日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

世耕弘成参議院議員の「郵政民営化関連六法案」に対する賛成討論は名演説

2005-08-10 16:34:43 | 社会・政治

去る8月8日の参議院本会議で「郵政民営化関連六法案」が否決されてその結果衆議院が解散されてしまった。『あれよあれよ解散』である。

戦後民主主義教育の第一期生であった私の世代は参議院に旧貴族院の残滓を感じていた。もう貴族階級は消えていくわけでその『残滓』とも云える参議院が国政に実質的な決定権を持ちうることには懸念とこだわりがあった。従って衆議院の優位性を表すものと私たちは理解した日本国憲法第59条の規定は素直に理解できた。

《第59条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。》

これに続いて第三項、第四項があるが問題はこの第二項である。もし法案が参議院で否決された場合は衆議院に差し戻され、そこで再び採決にかけられるもとと単純に考えていたのである。『そこまではしないといけない』と私は素直に受け取っていた。そこで3分の2以上の賛成が得られずに法案が否決されたときに始めて内閣総辞職か衆議院解散が問われるというのが私の常識であった。

小泉首相のこの度の手法はまことに意表を突いたもので、いわば『真珠湾攻撃』に匹敵するものと私はみた。その結果また『敗戦』に終わるのか、それとも今度こそ『米本土占領』に至るのか、これから手に汗を握る展開で残暑がますます厳しくなりそうである。そして小泉首相がひょっとして、と思ったりした。

何故小泉首相の方に分を感じたのかといえば、参議院での『否決』に先だって行われた「郵政民営化関連六法案」に対する自民党の世耕弘成参議院議員の賛成討論演説の出来が極めて良かったからである。

演説に際しての挙止動作が申し分ない。もちろん何とかルックに迎合することなく本会議に相応しいネクタイ姿である。郵政民営化を行財政改革をはじめとするあらゆる構造改革に連動する小泉構造改革の本丸と位置づけるところから解き明かし、先ず参議院特別委員会における審議が極めて内容の濃いものであったとの評価には野次どころか与野党から一際高い賛意の拍手を得ていた。

生田郵政公社総裁の公社の将来に対する悲観的な見方に触れつつ民営化の必要性を強調し、また民営化に伴い生じうる数々の不安について、国民的利益を損なわないように考えらるあらゆる対策を盛り込んでいることを力説した。小泉首相の特別委員会における発言、「郵便局ネットワークは国民の資産であり、このネットワークを守って万が一にも国民の利便に支障が生じないようにしていきたい」を不安払拭の論拠とした。

民営化直後のNTTに入社して13年間勤務した実績を持つ世耕議員が、自らの体験として民営化後のNTTにみなぎったチャレンジ、新製品の開発、サービスに向けられたエネルギーを述べ明るい方向性を示す一方、郷土出身の濱口梧陵の事績と『言葉だけの一致』であるにせよ郵政民営化唱道の先駆者として触れるなどその演説に彩りを添え、最後を賛成への支持を求めて締めくくった。

8分間ほどの演説であったが、聞くものをぐいぐいと話の内容に引きずり込む迫力があった。論点を最小限に絞りそのおのおのを具体的な内容で締めくくる。それが簡にして要を得ているから主張点が極めて分かりやすく説得力がある。この演説だけを聞いていたら『邪念』無しにこの法案に反対するのは余程の変わり者かと思いたくなってくる。原稿読みの姿勢ではなく明らかに演説の姿勢になっているのが実に快い。そこには『心』があり『力』が備わっていた。議長の扇千景さんに劣らない口跡のよさと抑制のきいたメリハリ、私は「大統領」とテレビに声援を送ってしまった。

内容と言いプレゼンテーションと云い申し分のない世耕弘成議員の賛成討論は名演説であったと私は思う。ぜひ多くの方に聞いていただきたいものである。参議院のホームページから当日(8月8日本会議)のビデオを再生可能である。世耕議員の演説は27分20秒頃から始まる。この演説がどれほど優れているのか、17分50秒頃に始まった反対討論の演説と聞き比べていただくと一目瞭然、何故民主党が来たる総選挙で『郵政論議』から逃げたいかがよく分かる。

小泉首相のウルトラCは総辞職

2005-08-08 09:52:57 | 社会・政治
今日の午後参議院本会議で郵政民営化法案が採決される。『参議院で否決なら衆議院を解散』がいろいろと論議を呼んだものの、解散が首相の専決事項である以上誰も止めることが出来ない。

ところが反対派にこの『解散』という『脅し』をかけることが、郵政民営化法案の是非を超えた『錦の御旗』を与えることになってしまった。中曽根弘文参議院議員が『反対』の意思を表明した根底にその『脅し』に対する反発があったのは当然のことであろう。

