不忍池の中島に祀った中島弁財天社は、周囲の蓮池とともに名所絵の好対象となっている。しかしそのほとんどが、上野山下側から、右に東叡山を配し、中景に岸から島に通じる道と弧状の石橋を置いて、本郷台の方を遠望する図取りとするのが定石である。英泉のこの図も先例を踏襲している。しかし当図には、採蓮の小舟を浮べ、池中の浅瀬に立て札や杭を配するなど、実景描写の趣が濃い。また上野の森の樹葉の描法、近景の家屋の屋根に施した線条など、銅版画風がうかがわれる。さらに遠方の白雲なども含め、一体に洋風表現がほかの図よりも強い。