こんにちは、今井です。
11月28日に行いました吉行淳之介「星と月は天の穴」、森鴎外「舞姫」の卒業論文中間発表のご報告をいたします。
発表者はそれぞれ種井先輩、木佐貫先輩で、司会者は藤野先輩です。
「星と月は天の穴」論は、発表の流れとしては精神的なつながりを中心に、部屋と小公園が矢添にとってどのような空間であるのかについて言及した後、矢添と外界との媒介の道具として時計、電話、車、入歯を挙げて分析されました。そして矢添とAとの相違点と共通点を明らかにし、矢添と作中作との関係の考察をなさっていました。
結論は、「私」とは何か、他者とは何か、そしてその両者のかかわりを要素とする「関係」とは、つねに相対的であり、その確かな姿を見極めることは難しい。としたうえで「このことが『星と月は天の穴』では明確に描かれており、精神的なつながり無くして、一回限りではない「関係」(性関係に限らない)というものは生まれないことを伝えている」というものでした。
いただいたご質問やご指摘は、「以前の矢添にとって、車は部屋と同様の意味があるように感じられるとしているが、そうとはいえないのではないか」「作中作が完結した後の作品の進み方についてどのように考えているか」「構造との関わりから分析を進めて行く必要がある」「結論が今のままだと一般論や先行論と同じに陥りやすいので注意するべき」などでした。
「舞姫」論は、まず豊太郎の性質と女性たち(母・エリス)との関わりについて考察から始まりました。「涙」「女性」「弱さ」が結び付けられて連想されるようになっており、豊太郎の持つ心の弱さは母に育てられた影響とされている、また亡き母の代わりの存在をエリスに求めている、とされました。
次に相澤と豊太郎との共通性や強弱関係を指摘して豊太郎と相澤の関係性を分析し、結論として豊太郎は母の影響による女性的な弱い心を持っているため、男性社会においてもその女性性が表れ、そこで生きている相澤と強弱関係が生まれると発表されました。
ご質問としては「男性社会における男性の象徴であるような相澤が豊太郎の危機で登場してくる意味は何か」「過去回想体で描かれていることから、相澤が強い立場というよりも、豊太郎が自分から弱者になる関係ではないか」「作品内の男性性・女性性とは具体的には何か」「豊太郎の最終的な相澤像である最後の一文をどう捉えているか」「豊太郎の母の弱さは描写がされていないため、弱さを繋がりとしてエリスと母を繋ぐのは強引ではないか」「エリスは働いて生計を支えており、母というよりも父のようだともいえるが、どう考えているか」「冒頭の解釈や位置づけはどうしているか、論を踏まえた「今の我」とは何か」などでした。
ご指摘としては「一人称であり過去回想の文体であることにはかなりの注意が必要」「豊太郎は日本で父を亡くしており、武家出身で旧藩の学館に通い教育を受け、父としての役割を背負っていた。エリスは父の守護で身体を売らずにすんできたものの、その父が亡くなって危険な状況になっている。そこで豊太郎がエリスの父に代わりエリスを守り、家を支えているというふうに捉えられる」「男女分類よりも、母について考察するなら父についてもするべき」「涙、弱さ、女性性と結びつけるのではなく、丁寧にみていくべき」などでした。
作品分析において人物や事象を分析することに加えて、構造をしっかりとらえていくことの大切さを再認識いたしました。
発表者の方々、お疲れ様でした!
来週は「抒情歌」の発表2週目を行います。
11月28日に行いました吉行淳之介「星と月は天の穴」、森鴎外「舞姫」の卒業論文中間発表のご報告をいたします。
発表者はそれぞれ種井先輩、木佐貫先輩で、司会者は藤野先輩です。
「星と月は天の穴」論は、発表の流れとしては精神的なつながりを中心に、部屋と小公園が矢添にとってどのような空間であるのかについて言及した後、矢添と外界との媒介の道具として時計、電話、車、入歯を挙げて分析されました。そして矢添とAとの相違点と共通点を明らかにし、矢添と作中作との関係の考察をなさっていました。
結論は、「私」とは何か、他者とは何か、そしてその両者のかかわりを要素とする「関係」とは、つねに相対的であり、その確かな姿を見極めることは難しい。としたうえで「このことが『星と月は天の穴』では明確に描かれており、精神的なつながり無くして、一回限りではない「関係」(性関係に限らない)というものは生まれないことを伝えている」というものでした。
いただいたご質問やご指摘は、「以前の矢添にとって、車は部屋と同様の意味があるように感じられるとしているが、そうとはいえないのではないか」「作中作が完結した後の作品の進み方についてどのように考えているか」「構造との関わりから分析を進めて行く必要がある」「結論が今のままだと一般論や先行論と同じに陥りやすいので注意するべき」などでした。
「舞姫」論は、まず豊太郎の性質と女性たち(母・エリス)との関わりについて考察から始まりました。「涙」「女性」「弱さ」が結び付けられて連想されるようになっており、豊太郎の持つ心の弱さは母に育てられた影響とされている、また亡き母の代わりの存在をエリスに求めている、とされました。
次に相澤と豊太郎との共通性や強弱関係を指摘して豊太郎と相澤の関係性を分析し、結論として豊太郎は母の影響による女性的な弱い心を持っているため、男性社会においてもその女性性が表れ、そこで生きている相澤と強弱関係が生まれると発表されました。
ご質問としては「男性社会における男性の象徴であるような相澤が豊太郎の危機で登場してくる意味は何か」「過去回想体で描かれていることから、相澤が強い立場というよりも、豊太郎が自分から弱者になる関係ではないか」「作品内の男性性・女性性とは具体的には何か」「豊太郎の最終的な相澤像である最後の一文をどう捉えているか」「豊太郎の母の弱さは描写がされていないため、弱さを繋がりとしてエリスと母を繋ぐのは強引ではないか」「エリスは働いて生計を支えており、母というよりも父のようだともいえるが、どう考えているか」「冒頭の解釈や位置づけはどうしているか、論を踏まえた「今の我」とは何か」などでした。
ご指摘としては「一人称であり過去回想の文体であることにはかなりの注意が必要」「豊太郎は日本で父を亡くしており、武家出身で旧藩の学館に通い教育を受け、父としての役割を背負っていた。エリスは父の守護で身体を売らずにすんできたものの、その父が亡くなって危険な状況になっている。そこで豊太郎がエリスの父に代わりエリスを守り、家を支えているというふうに捉えられる」「男女分類よりも、母について考察するなら父についてもするべき」「涙、弱さ、女性性と結びつけるのではなく、丁寧にみていくべき」などでした。
作品分析において人物や事象を分析することに加えて、構造をしっかりとらえていくことの大切さを再認識いたしました。
発表者の方々、お疲れ様でした!
来週は「抒情歌」の発表2週目を行います。