報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「夕食会の後で」

2018-04-09 19:10:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月7日20:00.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 ソニックシティ]

 稲生悟郎:「伯父さん、今日はごちそうさまでした」
 ナディア:「ゴ馳走サマデシタ」
 稲生宗一郎:「いやいや、今夜は賑やかになったねぇ。勇太が家を出て行ったもんで、普段は夫婦2人だけになってしまったから、久しぶりの賑わいで楽しかったよ」
 悟郎:「それで伯父さん、真に申し訳ないのですが……」
 宗一郎:「家は広いんだ。ゆっくりして行きなさい」

 今日からホテルに宿泊先を移動するはずの悟郎とナディアだったが、予約ミスで1日ズレてしまっていた!
 つまり、ホテルに泊まれるのは明日からだということだ。

 悟郎:「すぐ、車を回して来ますので!」

 悟郎は駐車場に走って行った。
 悟郎がレンタカーで借りて来た車はミニバンタイプだったので、ここにいる6人が余裕で乗れるものだった。
 ナディアと2人でドライブを楽しむのならもう少し小さくても良いだろうに、どうしてミニバンを借りたのだろうか。

 ナディア:「悪いね。せっかく、稲生君と楽しい夜を過ごすはずが……」
 マリア:「御両親も一緒にいて、楽しむというわけにはいきませんよ」

 組は違えど、マリアにとってはナディアの方が先輩に当たる。
 階級もナディアの方がミドルマスターと1つ上だ。

 マリア:「結局、うちの師匠は来ませんでしたし」
 ナディア:「一応、うちの組でトルコにいる者がいるので、消息を追ってもらうことにしたわ。一応、イリーナ先生はドバイまで逃げ切ることはできたらしい」
 マリア:「うちの師匠のことですから、殺しても死なない人ではありますけどね。ドバイから、どうやって日本まで来る気だ?ルゥ・ラかな?ドバイからだと、相当魔力を必要とするはずです」
 ナディア:「普通に飛行機で来るんじゃない?ドバイと成田に航空便あるし」
 マリア:「マジですか。でも何でドバイ?」
 ナディア:「大師匠様に助けてもらったみたい。ドバイってインド人が多いから」
 マリア:「それと何の関係が?」
 ナディア:「あら?マリアンナは知らないのね。うちの組の噂だと、大師匠様はインド人って噂だよ?」
 マリア:「ええっ?!」
 ナディア:「もともとがインド人だったのか、今使用している体がインド人の物なのかまでは分からないけどね」
 マリア:「勇太は大師匠様のローブの隙間から、肌の色が浅黒かったのを見たと言っていた。だから、黒人なのかとは思っていたんだけど……」
 ナディア:「まあ、黒人だね。アフリカの民族ほど黒くはないけど」
 マリア:「意外だなぁ……」

 マリアは生まれはハンガリーとはいえ、国籍そのものはイギリスである。
 イギリスから見てインドは……。

 悟郎:「お待たせしましたー!」

 そして悟郎が駐車場から車を持って来た。
 助手席に乗るナディアと、後ろに乗るその他の面々。

 宗一郎:「いいのかね、悟郎君?車の運転があるからと称して、酒を飲まなかったが……」
 悟郎:「いえ。自分、ほとんど酒が飲めないんで」

 稲生勇太でさえビールを飲み、マリアもワインを飲み、ナディアもウォッカを飲んだりした。

 悟郎:「では行きます」
 宗一郎:「よろしく」

 悟郎は車を発進させた。
 キィィィンという音とエンジン音が静かなことから、ハイブリットタイプであろう。

[同日20:20.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 ソニックシティから家までは、車で10分といったところ。

 悟郎:「はい、着きましたー」
 宗一郎:「うむ、ありがとう。早速明日から、都内を回るのかね?」
 悟郎:「そうです」
 宗一郎:「勇太は……お寺か」
 勇太:「御講に呼ばれてね」
 悟郎:「ロシアには無いな。勇太の信仰する……日蓮正宗とやらの寺は」
 勇太:「うん、無いね。第二次大戦中までは、サハリンにあったのにね」

 旧ソ連軍の侵攻により、見るも無残に破壊されてしまった。
 そして日本の樺太放棄により、復活はあり得ないものとなってしまった。
 北方領土は樺太も含まれているのだが、日本国が領有権を主張しているのは北方四島であり、樺太は含まれていない為である。

