報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「双子の危機」 2

2014-02-24 19:28:34 | 日記
[3月14日11:00. 財団仙台支部事務所 敷島孝夫、鏡音リン&レン]

「おう、お前達。大変だったな。ご苦労さん」
 敷島は総務部事務室にやってきたリンとレンの姉弟ボーカロイドを見つけて声を掛けた。
「兄ちゃん、戻って来たよ」
「何か……ヒビヤ総研が解散になるみたいですねぇ」
 リンはあくまで快活に、レンはばつが悪そうに言った。
「まあ、お前達のせいじゃないさ。財団の取り決めで、赤字の所にはボカロを貸し出さないことになってるんだからな。もっとも、ヒビヤ総研さんはそれどころでもなかったみたいだけどな」
 敷島は事務室内の一角にある談話コーナーに移動した。
 長椅子に隣り合う姉弟の向かいに、テーブルを挟んで座る敷島。
「新しい預け先が決まるまで、お前達は財団直接管理になる。まあ、すぐ見つかるから、ほんの少しの辛抱だ」
「今度はどういう所になるの?」
「いくつかもうオファーが来てるんだ。財団で精査して、なるべくいい所を見つけてやるからな」
「……と言っても、ほとんど兄ちゃんに決める権限があるんでしょ?昔取った杵柄ってヤツ?」
 リンがニヤッと笑った。
「こらこら……」
 敷島は苦笑した。
 半分はリンの言う通りで、新しい研究機関に預ける場合、敷島の出番はあまり無いが、芸能事務所とかレコード会社が相手の場合は殆ど敷島の独壇場である。
 そして今回、後者にすることが内定している。
 リンがそれを知っての発言だったかは不明だ。
「お前達は製造からもう7年も経って、“成長”している。それだけに掛かる期待は大きいからな」
「うん!」
「はい!」
 2人の姉弟は大きく頷いた。

[同日12:00. 財団事務所の入居しているビルの1階エントランスホール 敷島、リン、レン]

「解散が決まっているといっても、今月末までは稼働するわけだから、それまで気を抜くなよ?」
「もちろん」
「頑張ります」
 敷島はエントランスまで送った。
「ところで、アリス博士は今日はお留守ですか?」
 レンが聞いて来た。
「新しい研究所に行ってるよ。随分と荒れてるんで、いかに改築しようか頭を悩ませてるらしい」
「確か、昔の南里研究所でしたよね?」
「ああ」
「リン達、アリス博士の研究所でも良かったのに……」
「ダメダメ。お前達は更なるボカロの飛躍のため、芸能関係の事務所に行ってもらうことにしているから。とにかく、決まったらまた連絡するから」
「頼んだよ、兄ちゃん?」
「よろしくお願いします」
 2人の姉弟は手を取り合って、仲良くビルを出て行った。
「あのー、すいません」
 そこへ敷島に話し掛ける者がいた。
「はい?」
 それはスーツ姿で、敷島と同じくらいの年代の男。
 敷島は直感的に、芸能関係者と見受けた。
「私、番組制作会社の者ですが……」
(やっぱり!)
 と、敷島は自分の直感を確信した。
 とはいえ、番組制作会社辺りだと100パーセント正解というわけでもない……か。

[同日17:00. 財団仙台事務所 敷島孝夫&KAITO]

「だいぶ好評みたいじゃないか。お前の担当する、例のラジオ番組は……」
「ええ、おかげさまで」
 KAITOは笑みを浮かべた。
「ところで今日、リンとレンが来たとエミリーから聞きました」
「ああ。午前中な」
「あのコ達も大変ですねぇ……」
「お前みたいに、最初から芸能事務所にしておくんだったよ」
「1番いいのはプロデューサーが事務所を立ち上げてくれて、そこにボク達が全員所属することなんですけどね」
「だからそれは禁句だって。それにそんなことしたら、俺は財団のおエラさん達から訴えられるよ。南里研究所だったから、許されてたんだぞ」
「まあ、それはそうですが……」
 と、そこへ。
「ただいまァ!」
 アリスが戻って来た。
「アリス、遅いぞ」
「新しいラボが、アタシの好みに合う内装じゃないのよ」
「関係無いだろ。KAITOが整備を待ち侘びているぞ」
「あ、いえ、ボクは……。次はラジオ“冨士参詣深夜便”に出演するだけなので、あと6時間くらいあります」
「売れっ子じゃんかよ。ほら、アリス。早くしろ。売れっ子を待たせるな」
「分かったわよ」
「すいません。よろしくお願いします」

