お坊さんが
縁側でまんじゅうを食べていると
うっかり庭に落としてしまいました。
そこへ鳥が飛んできて
おまんじゅうを食べてしました。
そして
こんな歌を歌いました。
「皮が悲しんでいたなら
あんこになって入りましょ。
そうして悲しみをともにしましょ。
あんこが苦しんでいたら
皮となって包みましょ。
そうして互いを慈しみましょ」。
お坊さんは思わず鳥に手を合わせました。
そしてそれからも
村人のために力を尽くしましたとさ。
花桃
copyright Maoko Nakamura