報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生勇太に迫る恐怖」

2018-04-22 20:09:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月8日14:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 藤谷の運転するベンツGクラスが稲生家の前に到着する。
 庭を覗くと、稲生悟郎が借りたレンタカーは無くなっていた。
 どうやら、本当に今は都内をドライブしているようである。

 稲生勇太:「班長、送って頂いてありがとうございました」
 藤谷春人:「いや、いいんだよ。こうなったら、マリアさんやイリーナ先生に対応策を考えてもらうしかないよ」
 稲生:「そうします」
 鈴木弘明:「先輩、マリアンナさんは中にいるんですよね?」
 稲生:「そうだよ」
 藤谷:「鈴木君、2人の邪魔をしてはイカン」
 鈴木:「分かってますよ」

 玄関のドアを開けると、両親はいなくてマリアの靴だけがあった。

 稲生:「ただいま帰りました」
 マリア:「ああ、お帰り。……う、鈴木……」
 鈴木:「こんにちはー」
 藤谷:「マリアさん、お久しぶりです」
 マリア:「ああ、藤谷さん……。どうも……」
 稲生:「具合どうですか?」
 マリア:「エレーナに無理やり押し売りされたエリクサーのおかげで、少しは良くなった」
 鈴木:「えっ、エレーナが来てたんですか!?しかもエリクサーって、まるでファンタジーですね」
 藤谷:「じゃ、鈴木君。俺達はお寺に戻るぞ」
 稲生:「班長、良かったらマリアさんに今までの出来事を説明してあげるというのは……」
 マリア:「何かあったのか?」
 稲生:「ええ、まあ……。良かったら班長、鈴木君、上がってお茶でも……」
 藤谷:「あ、ああ。すまない」
 鈴木:「お邪魔しまーす!」

 稲生達は玄関から中に入ると、応接間へと移動した。

 稲生:「ちょっと待っててください。今、紅茶を入れます」
 藤谷:「ああ、どうも、お構いなく」

 藤谷は煙草を取り出すと、それに火を点けた。
 因みにマリアは今、白いブラウスに紺色のベスト、赤いリボンに緑色のスカートをはいていた。
 藤谷はフーッと煙草をくゆらすと口を開いた。

 藤谷:「マリアさんね、出たよ。……あなたの恋敵が」
 マリア:「……!」

 藤谷の言葉だけで、マリアの顔色がサッと変わった。

 藤谷:「これを見てもらえますか?」

 藤谷は折られた塔婆と、そこに書かれた血文字を見せた。

 マリア:「これは……!」
 藤谷:「どうやらこの稲生君の初恋の人、ガチみたいだぜ。稲生君がせっかく追善供養してあげようとしても、納得しないみたいだ。分かりますか?」
 マリア:「勇太の命を狙っている……!?」
 藤谷:「ええ。地獄界のどこに堕ちたか知りませんが、どうやら寂しいらしいです。こちら側の追善供養を無視して、稲生君を連れ去ろうとしている」
 マリア:「そうか……」
 鈴木:「それにしても、先輩のタイプなんですかね」
 藤谷:「何が?」
 鈴木:「河合有紗さんの特徴を教えてもらいましたけど、マリアさんに似てるんですよね」
 藤谷:「あー、なるほど」

 恋敵と似ていると言われ、マリアはムッとした。

 藤谷:「ああ、悪い。別に、マリアさんをバカにしたつもりは無いんだ。ただ、やっぱり稲生君のタイプはブレなかったということさ。本来の性格も、マリアさんのように冷静な感じだったらしいですよ」
 マリア:「……これは、宣戦布告ですね。勇太に対してではなく、私にも」
 藤谷:「ええ。そこでマリアさんとイリーナ先生の出番なんですよ。きっと、いいアイディアを出してくれると思いまして」
 マリア:「霊気を感じる。恐らく、どこかで機会を伺っているのだろう」
 藤谷:「やはりそうですか」
 マリア:「他に何かありましたか?」
 藤谷:「ええ。で、この塔婆を手に墓参りに行ってみたんですがね、そこで……」

