[5月13日07時15分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は予てより、最大口顧客であるNPO法人デイライト東京事務所の善場優菜係長より紹介された脳神経クリニックに向かうところだ。
何しろ、ここ最近の私には記憶障害とフラッシュバック、それに伴う激しい頭痛の症状が頻発するようになり、それを心配してくれた善場係長がクリニックを紹介して下さったというわけだ。
そのクリニックは土曜日も診療しており、また、MRIやMRAだけの検査なら予約無しでできるということもあり、手が空いた今日、行くことにした。
本当なら高橋に車で送ってもらおうかと思っていただが、昨日のタイミングで高橋が新型コロナという名の武漢ウィルスに感染。
高熱と頭痛、咽頭痛で倒れており、部屋で養生している。
また、パールはパールで、高橋の看病をするという重大な任務がある。
仕方が無いので、私は1人で電車とバスで向かうことにした。
クリニックは埼玉県にあるものの、けして交通不便な場所にあるわけではないからだ。
近くまでは京浜東北線または埼玉高速鉄道で行けて、クリニックの近くまで行くバスの本数も比較的多い。
今日はリサも登校日なので、上野までは一緒に行くことにした。
……のだが!
愛原「それじゃ行ってくるから、高橋のこと、宜しく頼むな?」
パール「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
リサ「行ってきまーす」
リサは東京中央学園の制服に身を包んでいる。
5月からは夏服となる為、ブレザーは着ていない。
また、スカートも夏用のグリーンのプリーツスカートで、ブラウスも薄緑色の半袖だった。
グリーンは東北新幹線のラインカラー、若竹色に酷似している。
ブラウスの色は、山手線のウグイス色に似ていた。
私はというと、ベージュのチノパンに水色のシャツ、黒のジャケットを羽織っている。
2階から1階へ下りる階段のドアを開けようとした時だった。
高橋「せ……先生……待って……くだせぇ……ゲホッ!ゲホッ!」
高橋が部屋から這いずり出て来た。
愛原「おい、高橋!見送なんかしなくていいぞ!寝てろよ!」
高橋の熱は、まだ39度ほどある。
昨日、薬を飲む前の40度よりはマシになったが、まだまだ寝てなきゃいけないレベルだ。
高橋「い……行っては……なりませ……ゲホッ!ゴホッ!ガハッ!!」
愛原「は!?何だよ!?」
高橋「い……行かない……で……ください……」
愛原「な、何で!?」
リサ「きっとお兄ちゃん、熱で頭がやられたんだよ。それか、変な夢でも見たか……」
高橋「せんせ……ぇ……危険……です……ゲホッ!ゲホゲホッ!!」
まるで這いずりゾンビのように這いずりながら、私の元へ縋りつくように……。
リサ「はいはい!病人は寝ててね!」
パール「マサ!先生のお邪魔をしちゃダメって、自分で言ってたでしょ!」
高橋「あ~……れ~……」
事務所の女性陣2人に、寝室に連れ戻される高橋であった。
寝室にいても、高橋の激しい咳や痰の絡む音が響いてくる。
新型コロナは呼吸器をやられるとは聞いていたが、高橋の場合、喫煙者でもあるから尚更だろう。
同じく初期症状に激しい咳があるCウィルスと似ているかもしれない。
新型コロナの特効薬にリサのGウィルスが使えるのではとされていた時期があったが、それはCウィルスもまた、材料としてGウィルスが使われていたからというのもある。
リサ「寝かせて来た」
愛原「ご、ご苦労さん!」
リサ「わたしのGウィルスの『胚』とか、『寄生虫』とかがあれば、それで大人しくさせられるのにねぇ……」
愛原「危険だからやめなさい。で、今はどうしてるんだ?」
リサ「パールさんがスタンガンで気絶させたw」
愛原「……今のは、聞かなかったことにしておこう」
