芝増上寺の大門から、「おのぼりさん」と見られる観光客の一行が出てきたところだ。安国殿や五重塔を見物して、随分楽しそうだ。後ろを歩くのは増上寺の修行僧だ。毎日七ツ(午後4時)に市中を回るその姿は江戸の名物だった。この僧侶達表向きは托鉢だが実際には "ならず者”や喧嘩に渇を入れて回る自警団だった。喧嘩といえば、芝神明社は、芝居で知られる「め組の喧嘩」の舞台である。ここで行われた勧進相撲を無銭鑑賞しようとしたことがきっかけで、江戸中の火消しと相撲取りの大喧嘩が始まるという物語だ。火消しと相撲取りでは、それぞれ町奉行、寺社奉行と支配管轄が違うため、この裁きについて、奉行間の縦割り弊害を描いている点も興味深い。
清らかな中川の葦のもとに、ゆっくりと降り立つ白鷺の群れ。江戸と下総(しもうさ)を流れる中川にあった逆井の渡しを亀戸側から描いたもので、対岸には西小松川村の家並みを配す。川岸の松並木は、村民三郎兵衛の所持地であったため、「サブの桧」と称された。中川は隅田川の東側に平行して流れる川で、このあたりは中川と隅田川を結ぶ竪川の東端にあたる。逆井という名は、江戸湾が満ちた際に水がこのあたりまで逆流したことに由来するという。