fromイーハトーヴ ーー児童文学(筆名おおぎやなぎちか)&俳句(俳号北柳あぶみ)

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『火花』(又吉直樹)

2015年08月30日 | 本の紹介
 よかったです。冒頭の文章が堅くて、うーん、こりゃだめかなと思いつつ読み進めたのですが、読み終えて、じわじわと(うん、いいんじゃないの)という思いが残っています。すごーくよかったあ、おもしろかったあ、というのとは違うのです。これぞ純文学という感想も聞いたし、芥川賞云々もいろいろと言われているようですが、私はこの二つのキーワードで語るほどの考察はできません。でも、文学としての力が確かにある作品だと思いました。
 
 台詞が長かったり理屈くさかったりするのですが、そこにポンとおかれる地の文が、気持ちを楽にさせてくれるという効果があったりして「間」がいいと思いました。作者が人を楽しませるということを日頃やってる方だからかな。実際そうなのだろうなと思われる芸人たちの姿はリアリティがあります。
 内容も、お笑い芸人の挫折と成功などという単純なものではなく、核となる二人は二人とも成功せず、基本的に暗い話です。そんな中に、会話に意味のないネタが織り込まれ、それがあるので、ギリギリ暗いだけの話にならずにすんでいる。二人の人生に明るさはないのに、先輩芸人を支えていた恋人や、花火のときのエピソードなど、普通に書くとクサイようなエピソードが織り込まれ、ほんの少し光を感じられる。
 ネットに書かれる批判について、二人が話すことも、ネット社会の中で生きるとき、それをどう捉えるか、納得というか、考え方としていいなと思ったのでした。
 ラストへ向かう部分も安易でなく、私はこういう終わりかたは好きだなと思いました。生きるって、悲しい。でも生きていくしかないんだよ、と思わせる。これ、児童文学で書けたらいいなあと思ったりして。でも、難しいかな。この年齢の登場人物だからこその展開ですしね。
 あ、そうだ。お笑いという分野での物語ですが、小説だったり絵だったり、何か生み出して人に見てもらうというところで、実は根本が一緒なのでシンクロする部分もあるわけです。
 作者は太宰治が好きなのだそうで、それもうなずけました。太宰の頃の小説家と今の芸人さんって、案外近いのかもしれませんね。飲んだくれて、女に養ってもらって、認められるかどうかなんてわからないのに、必死になって。

 表紙の絵は、何を意味しているのか?

 お笑い芸人としての作者には全く興味はなく、また作家としては2作目が期待されていますが、私は期待しません。これ1作に日頃考えていることを投入しきったのではないかしら? と思えたから。もちろん、2作目がこれを超えたら、それはもう本物! ですが。
 もう一作の芥川賞受賞作も読みたい。あの作者の作品、以前一度読んで、グロいというイメージでダメだったのですが、今回は若い人が介護をするという話らしいし、どんな感じで描いたのでしょうか。

 

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