報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京からアルカディアへ」

2018-04-29 19:27:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日23:40.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 稲生達を乗せたタクシーは首都高速をひた走った。
 途中の夜景に見惚れたりしたマリアだったが、河合有紗の幽霊がまだ見張っている所を見ると、そんなに油断して楽しめるはずもなかった。
 首都高を降りてしばらく走り、ホテルに近づく。

 稲生:「先生、もう既に他の組は来ているようです」
 イリーナ:「そりゃそうさ。こりゃ、ヘタすると私達が1番最後かもね」
 マリア:「あの黒いゼロクラウン、多分アナスタシア先生の車ですよ」

 ホテルの近くのコインパーキングを黒塗りの車が占拠していた。
 ゼロクラウンの他にアルファードやエルグランドも止まっていたから、アナスタシア組が日本国内移動の際に使用する車で間違い無いだろう。
 アナスタシアは表向き反日家ということになっており、日本国内にも拠点を構えているにも関わらず、それはあくまで中継点と主張し、拠点であることは頑なに否定している。
 しかしその割には日本車を用意したり、イオンで爆買いしたり、観光地を巡ったりしていて、日本を超エンジョイしているのだ。
 中国人か、こいつは!

 稲生:「相変わらず、黒が好きな人達ですね」
 イリーナ:「魔法道は黒くあるべし、がナスちんの言い分だからね」
 マリア:「また仲間を変な呼び方して……」
 稲生:「タクシーとはいえ、僕達も黒い車で移動してますからね」
 イリーナ:「ま、車の色に関しては、私達も他人のことは言えないってか」
 稲生:「あ、すいません、あのホテルです。あのホテルの前で止めてください」
 運転手:「かしこまりました」

 タクシーがワンスターホテルの前で止まる。

 イリーナ:「はいよ、カード」
 稲生:「あ、すいません。カードで払います」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 稲生はイリーナからプラチナカードを受け取った。

 マリア:「師匠、バッグ持ちますよ」

 稲生が支払いをしている間、マリアとイリーナは先に車を降りた。

 イリーナ:「あらー?どういう風の吹き回し?」
 マリア:「師匠のカバン持ちは弟子の役目です」
 イリーナ:「何かで勉強したのかね?まあ、いいわ。持てるものなら持ってみて」
 マリア:「は?」

 マリアはイリーナから旅行カバンを受け取ったのだが……。

 マリア:「重っ!?」
 イリーナ:「そりゃそうよ。中身は中東で稼いだインゴッドだもん」
 マリア:「(空港で軽く持ってなかったか!?)これ、魔界に持って行くんですか?」
 イリーナ:「そうよ。まあ、全部は換金しないけどね。向こうでも金の需要は高いから」
 マリア:「はあ……」
 イリーナ:「大丈夫。留守番してくれたお駄賃と、マリアを泊めてくれた勇太君の家にインゴッドはあげるからね」
 マリア:「魔法具の材料には使えますかね……」

 マリアは首を傾げた。
 インゴッドを見せられても目が眩むことが無いのは、実物を見たことが無かったからだろうか。
 それとも、普通の人間の女を辞めているから感覚が違うのだろうか。

 稲生:「お待たせしました」

 稲生がタクシーから降りて来る。
 そして、イリーナにカードと領収証を渡した。

 イリーナ:「あら?意外と安かったわね」
 稲生:「羽田空港から定額制度を利用しましたからね」
 イリーナ:「あら、そうなの。全然知らなかったわ。マリアは知ってた?」
 マリア:「いいえ」
 イリーナ:「やっぱりこういう時、勇太君は頼りになるわね」
 稲生:「ありがとうございます」
 イリーナ:「さ、早く入りましょう」

 3人はホテルの中に入った。

 オーナー:「いらっしゃいませ」
 イリーナ:「こんばんは」
 稲生:「魔界の入口を使わせてください」
 オーナー:「かしこまりした。エレーナも先に行きましたので……」
 稲生:「ですよね」

 普段は行かない地下1階。
 下のボタンを押してもランプは点灯しないのだが、今回は点灯した。
 そして、エレベーターに乗り込む。

 稲生:「あの……まさかとは思うんですが……」
 イリーナ:「何だい?」
 稲生:「有紗の霊が魔界にまで付いてくるなんて無いですよね?」
 イリーナ:「ハハハハ。どうしてそんなこと聞くの?」
 稲生:「いや、何かそれでも憑いてきそうな気がして……」
 イリーナ:「ま、なるようになるわよ」
 稲生:「そんな……」

