近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

平成二十八年夏季合宿報告 金沢

2016-09-16 16:57:55 | Weblog
 こんにちは。
 一年生の合宿委員の宇佐美です。
 遅くなりましたが今年の夏季合宿について報告させていただきます。
 今年の夏季合宿は北陸新幹線が開通した金沢に八月八日から十日にかけての二泊三日の合宿となりました。金沢といえば泉鏡花・室生犀星・徳田秋声など著名な作家の出身地であり、江戸時代には加賀百万石といわれた前田家の領地であり金沢城や兼六園、ひがし茶屋街など風情を感じる場所が多く残る文化かおる土地です。このような素晴らしい場所にいき、文学について触れることができたのは、文学に携わる者としてとても良い経験になりました。

 残念ながら私は一日目の途中から参加したので室生犀星記念館や雨宝院、犀川へ行くことはできませんでした。
 読書会では室生犀星の「性に目覚める頃」を扱いました。意見として小説の構成としての弱さや作品の中における仏教観、倫理(父)と禁忌(女性)や題名の「性」という表現が限定的すぎるという意見などなど活発に意見を交換し合えました。また、小説でありながら垣間見える詩的精神や性に対する矛盾やその時々で変わる価値観、成熟した自分が昔日を思い出すという構成などより小説に対しての読みが深くなる意見もたくさん出ました。

 二日目は鹿島屋旅館さんのおいしい朝食を食べた後、ひがし茶屋街・兼六園・石川近代文学館へ行きました。
 最初に向かったひがし茶屋街では歴史情緒あふれる街並みに囲まれ、まるで物語のワンシーンにいるような気持ちでした。お店は金沢名物の金箔に関連するお店やお麩のお店、和菓子屋さんなどたくさんあり、どれも金沢の文化を感じることができました。
 次に百万石の大名、前田家の庭園であった兼六園へ行きました。季節が夏ということで庭園の草木は青々としており、植物の力強い生命力と庭園に流れる水の清涼さを感じ、とてもすがすがしい気持ちになりました。昼食は兼六園内にある兼六亭という場所でとりました。この兼六亭は「性に目覚める頃」に登場するお店であるそうです。ここでは加賀殿定食をいただきました。定食の器は朱色の鮮やかなに加賀前田家の家紋が入っておりとてもきれいでした。また、お吸い物や治部煮に入っていたお麩がとても色鮮やかでかわいらしく、とてもおいしかったです。
 最後に石川近代文学館へ向かいました。文学館はとてもレトロでかっこよく、当時の学生が思わずうらやましいと思ってしまいました。展示は金沢三大文豪である泉鏡花・室生犀星・徳田秋声を中心とし、石川出身である近代・現代作家について展示されていました。泉鏡花のウサギの置物や室生犀星の虫かごなど作家に関係がある実物や泉鏡花の等身大パネルなどがあり、作家の作品だけではなく人となりにも触れることができました。

 三日目は朝食後、泉鏡花記念館へ行きました。泉鏡花記念館では強化の一生についてや親交があった人物たちについてなどが展示されており、作品を読むうえでより深く読み取れるような情報を得られました。個人的には高野聖に関連する展示が印象的で、思わず記念館のお店で本を購入してしまいました。
 昼食はひがし茶屋街にある金澤寿しさんでまつり寿し御膳をいただきました。色鮮やかな押しずしや治部煮をはじめとする金沢料理の数々を楽しめ、見た目も味も楽しめる昼食でした。また、お店の建物も情緒あふれる雰囲気でとても良い昼食でした。
 その後は自由時間にひがし茶屋街にある手ぬぐい屋さんなどを見たのち、金沢駅にてお土産を買い、無事に全員そろって東京まで帰り、合宿は終了しました。

 今回の合宿は先輩方や先生のおかげでとてもスムーズかつとても楽しく和やかな雰囲気で終えることができました。また、個人的には読んだことがない作品に触れる機会がたくさんあり、より文学の道へ進むことができた合宿でした。この楽しい合宿を来年に受け継げるように精進していきます。

 先生方、先輩方お疲れ様です。ありがとうございました。

2016年夏季合宿報告 金沢

2016-09-13 20:54:49 | Weblog
 こんばんは、合宿委員一年の望月です。大変遅れてしまいましたが、八月八日から十日にかけての夏季合宿の報告をさせていただきます。泉鏡花や徳田秋声、室生犀星(金沢の三文豪)ゆかりの地、金沢においての合宿でしたが、三日間天候に恵まれ、研究会のみなさんが無事であったことが何よりも喜ばしいことです。

