近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

谷崎潤一郎「母を恋ふる記」

2008-09-25 00:55:34 | Weblog
こんばんは。
今週の例会は、谷崎「母を恋ふる記」の読書会を行いました。

この作品は、大正八年一月から二月まで、十七回にわたって「東京日日新聞」に発表されました。作者がその二年前に経験した、母・関の死をモチーフとする〈母恋い〉の物語として読まれているようです。


――少年は、自分でもわからない悲しみを背負いながら歩いていくのですが、最後に出会った若い女が、母であることがわかったとき――目が覚めて、34歳の「私」は、母が死んでしまったことを実感し、また新しい涙を流します。母への憧憬が、夢という、幻想的な空間に溶け込んでいる作品。


読書会で話題になったのは、音の効果、月や海の描写、老婆や若い女として形象されている「母」なるもの、構成の妙などについてでした。また、随所に谷崎の美的感覚が現われている、という指摘もありました。
いろいろな読み方ができたので、話し足りない方もいたのではないでしょうか。


「天ぷら喰いたい」というリフレインが今も聞こえてくるようです…





余談になりますが、数年前、この作品の朗読会(!)をしたことがあります。
文庫本を片手に読み進めていき、いざ私の番がやってきて、
静寂の中、「天ぷら食いたい」を何度も繰り返すことに。
…そのとき、周囲に失笑ともつかぬ、妙な雰囲気が流れました。
私は緊張の中、声が震えているのかと想い、まずは読み終えねばと
必至でページをめくっていったのですが…

顔をあげると、先輩方が笑顔で私を見守っていました。
どうやら、訛りがひどかったようで、「天ぷら~」のくだりの発音がおかしかったとのこと。赤面したのは言うまでもありません。


当時の私は、なぜ朗読会にしたのかわからずにいました。
でもこうして振り返ってみれば、
あの八研の暗さや、皆で語り合ったことがあのフレーズとともに浮かび上がるわけで、この作品の持つ「音」の効果を身を持って知ることになったのでした。


たまには、読書会や発表以外の試みもいいかもしれませんね(笑)
長くなりましたが、以上荒川でした。おやすみなさい。