 ワンフロア降りるだけなので、エレベーターはすぐに地下1階に到着する。
 ここは機械室兼エレーナの部屋があるフロアである。
 普段は消灯されている機械室も、稲生達の為なのか点灯されていた。
 エレーナの部屋の前を通って、その奥に行く。

 稲生:「この魔法陣ですね」
 イリーナ:「そう。じゃ、すぐに移動するから中に入って」
 稲生:「はい」

 稲生とマリアは魔法陣の中に入った。

 イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。我らを魔界へ誘(いざな)い給え。魔界王国アルカディア、その王都アルカディアシティの中央に聳え立つ魔王城へ、我らを連れ去り給え。ルゥ・ラ!」

 イリーナが魔法を唱えると、魔法陣が光り出した。
 その光に稲生達が包まれる。
 尚、空間移動だけなら聖水を振り掛けるだけのものもあるが、異世界へ移動するという意味では魔法を使うことになるのか。

[魔界時間4月9日00:00.天候:晴 魔界王国アルカディア 王都アルカディアシティ 魔王城]

 人間界から魔界へ行く分には時差が発生しない。
 逆方向へは時差が発生するのに、その理由は定かではない。

 アナスタシア:「遅いわよ、イリーナ!」

 気がつくと稲生は薄暗い部屋にいて、アナスタシアの怒鳴り声が聞こえて来た。

 イリーナ:「ゴメーン、ナスっち」
 アナスタシア:「誰がナスっちだ!」
 マリア:「また変な仇名付けて……。勇太、大丈夫?」
 稲生:「……あ、はい」

 やたら殺風景な部屋である。
 石造りの倉庫の中にいるようだ。
 壁に設置された灯具が白い明かりを灯しているが、電力の弱い照明のように明るく輝いているわけではない。

 アナスタシア:「会場はこっちよ。早く来て」
 イリーナ:「はいはい」
 稲生:(何だ、この部屋が会場じゃなかったのか……)

 稲生はホッとした。

 稲生:「アナスタシア先生、わざわざ迎えに来て下さったんですか?」
 アナスタシア:「ダンテ先生から直々に言われたのよ。私の意思ではないわ」
 稲生:「そうでしたか」

 アナスタシアはイリーナ組に対する負い目があるので、ダンテの命令を拒否できなかったのだろう。
 門内トラブルの際、処分を受けたことがあったからだ。

 稲生:(さすがに魔界までは有紗も追って来れないだろう。しばらくは魔王城に匿ってもらうか……)

 稲生はそう思った。
 恐らくイリーナにもその算段はあったのだろう。
 だが、その算段はものの見事に【お察しください】。
コメント (4)
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“大魔道師の弟子” 「夜の東京を往く」

2018-04-29 10:27:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日22:45.天候:晴 東京都大田区羽田空港 羽田空港国際線ターミナル]

 中東からの航空便に乗って来た客達がぞろぞろと到着ロビーに姿を現す。
 そこからやってきただけあって、浅黒い肌をした者達が多い。
 もちろん、日本のビジネスマンと思しき者達も多々見られる。
 その中に、白人のイリーナはいた。

 稲生:「先生、お疲れ様です!」
 マリア:「殺しても死なない方だということは十分分かっていますが一応……よく御無事で」
 イリーナ:「ありがとう。いやー、やっぱり日本はいいねぇ……。“魔の者”もここまでは追って来れないからねぇ……。正にパラダイスだよ」

 イリーナはフードを取って言った。
 赤い髪が目立つ。

 稲生:「……あの、大師匠様は?」
 イリーナ:「ああ。ダンテ先生なら、先に行かれたよ」
 マリア:「ええっ!?」
 イリーナ:「私は後から飛行機で来ればいいって言ってね。ルゥ・ラで軽々と行かれたよ」
 稲生:「す、凄いですね……。ルゥ・ラで魔界まで……」
 イリーナ:「この流派の創始者だからね、何でもできるのよ。何でもね……」

 ふと一瞬、イリーナは遠い目をした。

 マリア:「何でも、ですか……。それじゃ……」
 イリーナ:「ん?」
 マリア:「勇太にストーキングしている悪霊を祓うことはできますか?」
 イリーナ:「あー、何か霊気を感じるなと思ったらそれか。……女の子の幽霊?勇太君、モテモテだねぇ……。うちの流派に入って良かったでしょ?」
 稲生:「は、はあ……」
 マリア:「おい」
 稲生:「あ、もちろん、マリアさんと一緒になれて……という意味ですよ!?」
 イリーナ:「ま、それについては追々何とかしましょう」
 稲生:「先生?」
 イリーナ:「それより早く、ワンスターホテルに行きましょう。そこの魔法陣から行けば、魔王城直行だから」
 稲生:「分かりました。それではハイヤーを……」
 マリア:「師匠しかいないんだから、電車でいいんじゃない?」
 イリーナ:「あのね……。でもまあ、勇太君の好きにしていいよ。お金ならあるし」