小泉首相は今や敗戦必至の戦いに突入しようとしている。太平洋戦争開戦前夜の日本の状況とも云える。『参議院で否決なら衆議院を解散』して総選挙を行ったとしても衆議院を与党が三分の二以上占める可能性は0に等しい。従って参議院の構成が変わらない現状で郵政民営化法案を成立させる見込みは0であり、解散総選挙は小泉首相のたんなる『憂さ晴らし』でしかない。

小泉首相は参議院での否決は私への不信任表明だと仰る。まさにその通り。だからこそ八つ当たり的に衆議院を解散するのではなくて素直に小泉内閣総辞職することがかえって小泉さんにとってのウルトラCになるのではないかと私は思っている。

退勢挽回のためのウルトラCではない。自分自身を永遠の国民的ヒーローとするためのウルトラCである。歌舞伎も大好きの小泉首相は判官贔屓が日本の国民性であることを重々御承知であろう。義経には弁慶をはじめとする郎党が最後まで付き従ったが、小泉さんはもともと郎党を持たないまさに天涯孤独の個性人、義経を凌駕する『同情点』がある。

8月15日靖国神社参拝の公言をもさらりと覆した実績のある小泉首相にとって『参議院で否決なら衆議院を解散』を翻して総辞職することぐらいお茶の子さいさいであろう。そして自らを『悲劇の宰相』とする。歌舞伎好き、オペラ好きの小泉さんにとってはこれはこたえられない筋書きであろうと思うのであるが・・・。

『JR福知山線脱線事故』に思う その2

2005-08-05 09:51:23 | 社会・政治
非常ブレーキ操作の記録なし JR宝塚線脱線で事故調 (朝日新聞) - goo ニュース

昨日(4日)明らかにされた国土交通省航空・鉄道事故調査委員会の調査結果では、事故当時、快速電車は制限速度70キロのカーブに115キロ前後で進入し、約30メートル進んだところで通常のブレーキをかけた記録はあるものの、運転士が非常ブレーキをかけた記録がない、とのことである。

運転士の心身状態が正常に機能していなかったことを強く示唆する。私は事故のニュースに接してこの可能性を直感し、4月29日のブログで以下のように論じた。その部分を再録する。

《運転士になるためにはさだめし厳しい訓練で技量を磨き、ある一定のレベルに達してはじめてその資格が与えられるのであろう。とすれば、私が日常経験しているように定位置に停車させることは運転士にとって『お茶の子さいさい』であろう。だからこそ40メートルも停車位置を通り過ぎることが極めて異常な事態と私は見るのである。

JRにも『異常事態』との認識があれば、当然それ相応の対策があっただろう。

車両に異常が生じたのか、運転士に異常があったのか、それを異常事態発生現場でチェックすべきなのである。そのために少々時間がかかるとしても、これはダイヤに乱れが生じても仕方がないほどの事態なのだから。事後報告で済ませていい問題ではない。何メートル以上のオーバーランを異常とするかは専門家の判断にまかせるとして、異常事態であるとの認識の上で、車両に異常が無いとしたら運転士に問題があったのであり、その時点で直ちに乗務を停止させるぐらいの用心深さが必要である。現時点ではどのようなマニュアルで事態が処理されるようになっているのか、知りたいものである。》

この事故以降もJR、私鉄を問わずオーバーランの事例報告が後を絶たない。再度強調するが、ある限度以上のオーバーランを運転士の『異常状態』のシグナルとみて、ただちに運転士の乗務を停止させる処置を講じないといけない。

『作業・操作』に人間が関与する以上、『事故は人災』の認識を事故防止対策の大前提としなければならないと私は思う。

映画「亡国イージス」を観て

2005-08-04 10:13:45 | 社会・政治
私の手元にある福井晴敏著「亡国のイージス」の奥付には第六刷発行2000年1月13日とある。多分その頃に読んだのであろう。だからというか、内容をまったくといっていいほど覚えていない。読み返すこともなく心を空にして映画館に向かった。

平日の昼下がり、全席指定で入った映画館は前二列ほどを除いてはほぼ満席である。7月30日の封切日から間もないからであろうが、それにしても前回ガラガラだった「戦国自衛隊1549」の時と比べると飛びきりの大入りである。私のような年配者が圧倒的に多いが若いカップルもちらほら見える。私は『大日本帝国海軍』の後裔を覗き見する好奇心もあってやって来たが、ひょっとしたら同類が多いのかも知れない。

