近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

平成29年度夏期合宿

2017-08-24 21:36:19 | Weblog
こんにちは

29年度の夏期合宿委員を務めさせていただきました 3年吉野です。
先日8月21日~23日に行われた合宿の様子をご報告させていただきます。
今回の合宿には、甲府が選ばれました。太宰治が新婚生活を過ごした土地です。

【1日目】
今回の集合場所は新宿駅でした。平日朝のラッシュ中にも関わらず、ほぼスムーズに出発することができました。特急かいじに乗って甲府へと旅立ちました。

甲府に着いたらまずは昼食をとりました。「奥藤本店」にて鳥もつ丼をいただきました。
今回初めて知ったのですが、甲府を代表するB級グルメだそうで、甘めの味付けがとてもおいしかったです。
昼食後は、「愛宕園」にてぶどう狩りを行いました。旬の巨峰を会員一同で満足するまで食べつくしました。ぶどう畑の心地よさに寝転がっていた会員も見られるほどでした。

その後、当初は予定になかったのですが、駅までの帰り道にある「サドヤワイナリー」に寄りました。おしゃれな建物の中で、ワインの他にぶどうジュースの試飲もできたので未成年の会員たちにも楽しんでもらえたかと思います。

甲府での宿は、太宰治も滞在したという湯村温泉の「旅館 明治」を利用しました。
宿の方たちにも本当に親切で、レトロな内装も素敵な旅館でした。
また、太宰治の資料室や等身大パネルなどもあり、甲府での太宰治の足跡を辿ることができました。太宰が滞在した部屋は「双葉」という部屋で、滞在中に「正義と微笑」「右大臣実朝」を執筆したそうです。

入ってすぐに等身大パネルが出迎えてくれます。

夜の読書会では、太宰治「畜犬談」を扱いました。甲府市御崎町が舞台となった作品であり、太宰の中期作品の中でもとくにユーモアあふれる作品として評価されています。
 読書会では、犬(特にポチ)の描写の細やかさやかわいさ、擬人表現などから読み取れる犬への自己投影と自己嫌悪などが話題に挙がりました。他にも語りを行っている時間軸がどこにあるのか、ユーモア作品として評価されているが特に後半部はユーモア・滑稽さだけではないのではないかなど、様々な視点での意見が交わされました。岡崎先生からは、戦前の思想統制が厳しくなりつつある時期に発表されたことを踏まえると、犬の批判に見せかけて人間もとい知識人や芸術家への批判をしているようにも読めることや、ポチへの愛情は単純なものではなく、そのような時局に抵抗できないふがいない自分へも重なってくることなどのご指摘をいただきました。単なる滑稽小説や感動する物語に留まらず、様々な読みを展開できる太宰治の作家としての力量に唸らされた読書会でした。

その後は恒例の懇親会を行いました。一年生から四年生まで、楽しく交流を深められました。


【2日目】
2日目はまず、「県立フラワーパーク ハイジの村」へ行きました。途中にある向日葵畑も満開で大変きれいでした。私含む一部の会員は、向日葵畑にいた虫やバッタなどにも夢中でした。ハイジの村もスイスを思わせる素敵な町並みの中に、薔薇など季節の花々が咲き誇っていました。展望台からは周囲の山々が見えるのですが、この日はあいにく雲がかかっていました……。
お昼はハイジの村内の光のチャペルにてバイキングをいただきました。甲府の郷土料理や、スイスにちなんだチーズフォンデュなど幅広い種類の料理がありました。食後に個人的に信玄餅ソフトも食べたのですが、そちらも美味しかったです。

敷地内にある「バラの回廊」です。バラのピークはもう終わっていますがそれでもきれいでした。
 午後は山梨県立文学館・美術館を見学しました。「出発点の文学」という前期テーマに関連して、、特設展「作家のデビュー展」を観覧しました。扱った「闇桜」や「刺青」に関する展示などもあり、資料的な観点からも「作家の原点」を知るいい機会となりました。常設展では特に芥川龍之介が大きく取り上げられていました。
美術館ではミレーのコレクションを見学しました。特に「種を蒔く人」という絵画が美術館一推しの作品で、この作品をモチーフにしたグッズが沢山売られていました。
文学館も美術館も、とても広く見ごたえがありました。時間が足りない会員もいたようで、リサーチ不足を反省しました。


その後宿に戻り、夕食後に欠席者への葉書を書いたあと懇親会を行いました。


【3日目】
最終日である3日目は、午前中は武田神社へ行きました。宝物殿には武田家ゆかりの甲冑や刀、旗などが多々展示されていました。蝉時雨の境内には水琴窟があったり、シャモが飼育されていたりしました。

