報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「地獄の千秋楽」

2016-12-10 20:38:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月11日13:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 JR指扇駅]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の電車は13時20分発、りんかい線直通、快速、新木場行きです。次は、西大宮に止まります〕

 2面2線の対向式ホームに、敷島とアリス、そしてシンディの姿があった。
 さいたま市西区と言えばDCJロボット未来科学館があるのだが、この3人はこの時間になって、そこから移動するつもりのようである。

 敷島:「何で今更、ロボットサーカスなんか……。俺、これで3度目だぜ?」
 アリス:「アタシもどんな所なのか見てみたかったのよ。それに、ルディに関してはアタシも関係あるしね」
 敷島:「俺的にはルディの部品を流用した別のロイドって見方してるけどなぁ……」
 アリス:「どんな改造がされているか興味があるからね」
 敷島:「結構な探究心で」

〔まもなく2番線に、快速、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、西大宮に止まります〕

 敷島が肩を竦めていると、ホームに電車の接近放送が鳴り響いた。
 単線の線路の先から、速度を落として緑色の帯を巻いたE233系がやってくる。

〔さしおうぎ〜、指扇〜。ご乗車、ありがとうございます〕

 敷島達は先頭車に乗り込んだ。

 シンディ:「マスター、社長。こちらへ」

 シンディは空いている席へ2人を誘導した。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 冬の日差しが差し込む中、電車は再び単線の線路へと走り出した。
 日進駅までは単線であり、そこからやっと複線となる。

〔次は、西大宮です〕

 敷島:「確かにお台場までこの電車一本で行けるけど、相当時間が掛かるぞ。大丈夫か?」
 アリス:「いいよ。日本の電車は時間通りだし、治安いいし」
 敷島:「まあ、平日と比べればダイヤ乱れは少ないか」

 敷島はチケットを取り出した。
 千秋楽の、しかも最後の部である。
 大トリを飾るのに、何か特別な出し物があるようだが……。

[同日15:00.天候:晴 東京都内臨海副都心(お台場)ロボット大サーカス・バックヤード]

 アレックス:「あ、マーガレットさん、何だか落ち着かなくて……」
 マーガレット:「大丈夫よ。午前の部の綱渡りも上手く行ったし、午後の部のバイクも上手く行ったじゃない」

 結局、午後の部ではサンダーボルトのバイクの後ろに乗るということをやらされた。

 マーガレット:「だから、次も必ずできるわ」
 アレックス:「うん……」
 マーガレット:「実はね、この公演が終わったら、あなたを自由にしてもらうように団長にお願いしてあるの」
 アレックス:「えっ?」
 マーガレット:「あなたは私達、サーカス団員以上の性能を持ってるわ。あなたはずっとここに埋もれる必要は無い」
 アレックス:「でもボク、どこに行ったらいいか分かんないよ」
 マーガレット:「前に、ここに敷島エージェンシーの社長さんが来たことがあったでしょ?」
 アレックス:「確か、ボーカロイド専門の芸能プロダクション……」
 マーガレット:「うちの団長より、あの社長さんの方があなたを大事にしてくれると思う。話を聞いていて、そう確信したの」
 アレックス:「そうかなぁ……?あの人も、何だか怖そうに見えた」
 マーガレット:「一緒にいた護衛ロイドがいたでしょ?あの背が高くて金髪の……」
 アレックス:「うん」
 マーガレット:「あのロイドの様子を見ていて、何となく分かったの。あの人はロイドを大事に扱ってくれる人なんだって。あなたの性能を最大限に引き出してくれるのだと」
 アレックス:「そうかぁ……」
 マーガレット:「でも、その為には条件があるわ。……そう、あなたが電磁輪潜りに成功すること。それが団長と交わした約束」
 アレックス:「うん、分かった。ボク、頑張る」
 マーガレット:「その意気よ。頑張ってね」

[同日15:40.天候:晴 ロボット大サーカス会場]

 敷島:「結局、平賀先生達は来れなかったか……」
 アリス:「代わりに私が見てみるよ」
 敷島:「最初はあまり面白くないんだ。ま、適当に観てようや」
 アリス:「科学館のイベントには使えないかしらね?」
 敷島:「どうだろうな?」

〔「皆様、ようこそ、ロボット大サーカスへ!私、当サーカスの団長を務めております、ベイカー南田と申します。最初にお目に掛けまするは、当サーカス期待の新人、その姿は完全なる人型ロイド、アレックスとゴーレムの一騎打ちにございまする。アレックスが勝つか、ゴーレムが勝つか、世紀の大決戦の始まり始まりィ〜!」〕

 敷島:「なに?いきなりルディが出て来た!?」
 アリス:「何これ?ローマのコロッセオ?ロボット版の……」
 敷島:「な?つまらんだろう?」
 アリス:「あんな木偶人形、シンディなら一発KOよ。ねぇ、シンディ?」
 シンディ:「はい。そんな気がします……」

 逆を言えば、だ。
 もしアレックスがルディであれば、シンディよりも最新型のマルチタイプなわけだから、余裕で図体がデカいだけのゴーレムをいとも簡単に倒せるわけで、実際そうだった。

 敷島:「まあ、そうなるわな。アリス、どう思う?」
 アリス:「あのアレックスってロイドがルディがどうかは分かんないよ。やっぱり、姿が全然違うもの。でもシンディのスキャン結果が38%くらいだという数字もまた事実なわけだからね。アタシはあいつが元々はルディだったという仮説を信じるわ」
 敷島:「じゃあ、どうする?」
 アリス:「本当にサーカスの団員として稼働するつもりなら、人畜無害なわけだから、それでいいと思う」
 敷島:「まあ、そうなるよな。だけども、警察屋さん達はそう考えてはいないみたいだ」

[同日17:00.天候:晴 ロボット大サーカス会場・バックヤード]

 団長:「おい、マーガレット!何してる、そこで?」

 マーガレットは空中ブランコに出る為、既に衣装であるセクシーなレオタードを着ていたが、座り込んで俯いていた。

 マーガレット:「何だか調子悪くって……。フィリピン公演の時から、ずっとオーバーホールを受けてないのよ?」
 団長:「この公演が終わるまで我慢しろ。ここが上手く行ったら、全国公演ができるんだぞ。それまでの辛抱だ。そろそろお前の出番だぞ」
 マーガレット:「分かったわよ」

 マーガレットは立ち上がると、会場に向かった。
 ……これが悲劇の元になるとは知らずに。

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