[4月7日20:00.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 ソニックシティ]
稲生悟郎:「伯父さん、今日はごちそうさまでした」
ナディア:「ゴ馳走サマデシタ」
稲生宗一郎:「いやいや、今夜は賑やかになったねぇ。勇太が家を出て行ったもんで、普段は夫婦2人だけになってしまったから、久しぶりの賑わいで楽しかったよ」
悟郎:「それで伯父さん、真に申し訳ないのですが……」
宗一郎:「家は広いんだ。ゆっくりして行きなさい」
今日からホテルに宿泊先を移動するはずの悟郎とナディアだったが、予約ミスで1日ズレてしまっていた!
つまり、ホテルに泊まれるのは明日からだということだ。
悟郎:「すぐ、車を回して来ますので!」
悟郎は駐車場に走って行った。
悟郎がレンタカーで借りて来た車はミニバンタイプだったので、ここにいる6人が余裕で乗れるものだった。
ナディアと2人でドライブを楽しむのならもう少し小さくても良いだろうに、どうしてミニバンを借りたのだろうか。
ナディア:「悪いね。せっかく、稲生君と楽しい夜を過ごすはずが……」
マリア:「御両親も一緒にいて、楽しむというわけにはいきませんよ」
組は違えど、マリアにとってはナディアの方が先輩に当たる。
階級もナディアの方がミドルマスターと1つ上だ。
マリア:「結局、うちの師匠は来ませんでしたし」
ナディア:「一応、うちの組でトルコにいる者がいるので、消息を追ってもらうことにしたわ。一応、イリーナ先生はドバイまで逃げ切ることはできたらしい」
マリア:「うちの師匠のことですから、殺しても死なない人ではありますけどね。ドバイから、どうやって日本まで来る気だ?ルゥ・ラかな?ドバイからだと、相当魔力を必要とするはずです」
ナディア:「普通に飛行機で来るんじゃない?ドバイと成田に航空便あるし」
マリア:「マジですか。でも何でドバイ?」
ナディア:「大師匠様に助けてもらったみたい。ドバイってインド人が多いから」
マリア:「それと何の関係が?」
ナディア:「あら?マリアンナは知らないのね。うちの組の噂だと、大師匠様はインド人って噂だよ?」
マリア:「ええっ?!」
ナディア:「もともとがインド人だったのか、今使用している体がインド人の物なのかまでは分からないけどね」
マリア:「勇太は大師匠様のローブの隙間から、肌の色が浅黒かったのを見たと言っていた。だから、黒人なのかとは思っていたんだけど……」
ナディア:「まあ、黒人だね。アフリカの民族ほど黒くはないけど」
マリア:「意外だなぁ……」
マリアは生まれはハンガリーとはいえ、国籍そのものはイギリスである。
イギリスから見てインドは……。
悟郎:「お待たせしましたー!」
そして悟郎が駐車場から車を持って来た。
助手席に乗るナディアと、後ろに乗るその他の面々。
宗一郎:「いいのかね、悟郎君?車の運転があるからと称して、酒を飲まなかったが……」
悟郎:「いえ。自分、ほとんど酒が飲めないんで」
稲生勇太でさえビールを飲み、マリアもワインを飲み、ナディアもウォッカを飲んだりした。
悟郎:「では行きます」
宗一郎:「よろしく」
悟郎は車を発進させた。
キィィィンという音とエンジン音が静かなことから、ハイブリットタイプであろう。
[同日20:20.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
ソニックシティから家までは、車で10分といったところ。
悟郎:「はい、着きましたー」
宗一郎:「うむ、ありがとう。早速明日から、都内を回るのかね?」
悟郎:「そうです」
宗一郎:「勇太は……お寺か」
勇太:「御講に呼ばれてね」
悟郎:「ロシアには無いな。勇太の信仰する……日蓮正宗とやらの寺は」
勇太:「うん、無いね。第二次大戦中までは、サハリンにあったのにね」
旧ソ連軍の侵攻により、見るも無残に破壊されてしまった。
そして日本の樺太放棄により、復活はあり得ないものとなってしまった。
北方領土は樺太も含まれているのだが、日本国が領有権を主張しているのは北方四島であり、樺太は含まれていない為である。
