“Ｇｙｎｏｉｄ Ｍｕｌｔｉｔｙｐｅ Ｃｉｎｄｙ” 「エミリーとの契約（鋭意検討中）」

［１月８日１３：３０．天候：曇　ＤＣＪロボット未来科学館］

　平賀の講演会、午後の部が始まった。

　館員Ａ：「Ｐｅｐｐｅｒ直ったぞ」
　館員Ｂ：「まさか、ゴンスケと一緒に埋まっていたとはな」

　台車に乗せてガラガラとＰｅｐｐｅｒを運んできた館員達。

　シンディ：「お疲れさまです」

　因みにＰｅｐｐｅｒが修理の間、シンディが代わりに立っていたという。
　Ｐｅｐｐｅｒが地中に埋まったのは、別にシンディのせいではないのだが、成り行き上そうなった。

　シンディ：「ほら、降りて」

　シンディはＰｅｐｐｅｒを台車から降ろす。

　館員Ａ：「ちょうどその辺りだ」
　シンディ：「こちらでよろしいですか？」

　シンディは総合受付の横にＰｅｐｐｅｒを置いた。

　館員Ｂ：「早速起動だ」

　館員達がＰｅｐｐｅｒを起動させた。

　シンディ：「あんた、大丈夫？」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「こんにちは。Ｐｅｐｐｅｒです」
　シンディ：「頭の方は大丈夫？今の日本の総理大臣の名前は？」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「安倍晋三氏です」
　シンディ：「顕正会の会長の名前は？」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「浅井昭衛氏です」
　シンディ：「日蓮正宗の法主上人の名前は？」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「早瀬日如師です」
　シンディ：「多摩準急名誉監督の本名は？」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「山【バキューン！】です」
　シンディ：「魔界王国アルカディアの女性魔王の名前は？」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「ルーシー・ブラッドプール１世です」
　シンディ：「厳虎独白の管理人、厳虎さんの居住地は？」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「神奈川県横浜市です」
　シンディ：「７号機のレイチェルは、誰にトドメを刺された？①１号機のエミリー　➁敷島孝夫　③結月ゆかり　④８号機のアルエット　⑤井辺翔太」
　Ｐｅｐｐｅｒ：「④です」

　シンディ、ドヤ顔で館員達に言う。

　シンディ：「Ｐｅｐｐｅｒの人工知能、異常ありません！」
　館員Ａ：「質問の内容が既に異常でんがな！」
　館員Ｂ：「キミも一応、人工知能の点検をした方がいいかもしれん」
　アルエット：「お姉ちゃん、呼んだ？」
　シンディ：「呼んでないよ。いいからあんたは、展示ブースに戻りなさい」
　アルエット：「えーっ？」
　シンディ：「仕事はちゃんとしないとダメよ」

　シンディはアルエットの頭をポンと叩いた。
　因みにアルエットは、よく髪型や色を変えている。
　今は少しウェーブの掛かった黒髪をセミロングにしている。
　７号機までの旧型と違い、ウィッグを簡単に着脱できるようだ。
　たまに前髪で、右目が隠れることがある。
　メカクレ（目隠れ）萌えを狙っているのだろうか。

　アルエット：「はーい」
　敷島：「おっ、シンディ。そこにいたのか」
　シンディ：「社長」
　敷島：「平賀先生の講演が終わったら、先生を宿泊先のホテルまで送るぞ」
　シンディ：「都内のホテルじゃなくて？」
　敷島：「ああ。どういうわけだか、市内のホテルらしいな」

　平賀が上京したのは何も科学館内における講演だけに限らず、客員教授を務める都内の大学にて講義を行う為である。
　それなら都内のホテルに泊まった方が良いのではないかと思うが、どういうわけだか今日はさいたま市内であるという。

［同日１５：００．天候：晴　埼玉県さいたま市大宮区］

　敷島達は車で大宮区内のパレスホテルに向かった。

　平賀：「敷島さん、少し時間ありますか？」
　敷島：「ええ。アリスの具合はどうだろう？」
　シンディ：「二海に聞いたら、今は普通にお休みになっておられるとのことです」
　敷島：「そうか。それなら大丈夫ですよ、先生」
　平賀：「ありがとうございます。いえ、ちょっとエミリーのユーザー登録の件についてです」
　敷島：「なるほど。それは大事な話ですね」