 一日目

 JR 大宮駅に集合の後、新幹線に乗って金沢へと出発しました。二時間ほどの道程でしたが、雑談と窓の向こうの景色を見て時間を潰し、東京の喧騒から離れた田園風景や、観音様の佇む深緑の山が非常に美しかったのを覚えています。金沢駅に着きますと、堂々たる造りの金沢駅東口に唖然としましたが、ひとまず落ち着いた後に、金沢のB級グルメ、ハントンライスの有名店で昼食としました。グリルオーツカという店名でオシャレなのですが、なによりボリュームのあるオムライスの上に、カツとエビフライというトッピングが斬新でした。斬新だったにも関わらず、どこか懐かしさのあるグルメ、というのが私個人の感想です。見た目の豪快さに恥じない味で、かなりの満足感がありました。
 その後の室生犀星記念館では、入ってすぐのところで室生犀星の愛猫であるジイノの置物が出迎えてくれました。至高の癒しでした。館内の資料として、本人直筆の原稿や遺品、九重塔の置いてある中庭等々、多くのものが展示されてありました。著書の表紙が壁に飾られているのですが、一階からも二階からも眺めることができる造りが面白かったです。特に心惹かれたのは、室生犀星本人の書いた文字でした。特徴的で、現代の人の文字と言われても分らないかと思います。そのほかにも本人の朗読する詩などを聴くことができるコーナーもありました。ショップもあったのですが、絶妙に買いたくなる猫のグッズがあって、少し欲しくなりました。
 それからは雨宝院で、住職の方が案内とお話をしてくださいました。雨宝院は今回の読書会で扱った「性に目覚める頃」の舞台となっており、かつての名残があるという犀川と庭の景色も見ることができました。お寺の中を一通り見学しましたが、やはり本で読んだときとイメージが違っていたので、それだけでも物語の印象が大きく変わりました。
 夜は鹿島屋旅館で夕食としました。旅館の料理は非常に食欲のそそられるもので、カニ料理もおいしくいただきました。
 
 読書会では、室生犀星の「性に目覚める頃」について話し合いました。大きな問題となっていたのは物語の流れ、あるいは構成についてでした。「私」にとっての「表」とはなにか。及び、「父」や「表」、その他の人物は物語の構成にいかなる役割を果たしているか、などの様々な問題点や見解が挙げられました。また、構成の脆さは結局「性に目覚める頃」という題に収束されるのではないか、という見方も大変興味深かったです。日中の雨宝院での見学の後の読書会だったので、以前と読むものが異なっているかのような不思議な感覚でしたが、それだけに有意義なものでした。普段の例会よりも短い時間での議論でしたので、もう少し話し合いたい気持ちもありましたが、なにより1日動いたので体が疲れていました。

 二日目

 この日は伝統的工芸品などのお店が立ち並ぶ、ひがし茶屋街での自由散策からはじまりました。数々のお店を横目に奥の方まで歩いていき、険しい坂道があったので登ってみますと、お寺に着く手前の曲がりに公園がありました。金沢の美しい街並みが見渡せる高所で、空中に放り出されたような開放感がありました。
 その次に向かった兼六園は有名な庭園ですが、かなり広大な土地だったので驚きました。写真で頻繁に見かける、徽軫灯籠(ことじとうろう)の付近には、やはり人が集まっていました。歩いていると、園内で作業をしている男の人に向かって「忍者みたいだ!」と言っている外国人の方がいて、かなり印象に残りました。なお園内の兼六亭(お食事処)で加賀殿定食をいただきました。どうやらここも「性に目覚める頃」に関係しているそうです。食事中に外の様子をみることができました。地面がまぶしいほどに日差しが強く、クーラーのきいた室内から出るのが躊躇われました。
 石川近代文学館にも行きました。そこは四高(旧第四高等学校)当時の建物を使ったものらしく、金沢の三文豪だけでなく、彼らに関連する作家達の資料も多数展示されていました。学芸員の方が案内してくださったのですが、図示したような分かりやすい説明の合間に、ひ
とりでに動く置物などのユーモアあふれる話もしていただきました。また、資料の一つにオナガ(町中でも見かけるカラス科の鳥です。)を手なずけている写真がありました。その写真だけでも相当な愛鳥家だということが伝わってきました。どうやら日本野鳥の会と関係があるそうです。今では当然飼うことはできませんが。

