近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
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牧野信一「鬼涙村」研究発表

2014-10-05 19:00:25 | Weblog
こんばんは。
暑かったり寒かったり不安定な日々ですが、本日は台風の影響ですこぶる寒くなっています。とても外出する気分にはなれませんでした。
今回は9月29日(月)に行われた、牧野信一「鬼涙村」の研究発表についてご報告いたします。
発表者は、3年尾又さん・松尾さん、1年眞鍋さんです。司会は1年今泉が務めさせていただきました。

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今回の研究発表の副題は「リンチと御面の相乗効果」です。
遠藤伸治「「鬼涙村」論」(「近代文学試論」昭和59年12月)、及び和田博文「視線の回帰――牧野信一「鬼涙村」の不安――」(「国語と国文学」昭和62年7月)の論を中心に考察し、
1.キーワードである「御面」および「渾名」の機能
2.「私」が鏡に映る自分の姿を確認したことの意味
3.リンチと御面とによって増幅される不安と、それに伴う自意識の変化
などの事柄に触れています。

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まとめでは、この作品が「鬼涙村」における「私」の変貌の様子を描いたものであるとし、キーワードとして「御面」と「渾名」に注目しています。登場人物たちは例外なく御面や渾名によって素顔を隠しており、御面を被りながらリンチを決行することで自分の本質を解き放っている、と読んでいます。

「私」はリンチ対象の候補に挙げられている人たちを観察することで一時的に「自分がリンチされるのでは」という不安から解放されましたが、鏡を通して自分の姿を確認し、それがリンチ対象として相応しい姿であることを自覚してしまい、脱するため友人の御面師を引き合いに出そうとするも、失敗して物語は閉じられるという解釈です。

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意見交換の場では、
「御面は確かに自分の素顔を隠すためのもののようだが、渾名はむしろ、対象の悪い部分を浮き彫りにすることで『素顔を隠した集団としての御面を被った人々』から孤立させ、リンチ対象として晒し者にするためのものではないか」という意見が出ました。
御面を被った村人たちはみな集団に埋没しようとしており、うまく埋没できない人を晒しあげることで自分を守っているのだという意見でした。これは現代社会におけるイジメ問題にも繋がるところがあります。

また、「鏡を見ることで自分の姿に気付いたが、それによって『正義的な自分を演じることからの解放』を感じるよりも『人々から孤立していることへの不安』の方が大きいのではないか」という意見もありました。
発表者からは、「鏡を見ることは擬似的に担がれるようなものである」との解釈が挙がりました。「担ぐ」とは「対象の御面(=集団に埋没するための演技)を剥いで本質を剥き出しにする」行為であるとし、鏡を見た「私」もまた演技的な自分の中にある本質に気付いたことから、「私」が擬似リンチを体験したという読みです。発表者はこれを「演技的な自分からの解放」と捉えていました。
自分の本質に気付いた「私」はリンチから逃れるために友人である御面師を盾にしようとしますが、この行動は「正義的な御面を被っていた『私』が御面をかなぐり捨て危険を脱しようとするシーン」と見ることができ、以前「万豊」がリンチを受けた際に動物的な姿を晒したというシーンと重なるのではないかと読めます。

ほかに、「担ぐという行為により共同体を維持している」という意見と、「担ぎは一時的な不安解消にしかならず、日常化していることで常時不安な状態に置かれているというのは『共同体を維持している』と呼ぶに相応しくない」という意見が戦わされました。

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岡崎先生からは、村人たちに埋没しきれなかった者はリンチ対象となることから、自分の本質に気付いた「私」からは「解放感」というポジティブな感情よりも「不安感」の方が強く出るのではないかというご意見や、
第三者(及び村に入ったばかりの「私」)から見れば村は『崩壊』しかけているように思えるが、村人たち(及び村に慣れてきた「私」)にとってはこれが『安定』なのではないか」というご意見などをいただきました。

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報告は以上です。だいぶ長文になってしまいました。
今回、私は初めての司会でわたわたしてしまい、研究会の方々に「担がれる」のではないかと覚悟いたしましたが、先輩方が優しくフォローしてくださったので助かりました。しかし私にはやはり、御面を被って末席から意見をぼそぼそ呟く方が向いているかもしれません。


1年 今泉

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1 コメント

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Unknown (かみむら)
2014-10-06 20:11:31
数年ぶりにコメントです。

御面をかぶってボソボソもありだけど、仮面を被って告白しちゃう人もいるよ!
1年生なんだから、これからどんどん伸びるって!
臆せず発言していきましょ!

私も久々に参加したいものです。
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