私とリサは家を出た。
[同日07時25分 天候:晴 同地区内 都営地下鉄菊川駅→都営新宿線703T電車・先頭車内]
〔まもなく、1番線に、各駅停車、笹塚行きが、10両編成で、到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
土曜日ということもあり、平日の同じ時間と比べれば空いている。
やってきたのは、東京都交通局の車両。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕
ホームドアと車両のドアが開く。
平日よりは空いているとはいえ、空席があるほどガラガラというわけではない。
私とリサは先頭車に乗り込むと、運転室のすぐ後ろに立った。
すぐに短い発車メロディが鳴る。
〔1番線、ドアが閉まります〕
電車のドアとホームドアが閉まる。
駆け込み乗車は無かったか、再開閉は無かった。
ドアが閉まり切ると、運転室内から発車合図のブザーが聞こえて来る。
それから、ハンドルをガチャッと操作する音が聞こえ、エアーが抜ける音がして、電車が動き出した。
私は手すりに掴まっているが、リサは私の腕を掴んでいるだけ。
〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
愛原「それにしても高橋、あそこまで錯乱するとはな……」
リサ「きっと、悪い夢でも見たんだよ。先生が途中で事故に遭う夢とか……」
愛原「おいおい。縁起でも無いこと言うなよ……」
リサ「大丈夫。……だったら、病院までわたしが一緒に行こうか?先生の護衛なら任せて」
愛原「ちゃんと学校には行こうな」
リサ「今は頭痛、大丈夫なの?」
愛原「今のところは……」
かつての豪華客船“顕正号”のことについて思い出そうとすると、激しい頭痛とフラッシュバックが起きる。
そこで何か私は、トラウマを抱えるような事件に巻き込まれたのだろう。
しかし、詳細は高橋はもちろん、高野君も教えてくれない。
それを明らかにする為にも、やはり脳検査は必要だろう。
リサ「ところで、お兄ちゃんには、クリニックの場所は教えてあるの?」
愛原「いや、埼玉としか教えてないな。詳しい話をしようとした時に、ダウンしたから」
もしかしたら、更に川口市とまでは伝えていたかもしれない。
しかし、住所やアクセス法については一切話していない。
愛原「それがどうした?」
リサ「うーん……何でもない」
愛原「ん?」
リサはリサで、思い当たる節でもあるのだろうか?
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は予てより、最大口顧客であるNPO法人デイライト東京事務所の善場優菜係長より紹介された脳神経クリニックに向かうところだ。
何しろ、ここ最近の私には記憶障害とフラッシュバック、それに伴う激しい頭痛の症状が頻発するようになり、それを心配してくれた善場係長がクリニックを紹介して下さったというわけだ。
そのクリニックは土曜日も診療しており、また、MRIやMRAだけの検査なら予約無しでできるということもあり、手が空いた今日、行くことにした。
本当なら高橋に車で送ってもらおうかと思っていただが、昨日のタイミングで高橋が新型コロナという名の武漢ウィルスに感染。
高熱と頭痛、咽頭痛で倒れており、部屋で養生している。
また、パールはパールで、高橋の看病をするという重大な任務がある。
仕方が無いので、私は1人で電車とバスで向かうことにした。
クリニックは埼玉県にあるものの、けして交通不便な場所にあるわけではないからだ。
近くまでは京浜東北線または埼玉高速鉄道で行けて、クリニックの近くまで行くバスの本数も比較的多い。
今日はリサも登校日なので、上野までは一緒に行くことにした。
……のだが!