観終わった結論から先にいうと、SFの「戦国自衛隊1549」とは違い大いに楽しめた。居眠りもしなかった。

小説の内容は覚えていないのでこの映画だけで云うと、平和ボケで護るべき国を亡くしてしまった『日本』と、それを憂えて決起する『革新青年将校』の対立の構図にしたほうが分かり易くリアリティも出せたと思う。それなのに『革新青年将校』を変に第三国のテロ工作員と手を組ませたりするものだから話の筋がややこしくなって、白黒対決に馴らされている私の頭ではついて行くのに苦労した。『日本』を脅すのであれば2・26事件の帝国海軍が取った行動に習いミサイルの標的を首都に向ければ十分であろう。わざわざテロリストに持ち込まさせた『大量破壊兵器』を用いる必然性は感じなかった。この映画の撮影に自衛隊の協力が欠かせない以上、『第三国』の脅威を表に出さざるを得なかったのかどうか。

お目当ての「イージス艦」にはお目にかかれた。艦首側から艦橋構造物を見上げるように撮った情景がスクリーン一杯に広がるとさすがに偉容がある。慌ただしく探したが艦首に『菊のご紋章』があったのかなかったのか確かめられなかったのは残念であった。

それよりなにより『イージス艦』を攻撃すべく発進した航空自衛隊戦闘機のパイロットと『司令部』とのやりとりがすべて英語であることに注目していただきたい。あらためて日本が依然として米軍の占領下にある実体を再認識できる。実戦で司令部が攻撃されて英語をわかる人間がやられたらどうするのだろう、と余計なことまで気になった。

余計なことと云えば、この映画館は完全入れ替え制・全席指定をうたっている。帰りがけに出口で一人の年配者が係員に頼み込んでいた。「半分寝ていたので筋がわからへん。もう一遍観させてぇや」と。どうなったかな。


スペースシャトル打ち上げのトラブル ― 『足が宙に浮いている』NASA

2005-08-02 16:53:41 | 社会・政治

2003年2月1日(米国時間)、スペースシャトル「コロンビア」が16日間にわたるミッションを終える予定の16分前、着陸態勢に入っていたとき突如空中分解して7名の宇宙飛行士が全員死亡した。

コロンビア事故調査委員会が直ちに設けられて、13名の委員と約120名の委員会調査員が中心となり、ほぼ7ヶ月の独立調査を行い同年8月に事故報告書を公表した。コロンビア号事故調査報告 Volume I(速報版)によるとことの因果関係は以下のようである。

《打ち上げ81.7秒後、スペースシャトルが高度65,600フィート(約20,000m)に差し掛かり、マッハ2.46(時速1,650マイル、時速2,655キロ)で飛行している時、手作業で取り付けられた断熱材の大きな破片がオービタと外部燃料タンクの接続部からはがれ、81.9秒後に、コロンビア号の左翼前縁に衝突した。》

《結論として、コロンビア号は左翼前縁部のRCCパネル8近辺に亀裂が入った状態で大気圏に再突入した。上昇中の断熱材衝突によってできたこの亀裂によって、過熱空気(おそらく華氏5,000度以上)がRCCパネルの裏の隙間に侵入した。亀裂は広がり、このために翼前縁部の支持構造を保護する断熱部(insulation)が破壊され、過熱された空気が最終的に薄いアルミ製の翼桁(wing spar)を溶解させた。過熱空気は内部に侵入すると左翼を破壊し始めた。翼内部の何百ものセンサのデータや飛行制御システムの反応や空気力の変化の解析結果をもとに、この破壊の過程を再現した。》

「コロンビア」の事故以来NASAは打ち上げ時の『剥落』防止に取り組んできた。そしてようやくこの『剥落』が「ディスカバリー」にぶつかるチャンスを『受容可能なレベル』まで下げることが出来たとして今回の「ディスカバリー」の打ち上げに踏み切ったのである。ところがシャトルの歴史始まって以来最も安全であるとNASAが宣言した『燃料タンク』から断熱材の大きな破片が脱落してしまった。この脱落がもう1分早く起こっていたら「コロンビア」と同じような大惨事に至ったかも知れないと論じられたこともあり、NASAは面目を失ったのみならず、この問題が解決するまでシャトルプランの凍結をはやばやと打ち出すに至った。

NASAが心血を傾けて取り組んだであろう『剥落』対策が何故功を奏さなかったのだろう。その問題点を私なりに探ってみたところ、NASAのチェックシステムになんと信じられないような『甘さ』のあることが浮かび上がった。

