「海上松魚釣」
土佐国は、四国の南偏の地にあって、南は海に開き、東西には岬が突出して彎月状の地形をなしている。此処の名産は鰹である。鰹は四、五月頃陽に向かって東南の海に集まるため、相模、土佐、紀州で獲れ、特に土佐はそれを名産として昧厚く、鰹節の上品ともなり、また生食も美味である。漁捕の網は稀で釣か多く、一年中沖に出るが、三月初めより中旬までに獲れた鰹は初鰹として食すとある。図中の桶は、餌になる鰯の生飼を入れておくもので、長柄で汐を汲み入れているのは、鰯を生かしておくためである。二人の漁師が、その鰯を海中に放っている。人物の表情、波のうねりなどには生き生きとしたものが感じられ、画面に緊張感がみなぎっている。