日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

受刑者の人権問題を提起する山本譲司著「獄窓記」

2005-06-20 14:57:05 | 読書
監獄生活を体験した元衆議院議員山本譲司氏の著書である。

どのような罪で起訴されたのか、この390ページに及ぶ著書で、起訴状なり判決文を引用する形で記されていないので、正確には分からないが、第一章の見出しが「秘書給与詐取事件」であるので、そういうことなのだろうか。

逮捕の場面(54ページ)
《・・・H検事は、私の前に一枚の紙をひろげた。
「先ほど、逮捕状がでました」
 慮外の言葉に、私は、呆然となった。》

判決の場面(71ページ)
《 裁判長の口が動き出し、判決文の朗読が始まる。私の心臓が早鐘を打つ。
「主文。被告人を懲役一年六ヶ月の刑とする」
 いきなり冒頭に、判決が言い渡されたのだ。》

起訴の場面でもいかなる罪の容疑で起訴されたかの記述がない。彼の『犯罪』の具体的内容がはっきりしないまま、山本氏は収監されていく。

このあたり、あくまでも理知的であった佐藤優氏の著書「国家の罠」の趣とは異なり、『論理性』の希薄さを覚える。しかしその分『情緒性』が高く、官僚と政治家の対比を私は感じた。

こういう記述がある。

《収容者にとって、看守とは、専制君主のような存在だ。極論すると、収容者は、彼らに生殺与奪の権を握られているのだ。懲罰房に送られるのも、仮釈放を取り消されるのも、看守の一存に委ねられている。したがって、彼らには、どんな理不尽なことを言われても、口答えするわけにはいかない。》(218ページ)

野間宏の「真空地帯」を読んで、帝国陸軍の内務班におけるリンチの凄まじさを始めて知らされた時は、『鉄砲担いだ兵隊さん』のイメージが一挙に崩れ落ちるショックを味わったが、その内務班を彷彿とさせる世界が現実に未だに存在するとは恐れ入った。

その『専制君主』の存在を許しているのが《明治時代から変わらぬ監獄法》(328ページ)であるようだ。

《日本国憲法と監獄法を照らし合わせて読むと、同じ国家に同時に存在する法律とは、とても思えない。
 たとえば、憲法第二十条には、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない」と書かれているが、監獄法第二十九条では、「受刑者ニハ教誨ヲ施スベシ」と、収容者への宗教教誨を義務付けている。しかも、現在、日本の刑務所で行われている宗教教誨は、当局が恣意的に選んだ特定の宗派に限られている。》
《そして、第三十六条に「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」と記されているが、監獄法第六十条には、懲罰の種類として、「作業賞与金減削」「重屏禁」「減食」などの文字が並んでいる。このように、日本国憲法と監獄法を読み比べてみると、相矛盾する点が至るところに見られる。果たして、日本という国は、法治国家と呼べるのであろうか。》(334-335ページ)

こういう部分もある。

《黒羽刑務所の浴場には、縦が約五メートル、横は約一メートル五十センチの浴槽がふたつあった。そこに、五十名以上の収容者が一度に入浴するのだ。まさに、芋を洗うような状態だ。(中略)Bが浴槽に浸かると、必ずと言っていいほど、大便が浮かび上がってくるのだ。(中略)「あっ、ウンコだ。汚ぇーな」誰かがそう叫ぶと、同囚たちは、いっせいに、浴槽がら飛び出てしまう。》(207-208ページ)

そこで山本氏は《手で大便をすくい取る。》
その後で収容者たちはふたたびその湯につかる。刑務所の規則に従うとそうならざるを得ないそうである。

刑務所内で山本氏は『寮内工場』で『指導補助』の仕事を割り当てられる。その『寮内工場』には、《痴呆症はもちろんのこと、自閉症、知的障害、精神障害、聴覚障害、視覚障害、肢体不自由など、(中略)目に一丁字もない非識字者、覚醒剤後遺症で廃人同様のもの、懲罰常習者、自殺未遂常習者といった人たち、それに、同性愛者も》(176ページ)いたのである。

このような障害者を刑務所内で介護する役割を与えられたことが、出所後の山本氏を福祉関係の仕事に駆り立てたそうで、その意味では氏にとっては掛け替えのない経験であっただろうが、私は簡単に割り切れなかった。

銭湯でウンコがブカブカしたとする。さあ、どのような騒動が起こったであろうか。それが刑務所ではただ黙ってウンコを取り除いた湯に受刑者が再び入らないといけないのである。刑務所はまさに外国大使館なみ、すなわち治外法権の場なのである。

このような話を『塀の外』に伝えたことだけでもこの本の出版価値はあると思う。これが切っ掛けの一つとなって、収容者の基本的人権を尊重するべく日本国憲法に従い『監獄法』の法改正を急ぐべきでは無かろうか。南野法務大臣がその存在感をアピールするには絶好の場であるとは思うのだが。

こうなると辻元清美氏の『獄中記』も出てきて欲しい。