問題の外部燃料タンクは打ち上げ時にほんの8分間だけ使われる。ほぼ50万ガロンの液体水素と液体酸素を主エンジンが使い果たすとインド洋に捨てられる。この燃料タンクがフロリダの湿った空気に触れると氷を表面に付着するので、その防止のために断熱材である発泡プラスチックで覆うのであるが、この断熱材が問題なのである。

シャトルプランが始まったときから、NASAはこの断熱材が剥落してシャトルを覆っている衝撃に弱い耐熱タイルにぶつかるようなことが絶対にあってはならないと定めていた。しかしシャトルプランが進んで行くにつれて次第にこの基準が緩くなり、すでに1983年6月最初の女性宇宙飛行士Sally Rideさん搭乗のシャトル打ち上げ時に断熱材の剥落があったにもかかわらず、特に注目を惹くことがなかった。2003年2月1日の「コロンビア」の惨劇までは。

外部燃料タンクの形状は滑らかなものではない。たとえ小さくとも『構造物』があるとタンク表面に突起もしくは凹みを生じて空気の流れを乱すとともに断熱材で覆いにくくなる。今問題になっている『構造物』の一つが、私はどのようなものか具体的には知らないので名称を挙げるに留めるが、「protuberance air load ramp」略してPALである。不規則な形状ゆえに断熱材で覆うのが困難なようで、すべて手作業で行うことになっている。

「コロンビア」の事故のあと断熱材の品質や塗布方法などに改良が加えられた。もはや打ち上げ時の極限状態においてもおいそれと剥落するようなことはあるまいと思いたいが、願望だけでは確証にならない。必ずテストで確認しないといけない。

話が横に逸れるがわが家も大きな被害を被った阪神大震災以来、耐震住宅に対する関心が高まり需要も増えている。建築材料や工法に工夫がこらされ、阪神大震災の程度なら崩壊しない耐震家屋を数々のハウスメーカーが売り出している。われわれが耐震であることをメーカーから口だけで説明されてもおいそれと納得しない。しかし人工地震を起こさせる装置で実験家屋を激しく揺り動かし、それに耐えることをビデオなどで示されればその安全性を納得する。

スペースシャトルの打ち上げ時に断熱材が剥落するようなことがないことを、打ち上げ時の状況を再現できる装置を用いて当然確認しているであろう、と私は思っていた。ところがなんとNASAはこのような確証を得るための試験を行っていないのである。

7月31日付けのNew York Timesによると「But there were no tests of the PAL foam itself at the speeds, pressures or vibrations of ascent」、すなわち「速度や圧力そして振動など打ち上げ上昇時の条件でPALの断熱材そのものがどうなるのかテストをしていない」と云うのである。私は唖然としてしまった。

何も実験をしていないわけではない。上の文章の前がこうである。「The wind tunnel tests of the ramp areas were all focused on aerodynamics - helping determine how air would flow around the craft and tank, or to improve understanding of where foam or ice or other debris might fly should it fall free of the tank.」

確かに空洞実験は行っている。でもそれは機体や燃料タンクのまわり、特にPAL辺りをどのように空気が流れるかに焦点が当てられていて、断熱材や氷そのたの剥落物がもしタンクから剥がれたらどこに飛んでいくのかを予想するためのものである。断熱材の改良と塗布法の改善により打ち上げ時に燃料タンクからの剥落を0にするための確認実験とはまったく異なるものである。

記事はこのように続く。「So the only tests of how the ramp material might hold up under the rigor of launching were the launchings themselves, with astronauts aboard」。そう、打ち上げ時の厳しい条件を断熱材がどのように耐えるのかを知るテストは結局宇宙飛行士がシャトルに乗り込んだ本番の打ち上げそのものでしかない、と云うのである。

そう云えば広島・長崎への原爆の投下をはじめとして、近くはイラクへの問答無用の侵攻も、考えようによれば行動そのものがテストとも云える。人間を実験の道具立てとして使うのに躊躇しないのはアメリカのお家芸、いわば文化なのかも知れない。ただその『特質』をアメリカ人も気づいていることに救いがある。最初に引用した「コロンビア」事故報告書にはこのような一節があるからである。

《我々はこの事故が偶発的な出来事というよりも、NASAの予算、歴史、プログラムの文化や、政治、妥協、変更されていく民主的プロセスの優先順位にいくらか関連があるものと考えた。スペースシャトルプログラムを監督する運営慣行が、左翼に衝突した断熱材と同程度に事故の原因となったことを確信している。》

科学者か科学者らしく、技術者は技術者らしく初心にかえって『地に足を下ろした』地道なテストの積み重ねをNASAの関係者に切望する。

「ディスカバリー」の無事帰還を祈念しつつ。