 三日目

 最後の日は、泉鏡花記念館へと行きました。他の記念館のように、初版本や本人の遺愛品などの展示がありましたが。なにより初版本の表紙が非常に美しく、それを目の前で見ることができたのは、とてもよい体験でした。映像を見ることのできる展示室に、ジオラマを展示していたり、引き出しの中に初版本の資料があるなど、細かく見ていくと様々な発見がありました。
 茶屋街に戻り、金澤寿し(お食事処)でまつり寿し御膳をいただきました。金沢ならではの料理がとても鮮やかに、店内と茶屋街の雰囲気と調和していました。上品な昼食となりましたが、その中に一つ、フグの卵巣というのがありました。まさに珍味といったところで、それゆえに今でも鮮明に、その奇々怪々な風味をおぼえております。

 合宿を終えて

 今回、岡崎先生も御一緒に同行してくださり、総勢十四名での合宿でしたが、とても有意義なものとなりました。合宿中に見た風景や資料は、今でもはっきりと目に焼き付いております。私にとっては、それが最大の目的でありました。同時に、先輩方から学ぶことがたくさんあり、私の未熟さを実感しました。それら反省点は、これからの糧となるに違いありません。

 これからは季節の変わり目となり体調を崩しやすくなるため、お体は大切になさってください。では、これにて失礼します。

一年 望月

平成二十八年夏季合宿報告

2016-09-03 00:44:37 | Weblog
 こんばんは。今年度夏季合宿委員を務めました、二年の長谷川です。遅ればせながら、8月8日から10日にかけて行われました、2016年夏季合宿についての報告をさせていただきます。
 今回の合宿地には、以前から希望の多かった金沢が選ばれました。昨年度の夏季岩手合宿の成功により、首都圏から距離のある場所への合宿が可能であることが示されたことが、大きな要因のひとつだったのではないかと思います。金沢は近代文学との縁が深い地です。泉鏡花、徳田秋声、室生犀星と、日本近代文学の潮流に多大なる影響を与えた文豪を三人も輩出し、他にも多くの文学者がこの地に関わってきました。日本近代文学の研究に少しでも携わる身として、この地に実際に趣き、学べたことはとても幸運でした。

 一日目は大宮駅に集合し、JR北陸新幹線かがやきに乗って金沢駅へ向かいました。心配されていた交通時間ですが、歓談しているうちにあっという間に過ぎてしまいました。金沢に着くとまず始めに、昼食にハントンライスをいただきました。ハントンライスとは金沢のB級グルメで、オムライスの上にマグロやエビのフライを乗せ、ホワイトソースとトマトケチャップをかけた料理です。ボリュームのある食べ物ですが、新幹線の都合で到着が遅めだったこともあり、お腹が空いていたので美味しく食べられました。昼食を済ませたあとは、犀星が愛した犀川を渡り、室生犀星記念館へ向かいました。記念館の近くには野良猫がいました。猫好きで有名な犀星の記念館前に猫がいるということで、温かな笑いが起こりました。記念館の入り口には犀星直筆「小景異情その二」の拡大複製ポスターが掲げてありました。田端文士村で犀星の文字を見て以来、あのころころとしたかわいい文字のファンである私にとっては嬉しいものでした。展示の中で印象に残ったのは、壁にずらりと並べられた、初版本の表紙の複製でした。文学表現の中でも最も芸術性の問われる表現のひとつである詩によって文壇に認められた犀星の、こだわり抜かれた装幀が並ぶ様は圧巻でした。私達が訪れた期間には朔太郎とともに作られた雑誌「感情」の特別展が開催されており、貴重な資料が並んでいました。記念館を離れた後は、すぐ近くにある雨宝院へ向かいました。雨宝院は犀星の養家であり、読書会で扱った「性に眼覚める頃」の舞台でもあります。犀星の倫理観を形成した場として、犀星の作品にも強い影響を与えたといわれています。犀川の拡大に伴い狭くなってしまいながらも庭の一部は残っており、犀星が暮らしていた当時から生えている木もいくつかありました。犀星が生きた時代から私たちの生きる時代への繋がりを感じました。お盆も近くお忙しい時期でありながら、住職さんのご好意により雨宝院の説明を聴くことができました。小説家としては自伝的作品によって文壇に認められた犀星ですが、小説に書かれていることと現実に犀星が経験したことを安易に結びつけることの危うさを説いてくださり、テクスト論が主流となる現在の文学研究にも通用する、ためになるお話を聴くことができました。「性に眼覚める頃」に登場するとされているお賽銭箱も見せていただきましたが、当時実際の雨宝院は投げ銭寺だったそうです。宿泊地には、以前から近研で度々お世話になっているという鹿島屋旅館さんにお邪魔しました。鹿島屋旅館さん自慢の新鮮なカニ料理は絶品でした。