 勇太:「ナディアさん!」
 ナディア:「……知らないわ、私は」

 ナディアはウラジオストク出身だとしながらも、エレーナからはチラッと終戦後にサハリン州に住んでいたことがあると聞いていたので、破壊された日蓮正宗寺院のことも知っているはずである。
 しかし、ナディアは冷たく否定した。

 マリア:「エレーナも余計なことをする」

 マリアはエレーナの所業に呆れつつも、エレーナのウクライナ人としての立場からすれば分からなくも無かった。
 ダンテ一門も一枚岩ではなく、それぞれの民族や国籍ごとに色々とあるのだ。
 唯一の日本人である勇太を入れたのも、もちろん魔道師になれる素質を多大に有するからというのは本当だろうが、実際はそういう門内の民族間問題に一石を投じる為だとも噂されている。

 ナディア:「ねぇ、ゴロー。お風呂入ったら、ちょっとおもしろい話でもしない?」
 悟郎:「面白い話?何かあるの?」
 ナディア:「日本では夏に怖い話をするのが流行っているんでしょう?」
 勇太:「今はそれほどでもないよ?それに、今はまだ春だし」
 ナディア:「ややもすると、人間に怪談話を提供する側の者として、怖い話を聞かせてあげるわ。マリアンナも参加しない?」
 マリアンナ:「私はあなたと同じ部屋で寝ることになるので、YES一択しか無いんですけど?」
 ナディア:「それもそうだったわね」
 悟郎:「お風呂に入る前でもいいんじゃない?伯父さんと伯母さんに、先に入ってもらおうよ?」
 ナディア:「それはダメよ。きっと終わる頃には、ゆっくりお風呂に入っている心境じゃなくってよ?ねぇ、マリアンナ?」
 マリア:「はあ……まあ、そうですね」

 稲生も何度かそういう話は聞かされているだけに、げんなりしてしまった。
 とにかく魔女達の話す内容は、それだけでホラー映画一本作れるほどのボリュームなのである。
 悟郎は恐怖を与えられる側の人間、そして稲生はもはやその両方の立場に立つ者となっている。
 人間時代、女の幸せを手にできなかったばかりか、女の不幸を背負って人間としての人生を終え、その負の記憶を保持したまま魔女となった彼女らの怨念に満ちた話は……聞くだけで恐怖するものなのである。
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“大魔道師の弟子” 「稲生家へようこそ」

2018-04-09 10:18:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月7日15:07.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 上落合八丁目バス停→ファミリーマート]

 バスが稲生家の最寄りバス停に到着する。

 稲生:「すいません、大人2人で」
 運転手:「はい」

 降りる時にSuicaでマリアの分の運賃も払う。

 マリア:「ありがとう」
 稲生:「いえいえ」

 バスを降りて、県道の長い横断歩道を渡る。
 中央分離帯がとても広く、遊歩道になっているくらいだ。
 これは地下に首都高速さいたま新都心線が走っているからで、その地上スペースを有効活用しているのである。

 マリア:「勇太、あそこに寄って行きたい」
 稲生:「ファミマですか?いいですよ」

 横断歩道を渡った先にあるファミマに立ち寄る。

 稲生:「ジュースとかスナックでも買って行くか……」

 稲生はジュースの入ったショーケースに向かった。
 何故かマリアはアルコール飲料の入った所を見ていたが……。

 マリア:(無い。この前、私をハメたあの酒が……!)
 稲生:「どうかしたんですか?」
 マリア:「いや、何でもない!」
 稲生:「? そうですか……」

 買い物をした稲生達。

 稲生:「それじゃ、僕の家へ行きましょう」
 マリア:「うん。(もしかしてあの酒は、罠だったのか???)」

[同日15:20.天候:晴 同区上落合 稲生家]

 稲生:「到着です」
 マリア:「では……」

 マリアは首に着けたリボンを着け直した。

 稲生:「あれ?」
 マリア:「なに?」
 稲生:「誰か来てるのかな?」

 玄関を開けると、見慣れない靴が置かれていた。
 それと、マリアが目ざとく見つけたのはホウキ。

 マリア:「これは……魔女のホウキ。エレーナでも来てるのか?」
 稲生:「ええっ?」

 稲生が中に入ると、応接間にいたのは……。

 稲生悟郎:「やあ、勇太。久しぶり」
 ナディア:「こんにちはー」

 従兄の稲生悟郎とダンテ一門ナターリア組にいるというナディアだった。

 稲生勇太:「悟郎さん!どうしたの?ウラジオストクにいたはずじゃ?」

 ナディアの故郷、ウラジオストクに移住したはずだ。
 尚、ウラジオストクは日本とも繋がりが深く、東京からの距離も韓国のソウルよりも近い。

 悟郎:「ウラジオストクとの航空便が増えてね、帰国しやすくなったんだよ」
 マリア:「また、魔器を探しに?」
 ナディア:「それはついでかな。今回はただ単にゴローの帰国に付き合っただけよ」
 マリア:「そうか……」