[3月15日 13:00.旧・南里研究所 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「だいぶ荒れたなぁ……。たった5年しか放置してないのに……」
 敷島は館内に入って意外な顔をした。
「人が住まないと、すぐに荒れるわけね。これがエミリーの弾いていたピアノ?」
「ああ」
「ふーん……。エミリーがこのピアノを弾く度に、シンディがイラついて荒れてたわね」
「そうなの!?」
「エミリーがこのピアノを弾く度に、バージョン達への命令が解除されるからね」
「もう1度入力すればいいんじゃない?」
「ただ単に命令を解除するだけじゃないから」
「そうか。確か、偽の電気信号を送り付けて、メチャクチャな行動をさせるとか聞いたな。“緑ノ娘”と“初音ミクの消失”辺りがそうか」
 どっちもミクの持ち歌である。
「そのメカニズムが解明されてないから、ラボが稼働したら、エミリーもらうから」
「それは平賀先生に言ってくれよ。今のオーナーは平賀先生なんだから」
「うへー……」
 アリスはげんなりした。
 表向きには和解しているが、平賀にとってアリスは師匠の仇の孫娘というのは揺るぎないからだ。
「けんもほろろだわ」
「そうだろうなぁ……」
「ところで、けんもほろろって何?」
「知らずに使うな!」

[同日17:00. 宮城県宮城郡利府町 セキスイハイム・スーパーアリーナ ボーカロイド・オールスターズ]

「皆さぁん!今日はボーカロイド東北ライブに来てくれて、ありがとうございまぁーっす!」
 センターを張る初音ミクが観客に向けて挨拶する。
 歓声と共にサイリウムの渦がステージを照らした。
 特にミクファンはネギを模した緑と白のサイリウムである。
「では早速1曲目から張り切って、歌いたいと思いまーす!」
 1曲目はボーカロイド全員で歌う。

[同日20:00. 同場所 出演者控え室 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

「よっ、お前達。ご苦労さん」
 ライブが終わったボカロを見舞う敷島達。
「あっ、たかおさん!」
「プロデューサー、来て頂いたんですか」
「ちょっと!仕事が忙しいのに、無理しなくていいのよ?」
 しかし、少なくとも南里研究所にいたボカロ達は嬉しそうに敷島を囲む。
「ライブは今日と明日の2日間だったか。ちょっとハードだけど、それだけファンが大勢いるということだからな、明日も頑張ってくれよ」
「はい!」
「ありがとうございます!」
「あのー、たかおさん。リンとレンの新しい所属先は決まったんですか?」
 ミクが不安そうに聞いて来た。
「心配するな。もう来週中には決めるからな。マスコミにもそう伝えてある」
「あ、そういえば、芸能雑誌でも、リンとレンがどこに所属するか、もう予想してますよ?」
「はははっ!ま、そこは週刊誌の書くことだから。そういうことだから、頑張ってくれよ」
「はい!」

[同日20:30.宮城県道8号線(利府街道) 敷島孝夫&アリス・フォレスト]

 夜の県道を走る1台の車。
 敷島が運転し、助手席にはアリスがいる。
「本当にいいの?」
 アリスが聞いて来た。
「何が?」
「リンとレンのことよ。いくらプロジェクトの為とはいえ……」
「何だ、お前らしくもない。お前ならどんな結果になるか、1番楽しくやりそうだけどな」
「科学者だからよ。実験のリスクも考えなきゃ」
「何か、意外だな」
「だからアタシは、じー様の轍は踏まないって言ってるでしょ?“ベタなマッド・サイエンティストの法則”は、実験によるリスクを全く考えないってのもあるんだから」
「……正しい科学者として反対だと?」
「そりゃ実験内容は興味深いよ。だけど、どうもリスクが大きいような気がするのよね……」
「どのくらい大きい?」
「それはまた計算しないと分かんないよ」
 平仮名表記できるほどの流暢な日本語を話すアリスだが、所々にアクセントが不自然な所がある。
 それでも、わざわざカタカナ表記にしなくて済む程度だ。
「ま、とにかく、来週中には決めるからな。エミリーも頼むよ」
「分かってるよ」
                     続く

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1 コメント

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つぶやき (作者(ユタ))
2014-02-25 15:46:08
怖い怖い(・・;)))
ケンショーと法華講の女性同士のバトルって怖い!
緊急避難しましたお。

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