 読書会では室生犀星の「性に眼覚める頃」を扱いました。本作の簡単な紹介についてはコラムをご覧ください。記念館で犀星について学び、「性に眼覚める頃」に登場する地を巡る行程を読書会の前に設定することにより、参加者全員が作品に対する知見を深めてからの読書会だったので、より有意義なものになりました。最初に、小説としての構成力の弱さについての議論がなされました。普段小説として書かれた作品を多く扱う会員にとって、エピソードが断片的にみえ、並べて書かれる必然性が感じられない点などに違和感が生じたようです。これには岡崎先生から、エピソードをそのまま並べることで、自然に体験するかのような読書体験を読者に味わわせる効果があり、後に小説作品を多く世に発表し流行作家となる犀星の老練さを既に感じさせるのではないかという意見をいただきました。次に過去回想体でありながら語り手が過去の「私」を批評することがないという点について論点に挙げられました。過去の「私」の心情には矛盾点が多く含まれていますが、語り手はその矛盾点を無理に解決しようとはしません。後年の安定した心情から、その時々の観察眼を整理せず大切にし、矛盾を矛盾のまま描くことは、詩人ならではの表現なのではないかという意見をいただきました。この矛盾を矛盾のまま受け容れる姿勢が、私がこの作品を好きになった所以かも知れないということにこの時初めて気が付きました。最も白熱した論点は、登場人物の負う役割についてです。魅力的な人物が多く登場するため、これには様々な意見が出ました。その中で、展開の中で変わっていくものを効果的に見せるための現実からの変更についても議論されました。他には、主人公の積み重ねられる歴史と金沢の自然の照応や、滝田樗陰によって変更されたタイトルについてなど、興味深い意見が多く出ました。短い時間ながら、活発な議論が繰り広げられました。

 二日目は金沢の有名な観光地を巡りました。まずはひがし茶屋街を訪れ、金沢独特の町並みを堪能しました。ひがし茶屋街の自由時間では、私は箔押し体験や抹茶を楽しみ、お土産をたくさん購入しました。徳田秋声記念館を訪れた会員もいました。その後、日本三名園のひとつ兼六園へ向かいました。晴れ渡った空と青々と茂る木々とのコントラストが印象的でした。昼食は、「性に眼覚める頃」でお玉の掛茶屋として登場する兼六亭で加賀殿定食をいただきました。金沢名物治部煮がとても美味しかったです。お腹を満たした後は、今回の合宿のメインとも言える、石川近代文学館へ向かいました。学芸員さんに案内していただき、金沢と日本近代文学との関係について深く学べました。鏡花の所有していた兎の置物が夜な夜な移動するお話がおもしろかったです。

 三日目は泉鏡花記念館を訪れました。近研における鏡花の人気は高く、前日入りして講演を聞いてきた会員もいました。この記念館では鏡花が実際に使用した道具などが数多く展示されているのが印象的でした。道具からは鏡花の潔癖症や小柄な体格などが窺えました。昼食は金澤寿しでまつり寿しをいただきました。店員さんが金沢料理に関する詳細な説明をしてくださりました。押し寿司に入っていたフグの卵巣が独特な風味で美味しかったです。

 今回の合宿では、読書会で扱う作品に登場する場所を実際に巡ることができた点が良かったと思います。また、多くの文豪に関わる地だということもあり、たくさんの文学館を訪れることができました。帰り道、みなさんから楽しい合宿だったとお声を掛けていただき、委員冥利に尽きました。問題点は多々見つかりましたが、今後の合宿に活かしていきたいと思います。