日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

「医学部定員5割増」 versus 「票田医師会 自民離れ」

2009-07-23 16:46:33 | Weblog
朝日朝刊に二つを比べるとなんだかしっくりこない記事が載っていた。まず最初は次の見出しで始まる第五面の記事である。


 民主党は医師不足解消策の一環として、衆院選マニフェスト(政権公約)に、大学医学部の定員を5割増やす目標を明記する方針を決めた。医師不足が特に深刻な救急や産科、小児科、外科の充実に向け、地域の医療機関の連携強化や、国公立病院の医師定数増員も明記する。(中略)

 当面の目標として医師数を人口1千人あたり現行の2.1人から、主に先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の平均である3.1人まで増やす方針を掲げる。ただ、目標達成年次はあいまいで、具体的な道筋ははっきりしていない。

よくぞこんな駄法螺を吹いたものである。医師を増やすというのはよい。しかし医学部定員を5割も増やすには、それなりの教育・卒後研修機関の拡充が先決である。その見通しがあるというのなら、ぜひ聞かせていただこう。その見通しもなく、目標達成年次はあいまいで、具体的な道筋ははっきりしていない、となれば、口から出任せの与太話に過ぎない、と私はあえていう。

さらに問題なのは次の第二面の記事との関わりである。


 茨城は自民党が強固な地盤を持ち、厚労族の大物、丹羽雄哉元厚生相のおひざ元でもある。医師やその家族らの党員は3400人を超え、支持組織の中でも医師会は有数の党員数を誇ってきた。それが反旗を翻し、県内全選挙区で民主推薦に転じた衝撃は大きい。
平成19年12月1日現在の日本医師会会員数調査によると茨城県での会員総数は2346人であるから、医師全員が自民党員だったとしても3400人には不足するので、家族もそれに加わっているのだろう。いずれにせよ、茨城県の医師会会員のほぼ全員が政権政党の自民党党員になっていたという事実、そして今回は全員が民主推薦に変わったということが、この医師会の政治団体的側面を端的に示している。

平成18年12月31日現在における全国の届け出医師数は277 927人で、医育機関附属の病院に44 688人、病院(医育機関附属の病院を除く)に123 639人、診療所に95 213人となっている。一方、日本医師会会員数(平成19年12月1日現在)は全国で165 086人になる。調査時期に1年のずれがあるが、医師会の組織率はおよそ60%で、医育機関附属の病院を除くと75%になる。この医師会が茨城県の例でも明らかなような政治的な動きをする際に、その目指すところは医師の権益の擁護であると見てまず間違いなかろう。一口に言えば収入の確保・拡大である。それも医師一人当たりの収入である。その権益を守るために日本医師会が医学部定員問題にどのような態度をとったかは、以前に麻生首相の「医師、社会常識欠落した人多い」発言に思うことで取り上げたことである。この医師会の性格が急に変わったとは思えないから、いったん支持を決めた民主党ではあるが、その民主党が「医学部定員5割増」をマニフェストで政治公約にすることが決定的になれば、医師会が黙っているとは到底考えられない。医師会対民主党の駆け引きがどのように展開するのか、注目されるところである。医師会が民主党に期待するのは医療費削減をしないこと、さらには社会保障費の拡大で、まさか「医学部定員5割増」にまで同意するはずはなかろう。ある一つのメリットを除いては、である。

「医学部定員5割増」も見方を変えて医師会会員にも評価されるところがあるかも知れない。家業を継ぐ医師の子弟の医学部へ入学のチャンスが今よりは増えるだろうという期待を持てるからである。しかし、である。私立大学医学部学費ランキングによると、最高では卒業まで6年間の学費総額が4920万円で、初年度には1420万円もかかる。どういう人たちがこのような高額の授業料を払えるというのだ。これは医師志望の若者にとっては「非関税障壁」のようなものであり、社会的不正義を助長するだけのものである。この「非関税障壁」をくぐり抜けられるのが開業医の子弟に集中するようなことがあれば、医療の質の低下を招くのが必然である。世襲政治家がわが国の政治を疲弊させたがゆえに、金の力を背景にした世襲医師の跳梁を私は警戒する。

民主党の「医学部定員5割増」案、とにかくじっくりと話を聞かせて欲しいものである。