近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

新勧期間発表 大江健三郎「不意の唖」

2010-04-13 23:03:00 | Weblog
こんばんは。
昨日は新勧期間でしたので場所をふだんの研究室から、若木タワー5階の演習室に変えて、発表いたしました。
発表した作品は大江健三郎の「不意の唖」、昭和33年に発表されたもので、「飼育」の系譜につらなる「谷間の村物」とでもいうべき短編です。
発表者(というか、今これを書いている僕自身が発表者だったのですが)はこの作品を「飼育」以降の「谷間の村物」の過渡期にあった作品としつつ、作品本体のなかに顕著に見出せるものとして、世代の断絶とそこへの作者の批判意識を見て行き、発表の軸としました。その発表に対しての意見としては、まず、先行論、同時代評をどのように位置付けているかの質問がありました。同時代評の大半が、「飼育」との関連からその言説を組み立てており、僕の発表では、それはどういう意味を持ち、関連のさせ方というのも、どうアプローチしてくのか、ということが問題になってくるための質問であったと思います。
また、果敢にも新入生の方が質問したことには、「谷間の村」という大江の今後のモティーフに連なる過渡期の作品、という僕のまとめに対して、具体的な作品ではどれがあげられるのか、というものでした。大江の「谷間の村」のモティーフが、具体的な作品に結実するのは「万延元年のフットボール」なのでしょうが、僕は不覚にも、これ以外の作品を上げられませんでした。失礼いたしました。
また、別の質問では、より作品の解釈にかかわるものとして、物語に登場する通訳という人物を、どう位置付けるのか、という質問がありました。彼を僕は〈介在者〉であり、完全な中間的存在というようにしました。ですが、それに質問では父親はちがうのか、と言われ、たしかに僕が作成した資料ではそうも読める文脈になっていたので訂正しました。
ほかにも、通訳の死というものに対して、必然か、否か、という議論がありました。これは通訳の死というものが、少年の父である部落長を殺害したために、復讐されて殺された、という先行論、同時代評に僕が則って資料を作成しましたところ、はたして復讐であったのかと質問されたのでした。
ここには、少年が通訳を殺害する手助けを「する」(このする、という表現は、作品での解釈の鍵となるので、括弧をつけました)その意志が、果たして自由意思であったのか、はたまたヘーゲル的不自由とでもいうべき状態であったのかの解釈とも連なるので、盛り上がったものとなりました。

ほかにも多くの質問が寄せられたのですが、どれも僕の資料の悪い点を観照させてくれる質問ばかりでした。今後の精進を自覚いたしました。
さて、もしかしたらお読みでいらっしゃるかも知れない新入生のみなさま、興味が湧いたようでしたら、ぜひ一度研究室に足をお運びになってみてください。サイトのほうでも詳細をお知らせしていますが、次回の発表は安部公房の「棒」という作品を読書会の形式で行いたいと思います。ぜひ一度よろしくお願いします。
ではみなさん、おやすみなさい。モロクマでした。

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (3000系)
2010-04-17 00:19:31
一身上の都合により例会を欠席させていただきました。大変失礼いたしました。

実は私も以前、この作品を授業で扱い発表したことがありました。モロクマさんが、発表し、また質問を受けた、と書かれているような問題点(「飼育」との関連、「村」という空間、当時の空気と作者の考えなどなど)が指摘されたと記憶しています。

個人的興味としては、やはり作品(および作家)を貫いている問題として「身体」の問題をどのように捉えるのか、また終始「こどもの目線」となっている書かれ方をどのように受け取るのか(単純に少年の成長譚としていいのか)、という点が気になります。本当は、会場にて質問し、御高察を伺いたかったですし、新入生の皆さんや会員の皆さんのご意見も伺った上で、この作品の読みを開いていければよかったのですが…本当にすみません。

次回の例会は出席いたします。皆さんで楽しく作品が読めればよいな、と思っております。
返信する
Unknown (モロクマ)
2010-04-20 16:49:29
貴重なご意見、ありがとうございます。
僕も「身体」と「こどもの目線」というのは、確かに「不意の唖」を理解するうえで欠かせない要素であると思いました。
こどもならではの、イノセントな目と、瞳に映す光景、それとは一見してあまりに対蹠的な肉体の描かれ方とは、実はその根をおなじくしているのではないか、と今では考えている次第です。どちらも、ある種の粘着質な文体で書かれることで、異様な作品世界を見せるに至らしめているのかな、と思います。

今後とも発表につきましては、忌憚のないご意見の程よろしくお願い申し上げます。
返信する

コメントを投稿