 ダンテ門内の公用語は英語なのだが、それが不可能な場合には自動通訳魔法具を使う。

 勇太:「そういえば外に車が止まってたな……」
 悟郎:「ああ。レンタカー借りて来た。ナディアを色々案内したいから、車の方が便利だと思って。ウラジオストクも意外と右ハンドル車が多いんだ。日本の中古車が多いからな。だけど、右側通行だけど」
 勇太:「いつまでいるの?」
 悟郎:「明後日だな。明後日の月曜日、成田から」
 勇太:「S7?」
 悟郎:「いや、オーロラ。S7は日本語版無いからダメだ」
 勇太:「悟郎さんも、いい加減ロシア語とか喋れるようにしないとダメだよ。向こうに住んでるんだから……」
 悟郎:「いや、少しは喋るよ。ただ、ロシア語のキリル文字がな……」

 因みに成田からウラジオストクまで、3時間も掛からない。
 オーロラ航空とは昔のサハリン航空のことで、航空機共々リニューアルしたという。
 S7航空はワンワールドに加盟するLCCである。

 勇太:「うちに泊まってるの?」
 悟郎:「今日まで。今日からは勇太達が泊まるので、俺達はホテルに移動するよ」
 勇太:「ええっ!?あっ、ゴメン!何か、僕達が追い出したみたいで……」
 悟郎:「いや、いいんだ。どうせ、これから都内を回るつもりでいたから、都内に泊まった方がいい。ナディアはナディアで、行きたい所があるみたいだから」
 ナディア:「そう」
 マリア:「おおかた、宿泊先はワンスターホテルってオチでは?」
 悟郎:「おっ、よく知ってるね!?何でも、ナディアの知り合いが働いているらしいんだ」
 マリア:「ええ。そして私の知り合いでもあります」
 悟郎:「何だ、そうだったのか!いやー、世間は狭いなぁ!あっはっはっは!」
 マリア:「いや、笑い事じゃないです。あのエレーナのバカは、日本人からだとボりますよ?」
 ナディア:「私がいるから大丈夫」
 マリア:「それもそうか」
 ナディア:「ウラジオストクにはウクライナ人も多く住んでるから」
 マリア:「それと何の関係が……。あっ!」

 魔女は拠点が1つだけとは限らない。
 エレーナも日本における拠点はワンスターホテルだが、他にもあって然るべきなのである。
 ナディアの口ぶりからして、ウラジオストクにもあるのだろう。
 尚、“魔の者”から命からがら逃げて来たマリアには、まだ拠点が長野の1つしか無い。
 この稲生家もサブにしたいところだが、日本に2つというのも心許ない気がする。
 本当はイギリスやハンガリーにでもあると良いのだが、いつまた“魔の者”が襲い掛かって来るか分かったものではない。

 悟郎:「ナディアは一体、どこへ行きたいんだい?」
 ナディア:「そこにいるマリアンナや、エレーナ達が集まるパーティーがあるの。そこに参加するだけよ」
 悟郎:「俺が車で送ろうか?」
 稲生:「いや、車で行けるような所じゃないです」
 悟郎:「んんっ?」
 稲生:(だって会場、魔界の魔王城だし……)

 “協力者”も場合によっては招待されるはずだが、悟郎はまだその資格者とは見なされていないらしい。
 ナディアとは、ほぼ婚約者といっても良い関係であるにも関わらずだ。

 稲生:「僕も参加することになっているので、僕が連れて行きますから」
 悟郎:「そうか。じゃあ、どんなパーティーなのか写真に撮って来てくれないかな?」
 稲生:「え……?」
 マリア:(多分、魔王城は撮影禁止じゃなかったか?)
 ナディア:「分かった分かった。私が撮ってくるから」
 マリア:「ナディア。それはマズいんじゃないの?」
 ナディア:「大丈夫。何とかなるって」

 マリアの不安を他所に、ナディアは片目を瞑った。
 尚、稲生の母親の佳子によると、今日は皆で夕食は外食とのこと。
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