近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

川端康成「油」

2009-05-26 22:09:00 | Weblog
こんばんは、西村です。
今週の発表は、川端康成「油」の一週目の発表でした。
発表者の方はお疲れ様でした。

今回は、〈私〉の思考の変遷を追う過程に主眼を置き、作品中のキーワードにより、現在の〈私〉が何を望んでいるのかを読み取っていこうとする発表でした。
発表者は、油嫌いの物語を現在の〈私〉を肯定する契機とし、油を〈因果関係〉の原因とすることで、アイデンティティーの立脚点を位置づけることを〈私〉が切に望んでいるという分析をしていました。

議論では、作品内では現在がどこに位置付けられているかという問題や、作品中の夢をどう考えるのか、どのように位置付けられているのかという問題、また大幅な加筆修正がなされていることから、改稿過程を追うことの必要性が指摘されていました。

発表者の方は、今週の意見を参考に来週も頑張ってください。

今東光「痩せた花嫁」2週目

2009-05-23 21:47:52 | Weblog
今週は今東光の「痩せた花嫁」の2回目の発表でした。
発表者の方おつかれさまでした。

今回は、劇と現実の重なりを中心的に見る発表でした。劇の人物と作中人物の重なりを描く事で、作中人物も役者のように役割を演じる存在だという事を示唆していると分析していました。
また、この作品は物語に音楽的なリズムがあり、特異な比喩表現を用いていることから、作者が新感覚派の手法を意識していることを指摘していました。

議論では、〈夢〉と〈現実〉と〈劇〉がどのようにつながっていくのか、劇中劇である「バリアッチ」が小説の冒頭に置かれる事の意味がどこにあるのかという質問が出ました。また、〈余剰感覚〉という言葉については、先週よりもわかりにくくなったという意見と、先週よりも確信に近づいたという意見の両方が出たことが興味深かったです。

作品内で異なる要素が重なり合う事は、新感覚派の作品には良く見られることなので、その点について今後の発表でさらなる検討をしなければならないと感じました。

来週は川端康成の「油」の発表です。発表者の方はよろしくお願いいたします。

今東光「痩せた花嫁」

2009-05-15 15:49:15 | Weblog
今回は今東光の「痩せた花嫁」の発表でした。
先行論がほぼないと言ってもいい作品の発表なので、発表者の方は特に苦労されたと思います。お疲れ様でした。

小助と江美子の境遇が、二人が見ている劇「バリアッチョ」に重ねあわされていくという構成を指摘しながらも、最終的に江美子と劇「バリアッチョ」のヒロインであるネッダは離れていく存在であると分析していました。
また、語り手のを小助と江美子の現実を語る位置に置くことで、主題は飽くまで小助と江美子にあるという指摘でした。
そして、随所に挿入されたオノマトペから、「音楽の感じられない芸術はいやだ」という今東光の考えを読み、小説を書くことを「生きがい」にしたいと願う今東光の狙いをつかもうとしていました。

質問としては、劇を最初に挿入することの効果はなんなのかということのほか、作品内における「現実」とはなにか、という問題や、「余剰感覚」という言葉やラストの台詞をどうとっていけばいいのか、というものがあがりました。
発表者の方は前回の意見を踏まえて来週もがんばってください。西山でした。

「新感覚派の誕生」読書会

2009-05-05 23:25:50 | Weblog
こんばんわ、諸熊です。
今回は千葉亀雄の「新感覚派の誕生」の読書会を行いました。
今年の近研のテーマが「新感覚派とその周辺」であるため、この評論文はどうしても避けがたいものとしてありますから、皆さんの意見が、いったいどういうものなのか知る機会として非常に良い読書会となったように思います。
さて、内容はどんなものであったのかというと、評論で用いられる「ことば」について重点的に論じられました。「ことば」というのは、千葉亀雄の新感覚派に対しての言及に際して用いられる観念的な言説のことを指します。それが果して、何を意味しているのか、各々の感想を交えての読書会でありました。
それと、読書会の副次資料として横光の「頭ならびに腹」が用意され、千葉亀雄の評論を軸においた読みがなされました。評論のなかで述べられた言及が、横光の作品のどこにおいて適応するのか、といった模索のなかで、意見が出ました。すると、千葉亀雄の評論にもどるのですが、彼は新感覚派だけを論じているのではなく、当時の文壇全体を俯瞰したようなものとなっているので、改めて彼の論文全体の意味合いを理解することの必要も出てきて、そこに戻ることを発言する方もおり、様々な視点からの、活発な読書会となったように思います。