ロシアの夏のベリーカレンダーの一番手、ワイルドストロベリー(ゼムリャニーカ)が熟れるのは、作家でフェノロジストだったドミトリー・ズーエフによるとロシア中部で六月二〇日台、モスクワ地方では平年で六月二三日です。一年で最も昼の長い、鳥歌い、花咲き、空晴れわたる季節です。
店で買うイチゴと違ってごく小ぶりのワイルドストロベリーは数あるベリーの中でロシアの人びとの一番のお気に入りです。白樺皮の籠を手にして森へワイルドストロベリーを摘みに行く光景はロシア人の胸をときめかせるものがあるようです。「人間の最初の自然への愛は、初めて森で自分が摘んだワイルドストロベリーを入れた編籠とともに芽生える」とズーエフは書いています。
その年初めて口にできる新鮮なベリーであるワイルドストロベリーが滋養と薬効に富むことは古くから知られていました。ワイルドストロベリーはかつて民間薬として広く利用され、現在でも新鮮なワイルドストロベリーの食餌療法は貧血、虚弱体質、病後の体力回復などに広く行われています。その方法は二、三週間のシーズン中ひたすらワイルドストロベリーを食べるというものです。子どもたちが森へ出かけて、ワイルドストロベリーを食べることは大事と書いてある本もあります。一昔前のロシアでは冬に生野菜が欠乏し、春に種を蒔いても収穫まで時間がかかるため、ビタミン不足から壊血病にかかる率が非常に高かったのです。
よく知られている民間療法では、生の果汁、乾燥イチゴの浸剤(乾燥イチゴ大さじ2にカップ1の熱湯をかける)は腎臓、胆のう結石、痛風、動脈硬化、高血圧などに用いられます。また湿疹、そばかす、ニキビ、しわ予防にはつぶしたイチゴをあてるというのもあります。医学的に見ると葉も重要だそうです。利尿、腎臓、貧血などに用います。昔、葉はお茶の代わりに用いられましたが、最近はハーブ茶として飲まれています。
食べ方としては新鮮なイチゴにミルクやクリーム、スメタナ(サワークリーム)、砂糖をかけるのが一番おいしい。作家のソロウーヒンは、子供時代にワイルドストロベリーを一切れの黒パンにちょっと押しこんでミルクをすすりながら食べたことを懐かしそうに書いています。
保存法としてはベリーの形を残した“プリザーブ式のジャム”「ヴァレーニエ」が一番好まれています。本にあったレシピ:傷んだ粒を取り除き、1キロのワイルドストロベリーを平なべに入れ、砂糖1・5キロをその上からかけて冷所に6~8時間おく。次に水、半カップを入れ(入れなくてもよい)、火にかける。沸騰したら火からおろし、15~20分おき、また沸騰するまで火にかける。これを3、4回くり返す。
おどろくばかりの砂糖の多さですね。ソ連時代の本なので最近はこれほど入れないのでは?とインターネットで調べたら、1,5キロから1キロといったところでした。私はベリー1キロに対して半分の500グラム以下でこのレシピで作ります。とてもおいしいです。
ワイルドストロベリーが生育するのは、森の中の草原、森辺の斜面、林など日当たりのよい乾燥気味の土地です。もうひとつの野生のイチゴ、クルブニーカは草原に育ちます。実はゼムリャニーカこと、ワイルドストロベリーより大粒で、丸い形をしています。実は緑白色で片側だけが赤くなります。
だれもが知っているゼムリャニーカのなぞなぞ。(ロシアのなぞなぞは日本と異なり、「なあに?」がつかないのが一般的です。)
エゴールちゃんが赤い帽子をかぶって立っている、
みんなが素通りしないでおじぎする。
ゼムリャニーカ
学名 Fragaria vesca
和名 エゾヘビイチゴ(別名ヨーロパクサイチゴ)
英名 Wild Strawberry