近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

勉強会 野間宏「暗い絵」

2010-02-18 20:08:57 | Weblog
遅ればせながら、2月13日に行われた勉強会のご報告をいたします。
勉強会は3組のグループに分かれて、資料の作成・発表を行い、そのうえでの意見の交換を主眼としたものでした。

一組目のグループは、「深見の視線」と題した発表を行い、綿密な先行論への言及を敷衍としたのちに、語り手の視座および肉体への深みの執着を中心的に論じていました。主な主張は絵画を媒介として深見と仲間との〈苦しみ〉の共有と差異、深見と由紀との間での〈憎悪〉は、〈肉体の思想化〉を根底としており、それは〈自己完成〉と底が通じているものである、というものでした。
質問としては、やや先行論に引っ張られた意見ではないかというものから、自己保存から自己完成にいたるまでの接続とされた、肉体に関した言及への粗雑さを問うものと、かなり核心へ踏み込んだものが多かったように思いました。

つぎに発表した二組目のグループは、「苦悩の肯定」と題した発表でした。発表では、暗い、明るいといった物語内で描かれる明暗と、深見の苦悩との関連を論じ、そうした苦悩への肯定が、自己の保持・確立へいたるための道筋として描かれているとの結論を導き出していました。ここでも質問として、自己保存と確立との関連についてのものや、苦しみの象徴である時代から〈解放、決別〉という資料中での意味を問うものが出ました。

さいごのグループでは、「〈或る夜〉の方法」と題した資料において、〈或る夜〉という寓話的な時間・空間の設定の内実を分析する発表を行いました。
ブリューゲルの絵画にえがかれる〈穴〉に、深見が生命・生存を見、どうじに性をも表象させる点が、絵画と物語との関係を形成しているというのが発表の論旨で、そのなかで物語後編に徐々に語り手と深見のモノローグとが一致するかたちで、作家の意志が明示される過程を織り込みながら、自己を見つめ肯定する〈或る夜〉という物語と結論しました。
質問は、〈或る夜〉をブリューゲルの絵から導き出されたうえでの再構成とした意見に対しての根本的なもの、深見の、絵との関係を表す記号に〈印象〉を置いた点に関しての質問などが出ました。

以上3組の発表は、全体に、先行論のなかから追及できるであろう部分を掘り下げていくというものであったと思います。論文の数が多かったために、こうした傾向があったと思いますが、ややもすればそれが論理を引きずられてしまうことにも繋がってしまうため、論文を前提としながらも、やはり作品本体への着実な視点と研究が求められる勉強会であったのかという点が、勉強会での発見であったかと思います。
野間宏の「暗い絵」を勉強会のテキストとして選んだのは、次年度テーマが「戦後派」であったため、その地平がどのようなところにあったのかを確かめるためでした。参加した方々は、お疲れさまでした。と同時に、次年度に向けて、足場を確かめたうえでさらなる切磋琢磨を目指していきましょう。
モロクマ