昼食は、いわずと知れた甲府名物かぼちゃほうとうを、「甲州ほうとう小作」にていただきました。鉄鍋に入った具沢山のほうとうは、とても食べ応えがありました。
午後は自由時間でした。会員それぞれ博物館やカフェなど、思い思いの場所で楽しんだようです。私と一部会員の方々は、は遊亀公園附属動物園に行きました。小さい動物園ですが、触れ合いコーナーやアメリカバクの展示など、動物との距離がとても近く、飼育員さんからのお話もたくさん聞くことができました。

アメリカバクは今年度幹事イチオシの動物です。
その後おみやげを購入し、甲府駅前のカフェ「風土」で皆で一休みして(桃ジュースがとてもおいしかったです)、また特急かいじに乗って甲府をあとにしました。

三日間とも天気に恵まれた合宿でした。熱中症なども起こらず無事に終わって本当によかったです。
私事ですが、自分がメインで企画運営する合宿は今回が最後です。反省点もありますが、全力で合宿委員として合宿の企画・運営を楽しむことができた合宿でした。

次は夏の勉強会ですね。後期につなげられるように頑張りたいと思います。

最後になりましたが、参加してくださった会員の皆様、合宿委員を共に務めあげてくれた後輩たち、そして岡崎先生、本当にありがとうございました。楽しい思い出になっていましたら幸いです。


平成29年7月24日井上靖「猟銃」読書会

2017-08-09 22:24:34 | Weblog
 こんにちは 暑さが続きますがみなさまいかがお過ごしでしょうか
遅くなってしまいましたが、7月24日に行われた井上靖「猟銃」の読書会について、ご報告をさせていただきます。
司会は3年吉野です。

 昭和24年10月「文学界」に発表された「猟銃」は井上靖の文壇的処女作です。ほぼ同時期に発表された「闘牛」とともに第22回芥川賞候補作となりました。
発表当時はおおむね好評だったようですが、「闘牛」など同時期の作品と比べられることが多く、「通俗的」「彩子の遺書は蛇足ではないか」などの指摘もあったようです。

 作者が三好行雄との対談で「何だか新しい、楽しい、美しい小説を書きたいという気があったのです」と述べていることから、表現についての分析や、散文詩「猟銃」と作中作の散文詩「猟銃」との比較検討についての先行論が見受けられました。また、書簡体形式であることに注目し、登場人物の関係性について論じる先行論や、作中当時の社会背景を読み込もうとする論など、様々な角度から論じられています。

 今回の読書会では、まず三通の手紙の順番に着目する意見が出ました。
三人の女性から三杉のもとに届いたそれぞれの手紙は、年齢順に配列されています。
あたかも少女性→女ざかり→死という順番に並んでいる三通の手紙はまるで女性性を強調しているようだという議論が交わされました。そして、手紙の順に開示されていく情報について議論は展開していきました。しかし三人の女性の手紙に書かれた三杉はそれぞれの登場人物から見た三杉にすぎず、「私」の想像する三杉像との乖離も併せて考えると、結局三杉穣介という登場人物の焦点化はなされないのではないかというご意見が出ました。
 また、「私」の存在意義については、「彩子の蛇」も三杉は知っていたのではないかという問題提起をできるのは「私」のみであり枠組みを越えてくる三杉像が立ち上がるのではないか、そしてそのようなところが、メロドラマから一歩踏み込んだ作品になっているのではないかというご意見を岡崎先生から頂きました。
また、岡崎先生からは「私」が語りすぎなのではないかというご意見も頂きました。これについては、三通の手紙の「三杉」と三杉の手紙の「三杉」(自分の孤独を自分で説明する三杉)の違いを受け取った上で、物語の末尾に三杉の孤独を裏書する存在として、「私」が語ったのではないかという議論が展開されました。つまり、散文詩「猟銃」の「白い河床」の三杉の解釈と「私」自身の「白い河床」=「猟銃の本質的な性格」の解釈の一体化、「私」と「三杉」の共犯関係が描かれているのではないか、という意見が出ました。

「猟銃」は普段例会で扱う作品の中では比較的長めの部類に入りますが、その長さをまったく感じさせず読めてしまうところに、井上靖のストーリーテラーとしての力量が感じられますね。前期の締めくくりとして、楽しい読書会になっていれば幸いです。

前期の例会はこれで終了となります。夏休みも納会や合宿、勉強会など盛りだくさんですが、有意義なものにしたいですね。