近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
会の様子や文学的な話題をお届けします。

2009年度春合宿「伊豆合宿」

2010-03-03 17:36:21 | Weblog
こんにちは。最近、近研の記録係になりつつあるエンドウです。

今年も例年通り、3月1日~2日かけて春合宿に行ってまいりました!今回も無事に、みな大満足で合宿を終えることができました。合宿委員の方、お疲れ様でした。今回もエンドウが撮影した範囲ではありますが、簡単に合宿のレポートを掲載させていただきます。

<1日目>
1日目は、新宿駅に集合して小田急線を使い小田原まで、そこから東海道線で三島までゆき、伊豆箱根鉄道駿豆線に乗り換えました。行きだけで、小田急・JR東日本・JR東海・伊豆箱根鉄道と、4つの鉄道会社を乗り継いでいったことになります。

まずはこの合計約3時間の“伊豆阿房列車”の旅です。

 

駿豆線の車両。左は、伊豆箱根鉄道が自社発注して導入した同社のフラッグシップである3000系。親会社の西武鉄道にちなんで、「ライオンズブルー」という青色をまとっています。このライオンズブルーと白の二色塗装は、富士山の白雪と伊豆の空をイメージしており、この車両の登場以降、駿豆線の車両すべてが統一されました。右は、2008年に登場した駿豆線で一番新しい車両。西武鉄道の新101系を譲り受けた1300系です。同じ形式が今でも西武線で運転されています。今回三島~修善寺間は、この1300系に乗車しました。

 

今回は、近年では新しい試みとして、長い電車移動の間に駅弁で昼食をとるという経験をしました。駿豆線車内で三島駅の桃中軒で購入した「港あじ鮨」という鯵寿司の駅弁でした。やはり、長い電車の旅には駅弁は欠かせません。それだけでなく、車内で昼食をとることで時間も節約でき、いろいろと散策することもできました。移動中ということを考えたとき、お寿司というのも、食べやすくうれしい選択でした。このお弁当、本山葵がはいっていて、それを山葵おろしでおろして、醤油とあわせていただくという、とても面白いお弁当でした。


長い鉄路の旅を終えて、まずは修善寺駅に到着です。修善寺駅には、さっそく今回の合宿でも学んだ川端康成の作品、「伊豆の踊り子」のパネルがあります。せっかくなので、記念撮影…w(踊り子号でようこそ!とあるのに、踊り子号では来ませんでしたw)ここからはバスにのります。


バスに乗って最初に向かったのは、道の駅「天城越え」内に設置されている「昭和の森会館」です。昭和天皇が行幸されたことを記念して作られたという会館内には、伊豆近代文学博物館が設置されています。ここでは、伊豆になじみのある作家などの資料が展示されいます。また、中庭には実際に井上靖が住んでいた邸宅が移築されており、内部に入ることはできませんが、外から彼がすごした家の雰囲気を伺うことができました。

 

続いて「天城山隧道」(写真右)へ。「伊豆の踊り子」や松本清張「天城越え」で登場するトンネルで国の重要文化財にも指定されています。現在でも一応一般道(国道414号線)として現役のトンネルです。また、アレが出るという噂も…国道ですので、きちんとトンネルまでの道は車も走行できるように舗装されています…が、そこは近研。簡単な道など選ぶわけがありません!w通常ですと、水生地下というバス停付近からトンネルへ向かう道がありますが、今回はそのひとつ先の天城峠で下車、水生地下からだと2キロほどある距離を、たった600メートル歩けばすむ近道から向かいました。

この近道が左の写真。わかりにくいですが、ほぼ直角に近い急な斜面の山道を全員で登山して、トンネルに向かいました。実は、間違ってこの道を選んでしまい、登りきったあと、舗装された楽なコースがあることを発見したのですが、まあ、これもまた貴重な経験にw常に部屋で読書ばかりしてりうオタッキーな近研メンバーには、「合宿」である以上、いいトレーニングになったのではないでしょうか?wちなみにこの近道、吉田松陰が江戸・伝馬町に連行されていくときに使われたとか…。

 

隧道の中は、等間隔に設置されたランプでかろうじて照らされている程度で、ほとんど真っ暗。また、冷蔵庫の中のように冷え切っていました。夏でもかなり寒いのではないでしょうか。響き渡るメンバーの声と足音、それ以外は天井から滴る地下水の音だけという不思議な空間。なんとなく、神秘的な印象を持ちました。


帰り道の途中には、川端康成文学碑がありました。この碑には、「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た。」(集英社文庫)という「伊豆の踊り子」の冒頭部分の自筆と川端の顔が刻まれています。

