切り絵

浮世絵を切り絵に

広重 六十余州名所図会 大隅 さくらしま 

2014年05月25日 | Weblog

「大隅 さくらしま」 (鹿児島県鹿児島市)

 大隅国は日向の西南、薩摩の東に位置して、南の肝属郡は半島となっている。桜島は、その半島でかこむ鹿児島湾内の火山島であったが、大正三年の大爆発による溶岩流のため、大隅半島に接続して半島となってしまった。霧島火山帯の活火山で、最高峰の御岳は標高1,117メートルに達する。海中に屹立して、天に聳え、たとえて言えば青漆の盤上に香炉を置いたようで、秀麗無比といわれた。平時、頂上より白雲が蒸発するように煙の昇るのをみるのであるが、ここでは静かな御岳を描く。上半分陽が当たった光景で変化をもたせ、美しい粧いをみせている。右側の松原が画面中央まで入りくみ、それに対して桜島が中央から左隅まで描かれ、曲がった海面をえがく。帆を上げた走船と帆を降ろした碇泊船とを、ことさら描きわけたことにより、下方へくるにつれてその静けさが増している。

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広重 富士三十六景 東都御茶の水

2014年05月10日 | Weblog

東都御茶の水」 (東京都千代田区神田駿河台

御茶ノ水は、かつてこの地にあった高林寺が境内の湧水を二代将軍秀忠に茶の湯の用水として献上していたことによる地名である。本郷台地に連なる神田台に位置していたが、江戸時代期、神田台を東西に掘削して、西側を南流していた平川を東の隅田川に直接注ぎ込ませた。この川筋が神田川で、御茶ノ水一帯は丘陵地にできた人工の谷となった。高い橋桁の構造物が大変な存在感をもって画面を横切っている。これは江戸の飲料水で、神田上水を渡すための掛樋である。奥に見える人を渡す橋が歩道である。下を流れる神田川を、橋桁の合間を縫って酒樽をはじめさまざまな荷物を積んだ舟がゆったりと進み、大空を一羽のホトギスが横切る、初夏の何気ない一日が切り取られた図である。

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