 イリーナはローブの中からインゴッドをチラリと見せた。

 稲生:「うわ……そんなに!?」
 イリーナ:「これでもまだほんの一部ね。そうね……今私の持っている大きさだと、今の金相場で500万円ってところかしら」
 稲生:「タクシー代、それで払えと?」
 マリア:「相変わらずの無茶ぶりですね」
 イリーナ:「冗談だお。カードならあるよ?」
 マリア:「最初からそう言ってください」

 3人はタクシー乗り場からタクシーに乗って向かうことにした。

[4月8日23:00.天候:晴 羽田空港国際線ターミナル タクシー乗り場→タクシー車内]

 意外と賑わうタクシー乗り場。
 もう電車も無くなりつつあるからか。
 あっても、もうそんなに遠くまで行く電車は無いほどだ。
 稲生達がもし電車で行こうとしても、それは事実上の終電車かその1つ前といったところとなる。

 イリーナ:「私はグランドマスターの中でも、タッパだから黄色いタクシーでいいよ」
 稲生:「今のところ、並んでいるタクシーにそれは無いですねぇ……」

 法人タクシーで黒塗りのハイグレード車両だ。

 イリーナ:「黒塗り?何だか、VIPだねぇ……」
 稲生:「僕達にとって、先生はVIPです」
 マリア:「ロンドンタクシーだって黒塗りですけど、別に高級ってわけじゃないでしょう?」

 2人の弟子は呆れてタクシーに乗り込んだ。
 イリーナを運転席の後ろに押し込む。

 イリーナ:「黒って魔女の色だもんね」
 マリア:「いや、だからぶっちゃけ魔女でしょ?私達」

 その時、マリアは僅かにイリーナの体から酒の臭いがしたのに気づいた。
 どうやら機内で飲んだらしい。
 助手席に乗った稲生は……。

 稲生:「えー、江東区森下までお願いします」
 運転手:「高速は通りますか?」
 稲生:「はい、お願いします」

 3人の魔道師を乗せたタクシーが走り出す。

 イリーナ:「あら、やぁねぇ。憑いて来ちゃってるわ」
 マリア:「マジですか?」
 イリーナ:「マジで。困ったねぇ。いくらクラウンセダンが(乗客)4人乗りとはいえ、勝手に便乗されちゃあねぇ……」
 マリア:「師匠、何とかしてくださいよ」
 イリーナ:「大丈夫。まだ何かしてくるわけじゃないよ。それに……私はまだ事情を聞いてないんだけどね」
 稲生:「そ、そうでしたね」

 稲生は振り向いてイリーナに話そうとした。

 イリーナ:「いや、いいよ。マリア。あなたは聞いてるんでしょう?あなたから聞かせてくれない?」
 マリア:「は、はあ……」

 マリアは河合有紗の幽霊について話した。
 尚、途中から嫉妬の感情が混じっていたことだけは話しておく。

 イリーナ:「……うん、なるほど」

 イリーナは右手を顎にやって考えた。
 尚、稲生に説明させなかったのは、稲生にとっては良い思い出があっただろうから、それを込めて話されると、マリアがキレるからだと思ったのである。

 イリーナ:「うーん……。恋愛感情が込み入ると、生きている人間でさえストーカーになるくらいだからね。ましてや、死んだ人間が幽霊化するなんてよくあることだよ」
 稲生:「先生、どうしたら良いものでしょうか?」
 イリーナ:「私がいるうちは、もう安心。だから、心配しなくてもいいのよ」
 稲生:「どうか、よろしくお願いします」
 マリア:「それで師匠、河合有紗の遺骨を盗んだヤツというのに心当たりはありませんか?私はネクロマンサーの類だと思うのですが……」
 イリーナ:「うちの流派にも、ネクロマンサーのジャンルを得意としている組があるね。その人達に当たってみる?」
 稲生:「まさか、その人達が犯人ってんじゃ……?」
 イリーナ:「だったら却って面白いことになるんだけどね。でも、それは無いわ。私の知ってる限り、欧米しか活動していないから。中国のキョンシーとか、研究してみたら面白いものもあるだろうに……。まあ、東アジア魔道団が張ってるから、それは無理か。中東ですらギリだったもんね」
 マリア:「いや、中東って、思いっ切りアジアです」

 とにかくイリーナが警戒していないところをみると、本当に大丈夫なのだろう。
 稲生はホッとして前を向いた。
 タクシーは夜の首都高をひた走る。
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