庭は緑一色でした。
葉の出るのがおそい栗の木はまだ小さな若草色の葉を思い切り青色の空に伸ばそうとしているかのようでした。
一方、家のすぐ脇のナナカマドは葉を繁らせ、
花束のような花序をたくさんつけていました。
ロシアでは昔多くの地方で農民たちは家を新築する際に悪霊から守ってもらうためにナナカマドの若木を森からとってきて、窓下や垣根の柵のそばに植えました。私もそれを真似して、ナナカマドがこの家を守ってくれるようにと植えたのでした。
ソ連時代の作家ヤーシンは、ナナカマドの花は美しく咲くのにほかにたくさんの花が咲くからか なんだか目立たないと書いています。ナナカマド(リャビーナ)とよく比較されるカンボク(カリ-ナ)の花は真っ白で花嫁を思わせるとうたわれます。一方、ナナカマドの花はうたわれることはなく、ナナカマドがうたわれるのはその真っ赤な実房です。
花が目立たないのは真っ白ではなく黄色みを帯びているせいかもしれません。満開だった花は短い間にだんだん茶色っぽくなっていきました。
ナナカマドの花は半月からときに1か月近くも長く咲きつづけるそうで、ロシアではよい蜜源植物です。
蜂蜜は赤みがかっているそうで、その赤みは花が茶色くなっていくことと関係あるのでしょうか。
ロシアには「ナナカマドの暖かさ」の言葉があって、ナナカマドが咲いたら、もう寒さがぶり返すことはなく暖かな気候が定着します。
モスクワでナナカマドの花が咲くのはかつて6月1日頃でしたが、今では温暖化が進んでそれより早まっていることでしょう。