「ドイツで作る日本のご飯」(2) 風仕事とヨーロッパでのサカナの扱い

2014年01月05日 | 日本の「食」
今年のドイツは11月以降ずっと暖冬が続いています。
1月になっても10℃前後で、午前中は青空が広がり、気持ちの良い
天気が続いています。 新聞によれば、これも北米に記録的な大寒波
をもたらしている大西洋の大型低気圧の影響とのこと。
世界的な異常気象がますます明らかになってきていると思います。
 


 (久しぶりに近くのサッカー場にランニングに行きました。
まるで秋空のような風景でした。)
 
さて、冬の週末は風仕事。
久しぶりに鮭のカマや腹身、中落ちなどを干物を作りました。
もちろん切り身でも出来ますが、簡単で食べやすい分だけ、
だいぶ割高になります。
一番いいのは鮭一本をまるまる買って解体すること。
刺身、酢締め、冷凍用の切り身、干物用のアラと自由自在に
出来ますが、半日仕事は覚悟しなければなりません。
今日は、行きつけの魚屋さんでただで貰ってきたアラの部分だけ
作りました。
 
 

(庭の温室の真ん中に釣り下げた干物のカゴ)

 
 
(鮭のアラを塩水に浸けこんだところ)
 
まずは海水の倍くらいの濃さ、6%位の塩水に一時間ほど漬けて
おき、その後、流水で表面の塩気を洗い流し、風通りの良いところ
に陰干しをします。

普通は一日から二日で取り入れ、そのまま金網かフライパンで
ノンオイルで焼いて、熱いうちに良い濃口醤油とレモン汁を
滴々と垂らして、ちょうど炊きたての
ご飯と一緒に食べると中々
のご馳走です。
塩水に漬ける時間を短くすれば、小麦粉をはたいて
フライパンでソテーにしたり、
他のソースと合わせたりして
洋風の料理にも使えます。いっぺんにたくさん作れば
余った分は
冷凍もOKです。
 
 
 

ところで、ドイツやヨーロッパの大半の国では、魚のアタマ、カマ、
中骨などの魚のアラ、皮、肝、白子、腹子などは全て捨ててしまいます。
料理に使うのは三枚下ろしにした
切り身の部分のみ、まるでお肉の
フィレのみを食べるような感覚で扱います。可哀想な
勿体無いことです。

昔、京都の日本料理店で修行した若い料理人の子と一緒に、ドイツの
一流
レストランの厨房を訪ねたことがあります。
スーシェフとポワソニエーテを兼ねたベテランの二番手が、冷蔵庫から
取出したのは、大西洋岸、仏ブルュターニュから直送されてきた、
3キロは優に超える見事なヒラメ。さてどうさばくのかと注目すると
僕でさえ驚くような大雑把なさばき方で、カマの部分や中骨には
たっぷりと身が残り、美味しそうな腹子もそれを別に取り分けること
もなく、無惨に二つに切り裂かれてしまいました。
腹側と背側から四枚、大きなフィレのブロックを取り分けると残りの
アタマ、カマ、中骨、腹子などは無造作に全てゴミ箱に放り捨てて
しまいました。連れの料理人の若い子を振り返ると、目に涙がにじんで
いたように見えました。思わず息が詰まるような光景でした。

その後、ドイツだけでなくフランスやイタリアなどヨーロッパの他の国に
旅行や出張で出かける度に、マルクトや魚屋あるいはレストランの厨房の
中など、機会があるごとに魚の扱い方をさらに意識的に観察するように
なりましたが、端的に言えば「魚はまず切り身、フィレ。後はほぼ無用。」
というのがドイツだけでなくヨーロッパの人達の魚の扱い方の基本的意識、
日常のように思います。この点では
一物全体の考えはほぼ見受けられません。
僕の知識、見聞ではヨーロッパには日本のように魚をどの部位でも各々に
ふさわしく調理し、食する知識やそれを尊ぶ伝統があまりないのだと
思います。



(大西洋の立派なカレイの中骨と腹子、上と同じ魚屋さんから分けて
貰ったものです。普段は全て捨ててしまうそうです。この日はこれで、
美味しいスープストックと煮付けが出来ました)


ドイツ人の奥さんと暮らして約30年、欧米の人達のクジラやイルカは
守るべきという考え。細部の意見の違いはあれ、大方は僕もその考えに
賛成してきました。それでもドイツの魚屋さん
、あるいは友人の食卓や
レストランでの魚料理を見ては「これでは成仏できない。申し訳ない。」
と一人ひそかに思っています。




アラや中骨からとったスープストック、鮭の皮のパリパリ焼き、カマの干物や
煮付け、腹子のあっさり炊き、中骨の揚げせんべいなど、僕の家族の食卓では
妻や子供達にも当たり前の風景。僕はそれを有り難いことだと思うし、
ドイツと日本の間で生まれた
子供達にも伝えがいのあることだと思う。
30年経った今、妻も小骨を器用に取り分けながら、鯛のカマの塩焼きや、
カレイの煮付けを美味しそうに食べている。