 稲生:「わああああっ!」

 その時、キッチンから稲生の叫び声が聞こえて来た。

 藤谷:「稲生君!?」
 マリア:「!!!」

 マリア達は急いでキッチンに向かった。
 そこには、腰を抜かしてへたり込む稲生の姿があった。

 マリア:「キサマ!!」

 藤谷や鈴木は気が付かなかったが、マリアには見えていた。
 ほんの一瞬だけだが、冷蔵庫に掛けられた鏡の中に映った河合有紗の姿を……。

 藤谷:「どうしたんだ、稲生君!?」
 稲生:「そ、その鏡に……あ、有紗の姿が……」
 マリア:「ちっ……!」

 マリアは魔法の杖を持ったまま、その鏡を睨みつけた。
 そこには険しい顔をしたマリアの顔しか映っていなかった。

 稲生:「鏡から手が伸びてきて、僕を掴もうとしたんです!」
 藤谷:「くそっ!こりゃ、暢気に鏡を見ることもできないぞ!」

 その後、落ち着いた稲生はそれまでの出来事をマリアに話した。

 マリア:「……ネクロマンサーが反魂の魔法でも使おうとしているのか……」
 鈴木:「えっ、何ですかそれ?」
 マリア:「でもなぁ……」

 マリアは鈴木の質問を華麗にスルーした。

 鈴木:「反魂の術というのは、使者を蘇らせる魔法ですよね。ザオラルやザオリクみたいな……」
 稲生:「ええっ?骨だけになっても生き返らせられるのかい?」
 鈴木:「先輩。よく考えてもみてくださいよ?RPGにある、そういった蘇生魔法。遺体は敵にやられて見るも無残な状態のはずなんですよ、本来なら。遺体がどういう状態までならOKか?なんてことは、どのゲームでも定義されていないんです。もしかしたら、現実には骨だけになっても生き返らせることができるのかもしれません。……ですよね?マリアさん」
 マリア:「もちろん……それは、魔法使いの技量による」

 マリアは苦しそうに答えた。
 実は稲生、1度死んでいる。
 そこでマリアはザオラルを使おうとした。
 ところがこの魔法、蘇生率は50%という、正に運試しの魔法であった。
 で、稲生はそれで生き返ることはできなかった。
 大魔王バァルが自ら退位を決意した際、餞別として稲生を簡単に生き返らせてしまったということがある。

 藤谷:「既に遺骨の状態で骨壺に入ってるというのに、生き返らせることができるのか?」
 マリア:「大魔王バァルができたくらいだから、大師匠様なら或いは……。だけど、大師匠様が墓暴きなどされるはずがない」
 稲生:「そもそも動機がありませんもんね」
 藤谷:「ふむ……。てことは、遺骨が盗まれた原因は他にあるってことか?魔法使いとして、他に何が考えられます?」
 マリア:「色々と……。人間の骨は、色々な魔法具の材料にもできるから……。だから、考え出せばキリが無い」
 鈴木:「しかし、となってくると、やっぱり犯人は魔女の誰かってことが濃厚ですかね?」
 藤谷:「待て待て。まだ結論を出すのは早い。イリーナ先生なら、ピンポイントでそこを水晶球に映し出させることができるんでしょう?」
 マリア:「そのはずだ」
 藤谷:「やっぱり、確実なことはイリーナ先生に相談した方がいいと思うよ、稲生君」
 稲生:「はあ……そうですね」

 話が終わってしばらくしてから、藤谷と鈴木は退出した。
 そして両親が帰ってくるまでの間、稲生とマリアはリビングに移動し、そこで映画を観ていた。
 その間、マリアはずっと稲生に寄り添っていたそうである。
コメント (9)
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