愛原「それじゃ行ってくるから、高橋のこと、宜しく頼むな?」
パール「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
リサ「行ってきまーす」
リサは東京中央学園の制服に身を包んでいる。
5月からは夏服となる為、ブレザーは着ていない。
また、スカートも夏用のグリーンのプリーツスカートで、ブラウスも薄緑色の半袖だった。
グリーンは東北新幹線のラインカラー、若竹色に酷似している。
ブラウスの色は、山手線のウグイス色に似ていた。
私はというと、ベージュのチノパンに水色のシャツ、黒のジャケットを羽織っている。
2階から1階へ下りる階段のドアを開けようとした時だった。
高橋「せ……先生……待って……くだせぇ……ゲホッ!ゲホッ!」
高橋が部屋から這いずり出て来た。
愛原「おい、高橋!見送なんかしなくていいぞ!寝てろよ!」
高橋の熱は、まだ39度ほどある。
昨日、薬を飲む前の40度よりはマシになったが、まだまだ寝てなきゃいけないレベルだ。
高橋「い……行っては……なりませ……ゲホッ!ゴホッ!ガハッ!!」
愛原「は!?何だよ!?」
高橋「い……行かない……で……ください……」
愛原「な、何で!?」
リサ「きっとお兄ちゃん、熱で頭がやられたんだよ。それか、変な夢でも見たか……」
高橋「せんせ……ぇ……危険……です……ゲホッ!ゲホゲホッ!!」
まるで這いずりゾンビのように這いずりながら、私の元へ縋りつくように……。
リサ「はいはい!病人は寝ててね!」
パール「マサ!先生のお邪魔をしちゃダメって、自分で言ってたでしょ!」
高橋「あ~……れ~……」
事務所の女性陣2人に、寝室に連れ戻される高橋であった。
寝室にいても、高橋の激しい咳や痰の絡む音が響いてくる。
新型コロナは呼吸器をやられるとは聞いていたが、高橋の場合、喫煙者でもあるから尚更だろう。
同じく初期症状に激しい咳があるCウィルスと似ているかもしれない。
新型コロナの特効薬にリサのGウィルスが使えるのではとされていた時期があったが、それはCウィルスもまた、材料としてGウィルスが使われていたからというのもある。
リサ「寝かせて来た」
愛原「ご、ご苦労さん!」
リサ「わたしのGウィルスの『胚』とか、『寄生虫』とかがあれば、それで大人しくさせられるのにねぇ……」
愛原「危険だからやめなさい。で、今はどうしてるんだ?」
リサ「パールさんがスタンガンで気絶させたw」
愛原「……今のは、聞かなかったことにしておこう」
私とリサは家を出た。
[同日07時25分 天候:晴 同地区内 都営地下鉄菊川駅→都営新宿線703T電車・先頭車内]
〔まもなく、1番線に、各駅停車、笹塚行きが、10両編成で、到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
土曜日ということもあり、平日の同じ時間と比べれば空いている。
やってきたのは、東京都交通局の車両。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕
ホームドアと車両のドアが開く。
平日よりは空いているとはいえ、空席があるほどガラガラというわけではない。
私とリサは先頭車に乗り込むと、運転室のすぐ後ろに立った。
すぐに短い発車メロディが鳴る。
〔1番線、ドアが閉まります〕
電車のドアとホームドアが閉まる。
駆け込み乗車は無かったか、再開閉は無かった。
ドアが閉まり切ると、運転室内から発車合図のブザーが聞こえて来る。
それから、ハンドルをガチャッと操作する音が聞こえ、エアーが抜ける音がして、電車が動き出した。
私は手すりに掴まっているが、リサは私の腕を掴んでいるだけ。
〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
愛原「それにしても高橋、あそこまで錯乱するとはな……」
リサ「きっと、悪い夢でも見たんだよ。先生が途中で事故に遭う夢とか……」
愛原「おいおい。縁起でも無いこと言うなよ……」
リサ「大丈夫。……だったら、病院までわたしが一緒に行こうか?先生の護衛なら任せて」
愛原「ちゃんと学校には行こうな」
リサ「今は頭痛、大丈夫なの?」
愛原「今のところは……」
かつての豪華客船“顕正号”のことについて思い出そうとすると、激しい頭痛とフラッシュバックが起きる。
そこで何か私は、トラウマを抱えるような事件に巻き込まれたのだろう。
しかし、詳細は高橋はもちろん、高野君も教えてくれない。
それを明らかにする為にも、やはり脳検査は必要だろう。
リサ「ところで、お兄ちゃんには、クリニックの場所は教えてあるの?」
愛原「いや、埼玉としか教えてないな。詳しい話をしようとした時に、ダウンしたから」
もしかしたら、更に川口市とまでは伝えていたかもしれない。
しかし、住所やアクセス法については一切話していない。
愛原「それがどうした?」
リサ「うーん……何でもない」
愛原「ん?」
リサはリサで、思い当たる節でもあるのだろうか?