勇太:「ナディアさん!」
ナディア:「……知らないわ、私は」
ナディアはウラジオストク出身だとしながらも、エレーナからはチラッと終戦後にサハリン州に住んでいたことがあると聞いていたので、破壊された日蓮正宗寺院のことも知っているはずである。
しかし、ナディアは冷たく否定した。
マリア:「エレーナも余計なことをする」
マリアはエレーナの所業に呆れつつも、エレーナのウクライナ人としての立場からすれば分からなくも無かった。
ダンテ一門も一枚岩ではなく、それぞれの民族や国籍ごとに色々とあるのだ。
唯一の日本人である勇太を入れたのも、もちろん魔道師になれる素質を多大に有するからというのは本当だろうが、実際はそういう門内の民族間問題に一石を投じる為だとも噂されている。
ナディア:「ねぇ、ゴロー。お風呂入ったら、ちょっとおもしろい話でもしない?」
悟郎:「面白い話?何かあるの?」
ナディア:「日本では夏に怖い話をするのが流行っているんでしょう?」
勇太:「今はそれほどでもないよ?それに、今はまだ春だし」
ナディア:「ややもすると、人間に怪談話を提供する側の者として、怖い話を聞かせてあげるわ。マリアンナも参加しない?」
マリアンナ:「私はあなたと同じ部屋で寝ることになるので、YES一択しか無いんですけど?」
ナディア:「それもそうだったわね」
悟郎:「お風呂に入る前でもいいんじゃない?伯父さんと伯母さんに、先に入ってもらおうよ?」
ナディア:「それはダメよ。きっと終わる頃には、ゆっくりお風呂に入っている心境じゃなくってよ?ねぇ、マリアンナ?」
マリア:「はあ……まあ、そうですね」
稲生も何度かそういう話は聞かされているだけに、げんなりしてしまった。
とにかく魔女達の話す内容は、それだけでホラー映画一本作れるほどのボリュームなのである。
悟郎は恐怖を与えられる側の人間、そして稲生はもはやその両方の立場に立つ者となっている。
人間時代、女の幸せを手にできなかったばかりか、女の不幸を背負って人間としての人生を終え、その負の記憶を保持したまま魔女となった彼女らの怨念に満ちた話は……聞くだけで恐怖するものなのである。
稲生悟郎:「伯父さん、今日はごちそうさまでした」
ナディア:「ゴ馳走サマデシタ」
稲生宗一郎:「いやいや、今夜は賑やかになったねぇ。勇太が家を出て行ったもんで、普段は夫婦2人だけになってしまったから、久しぶりの賑わいで楽しかったよ」
悟郎:「それで伯父さん、真に申し訳ないのですが……」
宗一郎:「家は広いんだ。ゆっくりして行きなさい」
今日からホテルに宿泊先を移動するはずの悟郎とナディアだったが、予約ミスで1日ズレてしまっていた!
つまり、ホテルに泊まれるのは明日からだということだ。
悟郎:「すぐ、車を回して来ますので!」
悟郎は駐車場に走って行った。
悟郎がレンタカーで借りて来た車はミニバンタイプだったので、ここにいる6人が余裕で乗れるものだった。
ナディアと2人でドライブを楽しむのならもう少し小さくても良いだろうに、どうしてミニバンを借りたのだろうか。
ナディア:「悪いね。せっかく、稲生君と楽しい夜を過ごすはずが……」
マリア:「御両親も一緒にいて、楽しむというわけにはいきませんよ」
組は違えど、マリアにとってはナディアの方が先輩に当たる。
階級もナディアの方がミドルマスターと1つ上だ。
マリア:「結局、うちの師匠は来ませんでしたし」
ナディア:「一応、うちの組でトルコにいる者がいるので、消息を追ってもらうことにしたわ。一応、イリーナ先生はドバイまで逃げ切ることはできたらしい」
マリア:「うちの師匠のことですから、殺しても死なない人ではありますけどね。ドバイから、どうやって日本まで来る気だ?ルゥ・ラかな?ドバイからだと、相当魔力を必要とするはずです」
ナディア:「普通に飛行機で来るんじゃない?ドバイと成田に航空便あるし」
マリア:「マジですか。でも何でドバイ?」
ナディア:「大師匠様に助けてもらったみたい。ドバイってインド人が多いから」
マリア:「それと何の関係が?」
ナディア:「あら?マリアンナは知らないのね。うちの組の噂だと、大師匠様はインド人って噂だよ?」
