近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

中島敦「牛人」研究発表(2週目)

2013-07-09 22:34:13 | Weblog

こんにちは。
7月8日の研究会では中島敦「牛人」の研究発表の二週目を行いました。
発表者は三年・今井さん、佐藤さん、一年・櫻井くん、清水さん、染谷くんで、司会は三年の山下が担当いたしました。

一周目の発表は語り手について言及したものでしたが、今回の発表では典拠「春秋佐氏伝」「韓非子」と「牛人」の内容を比較し、作品がどのように魅力的に読めるかについて言及したものでした。
発表者の読みは、典拠との差異から「牛人」は豎牛の得体の知れぬ恐ろしさがより強調されている内容となっているのが認められるところが着目されていました。
質問として、「恐怖を強調する内容・語りに構成されたことから具体的にはどのような魅力が生まれたと言えるのか」「作者の操作によって近代小説らしさが出ているとするのであれば、どういった点がそうであると言えるのか」といった意見が出されました。このことにより、「牛人」には近代小説として勧善懲悪に収まらず人物を緻密に描き出そうとする奥行きがあること、またそれにより歴史書の単なるひとつのエピソードが物語性を持つことができたのではないかといった読みが展開されました。
そこから更に、典拠に比べて政治的側面の描写が薄れているのは人間の心情を描くためではないかということ、豎牛の内面は直接的に描かれないものの、想像の余地を残した語り方がなされていることが質問者により指摘されました。


ご参加くださった先輩方からは、作品の魅力や典拠の扱い、物語の舞台の土地の位置関係の把握、作中に登場する夢の場面の解釈についての助言をそれぞれいただきました。
岡崎先生からは、典拠との相違、豎牛や叔孫豹の描かれ方についてはやはり作者による緻密な計算がなされており、そこから作中人物の孤独や愚かさを立ち上がらせていると読めるのではないかというご意見をいただきました。

個人的な感想として、今回、「牛人」を通して典拠との比較検討のあり方や、作品に登場する夢をどう読むかという問題に対して学べるものが多々あったので、とても有意義な会になったと思います。引き続き気を引き締めて作品鑑賞に取り組んでいきたいです。

次回の研究会では安部公房「棒」の研究発表を行います。
それでは、失礼いたします。

三年 山下