　平賀はホテルにチェックインした。

　平賀：「エミリーとシンディはロビーで待っててくれないか？」
　エミリー：「かしこまりました」
　敷島：「平賀先生と２人で話をしたいからな」
　シンディ：「分かりました」

　敷島と平賀はホテルのカフェに入った。
　コーヒーなど注文すると、早速本題に入った。

　平賀：「改めまして、エミリーがワガママ言って申し訳無いですね」
　敷島：「いきなりアンドロイドマスターの称号と言われましても、何だかって感じですね」
　平賀：「仰る通りです。実はですね、あの後、色々調べてみたんですよ。まだ整理し切れていない南里先生の研究成果とかありますのでね」
　敷島：「まだあるんですか？」
　平賀：「世界的権威のある先生だっただけに、膨大な研究成果を遺して逝かれましたよ」
　敷島：「それで、エミリーのことは？」
　平賀：「どうやら南里先生は既に、敷島さんを大きく見込んでいたと思われます。そしてエミリーに組み込んだ条件を全てクリアしたら、敷島さんに仕えるように設定していたようです」
　敷島：「その設定を取り消すことはできるんですね？」
　平賀：「いえ、それができません」
　敷島：「えっ？……と、言いますと？」
　平賀：「南里先生がそのように設定されたということは、先生の御意向だということですよ。つまり、エミリーが敷島さんを見込んで、敷島さんに使ってもらいたいと自ら望んだ場合、そうして欲しいということだったんです」
　敷島：「あれ？でも確か、別の遺言ではエミリーを墓場まで持って行きたいというのもあったんですよね？」
　平賀：「それについても判明しました。それはつまり、敷島さんが見込み違いの人であったならば、もうエミリーを使いこなせる人間はいない。だったら、エミリーを処分してくれということだったんです」
　敷島：「ええ〜……」
　平賀：「だから敷島さんは、むしろエミリーを使うべきです。それが南里先生の御意向だったんですから。オーナーの権利は自分に譲って下さいましたが、ユーザーは敷島さんに、しかしそれに相応しいかどうか様子見したかったのでしょう」
　敷島：「いつの間にクリアしていたのやら……。ってか、それは義務なんですか？」
　平賀：「恐らくＰＣのアップデート通知みたいに、無視し続けても事あるごとにアピールしてくると思いますよ」
　敷島：「それはそれでウザいですな」
　平賀：「ですので、肚を決める必要があるかと」
　敷島：「顕正会の折伏じゃないんだから……。ユーザー登録を決めるとして、どう使うかですね」
　平賀：「取りあえずは、今使っているシンディと同じ用途でいいんじゃないでしょうか。シンディが損傷した時、エミリーが代役を果たしたでしょう？何か過不足がありましたか？」
　敷島：「特には無かったですね。しかしどうして、シンディもなかなか話せて使い勝手のいいヤツですからね。手放すのは勿体無いなぁ……」
　平賀：「手放す必要は無いでしょう。あくまでも、シンディのオーナーはアリスでしょう？それに、ユーザー登録は重複ＯＫですからね」

　因みに敷島は、アルエットのオーナー登録をしている。
　ボーカロイドも敷島エージェンシー所属の者は全て敷島がオーナーになっているが、ボーカロイドとマルチタイプは別だと考えられている為、オーナー登録の重複にはならない。
　アルエットのオーナーになっている以上、敷島が重複して他のマルチタイプのオーナーになることはできないのだ。
　但し、ユーザー登録に際してはその制限は無い。

　敷島：「アリスとも相談して、どうするか決めますよ。アリス的にはメイドロイドが２機いるといいみたいなことを言ってましたから、シンディにはメイドロイドの用途を濃くしてもらうかもしれませんね」
　平賀：「慌てなくて結構ですよ。エミリーには自分から言ってきますから」
　敷島：「よろしくお願いします」

　尚、エミリーはこの時既に敷島が契約を決めてくれると大きく期待していたそうで、あいにくと検討中の回答をした時には肩を落とした。
　シンディが何とか宥めてくれたが、しばらくは俯き加減であったという。