マリア:「ええっ?!」
ナディア:「もともとがインド人だったのか、今使用している体がインド人の物なのかまでは分からないけどね」
マリア:「勇太は大師匠様のローブの隙間から、肌の色が浅黒かったのを見たと言っていた。だから、黒人なのかとは思っていたんだけど……」
ナディア:「まあ、黒人だね。アフリカの民族ほど黒くはないけど」
マリア:「意外だなぁ……」
マリアは生まれはハンガリーとはいえ、国籍そのものはイギリスである。
イギリスから見てインドは……。
悟郎:「お待たせしましたー!」
そして悟郎が駐車場から車を持って来た。
助手席に乗るナディアと、後ろに乗るその他の面々。
宗一郎:「いいのかね、悟郎君?車の運転があるからと称して、酒を飲まなかったが……」
悟郎:「いえ。自分、ほとんど酒が飲めないんで」
稲生勇太でさえビールを飲み、マリアもワインを飲み、ナディアもウォッカを飲んだりした。
悟郎:「では行きます」
宗一郎:「よろしく」
悟郎は車を発進させた。
キィィィンという音とエンジン音が静かなことから、ハイブリットタイプであろう。
[同日20:20.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
ソニックシティから家までは、車で10分といったところ。
悟郎:「はい、着きましたー」
宗一郎:「うむ、ありがとう。早速明日から、都内を回るのかね?」
悟郎:「そうです」
宗一郎:「勇太は……お寺か」
勇太:「御講に呼ばれてね」
悟郎:「ロシアには無いな。勇太の信仰する……日蓮正宗とやらの寺は」
勇太:「うん、無いね。第二次大戦中までは、サハリンにあったのにね」
旧ソ連軍の侵攻により、見るも無残に破壊されてしまった。
そして日本の樺太放棄により、復活はあり得ないものとなってしまった。
北方領土は樺太も含まれているのだが、日本国が領有権を主張しているのは北方四島であり、樺太は含まれていない為である。
勇太:「ナディアさん!」
ナディア:「……知らないわ、私は」
ナディアはウラジオストク出身だとしながらも、エレーナからはチラッと終戦後にサハリン州に住んでいたことがあると聞いていたので、破壊された日蓮正宗寺院のことも知っているはずである。
しかし、ナディアは冷たく否定した。
マリア:「エレーナも余計なことをする」
マリアはエレーナの所業に呆れつつも、エレーナのウクライナ人としての立場からすれば分からなくも無かった。
ダンテ一門も一枚岩ではなく、それぞれの民族や国籍ごとに色々とあるのだ。
唯一の日本人である勇太を入れたのも、もちろん魔道師になれる素質を多大に有するからというのは本当だろうが、実際はそういう門内の民族間問題に一石を投じる為だとも噂されている。
ナディア:「ねぇ、ゴロー。お風呂入ったら、ちょっとおもしろい話でもしない?」
悟郎:「面白い話?何かあるの?」
ナディア:「日本では夏に怖い話をするのが流行っているんでしょう?」
勇太:「今はそれほどでもないよ?それに、今はまだ春だし」
ナディア:「ややもすると、人間に怪談話を提供する側の者として、怖い話を聞かせてあげるわ。マリアンナも参加しない?」
マリアンナ:「私はあなたと同じ部屋で寝ることになるので、YES一択しか無いんですけど?」
ナディア:「それもそうだったわね」
悟郎:「お風呂に入る前でもいいんじゃない?伯父さんと伯母さんに、先に入ってもらおうよ?」
ナディア:「それはダメよ。きっと終わる頃には、ゆっくりお風呂に入っている心境じゃなくってよ?ねぇ、マリアンナ?」
マリア:「はあ……まあ、そうですね」
稲生も何度かそういう話は聞かされているだけに、げんなりしてしまった。
とにかく魔女達の話す内容は、それだけでホラー映画一本作れるほどのボリュームなのである。
悟郎は恐怖を与えられる側の人間、そして稲生はもはやその両方の立場に立つ者となっている。
人間時代、女の幸せを手にできなかったばかりか、女の不幸を背負って人間としての人生を終え、その負の記憶を保持したまま魔女となった彼女らの怨念に満ちた話は……聞くだけで恐怖するものなのである。