玄関を出たら、金木犀の香りが漂ってきた。
これまで気付かなかったが、何時の間にか橙色の小さな花を咲かせていた。枝先の葉の付け根に控え目に花をつけるので、毎年のことながら、香りが「咲きましたよ」と伝えてくれるまで、気が付かないうつけ者だ。それほど数多くも無い庭木が、精一杯花を咲かせてくれるのだから、庵の主としては夙に気付いて、慈しむのであれば褒められもしようが、何時もながら迂闊なことである。
かつて友人に教えられて、「金木犀リカー」を仕込んだことがあった。散る間際の花を集めて、ホワイトリカーに漬け込むだけの到って簡単なものだが、金木犀の香りが愛おしく、カクテルに少しづつ入れて、かなり長いこと愉しんだ。今年もまた、
楽しめそうだ。
郷里に住んでいる老境の兄に、「金木犀リカー」を送ってやったら何と言うだろうか。
粋なプレゼントになるかもしれない。
香り来てそれと知るかな木犀の
花咲きにけり彼岸の中日に
木漏れ日のさし来て香る木犀の
花ひそやかに咲きにけるかも
木犀の花の香りを故郷の
兄に届けむリカーにとどめて