 

続いて湯ケ島温泉地区にて、「白壁荘」を起点に「闇の絵巻」の道を散策しました。白壁荘は数多くの作家たちが訪れた宿です。木下順二や井上靖などが代表的で、ロビーには井上靖の「猟銃」の直筆原稿が飾られています。こちらでは、白壁会の機関誌『白壁』という貴重雑誌をいただきました。


次は白壁荘から徒歩で、「井上靖の墓」へ。奥様と共に眠っている井上靖の墓には、奥様が書かれた井上靖の概略が刻まれていました。「お酒が大好きだった…」という一文には、会員一同、大変親近感を持ったようでした。

 

お墓から、今度は湯本館へ。「伊豆の踊り子」が書かれた旅館です。残念ながらこの日はおやすみだった為、館内を見学することはできませんでしたが、ロビーには「伊豆の踊り子」の原稿が飾られているとのことです。右は、市内のマンホール。「伊豆の踊り子」をイメージしたデザインになっています。

 

ここからは、「闇の絵巻」の道を通って、梶井基次郎文学碑へ。右は、檸檬塚。


ここでは、ご好意でご案内をして下さった白壁荘のご主人(写真左端)のお心遣いで、この碑の建立にご尽力された湯川屋の先代の奥様(女将さん)安藤いとさん(写真中央)に、湯川屋に宿泊していた川端や梶井、建立に関する大変貴重なお話を伺うことができました。

ここで、詳細をすべて雑多に書いてしまうのは、失礼に当たりますので、簡単に要点だけをまとめますと、梶井基次郎の碑は、湯川屋の先代のご主人が寄付を一切受けずに自費を投じて建立されました。ご主人は、誰にも迷惑をかけずに、思いを遂げたい、という熱い心で建立を目指されたため、寄付を受けなかったそうです。そのため、碑が建てられている場所もご主人の畑だった場所を利用されたとか。この碑に使われている石は、全長3メートル程度、重さは3トンほどある石で、通常土台があるところを、この碑は、石の大部分を地中に埋めて土台を省略する造りになっているそうです。これは、碑を簡単に動かさない、つまりは、その地に付かせる、という思いを表しているそうです。

また文学碑の脇にある小さな檸檬塚には、梶井基次郎のへその緒などが埋められており、檸檬忌(3月24日)には、供養も行われているとか。

このお話、大変ドラマティックなだけでなく、学術的にも大変貴重なお話でした。とても勉強になりました。ぜひ、何かの機会にまとめてみたいお話です。なお、この文学碑のある場所の裏手には、梶井の小説「桜の木の下には」の元になった桜(山桜)があったということですが、太平洋戦争によって失われてしまったということです。

この場をお借りしまして、御礼申し上げます。

 

これで、1日目の見学は終了し、宿へ向かいます。宿ではお風呂、夕食の後、読書会・懇親会が行われました。読書会は、先ほど大変興味深いお話を伺ったばかりの梶井基次郎「闇の絵巻」を扱いました。「闇とはなにか?」という問題や、「療養所」というキーワード、「近代批判の可能性」など、学生だけでなく、先生方からも貴重な意見や読みを伺うことができました。今回は、大勢でしかも昼間に「闇の絵巻」の道を歩いてしまいましたが、実際、一人で歩いたとき、僕たちは「闇の絵巻」をまた違う視点から読み捉えることができるかもしれません。また、あまり議論として出てはいませんでしたが、作品を現代人が読むとき、どんな読みができ、どのような楽しみができるのか、とても気になります。当時の人にしかわからない問題意識やテーマ以外のことが、描かれているからこそ、現代にまで読み続けられていると考えれば、それをこそ話すことができれば、面白かったのではないでしょうか。

<2日目>

 

さて、2日目。さわやかな朝を迎えました。残念ながら生憎の曇天でしたが、前日の夜から降り続いた雨は、出発時にはほとんど止み、近研の悪運パワーを再確認できたといえます。ところで、一晩お世話になった宿、「民宿わらじ」は近年の合宿で利用した宿では、ベスト5に入るくらいのきれいで、そしておいしい食事の宿でした。あのウルトラマンで有名な芸能人も訪れていたようです。(「わらじ」のHPで僕たちの記念写真が掲載されています)大満足でした。写真右は、この地域で盛んに咲いている河津桜。


2日目は、初日から参加できず夜から参加された院生を加えて、いつものメンバーで三島のクレマチスの丘へ散策に。クレマチスの丘では全員で昼食をとったあと、井上文学館を見学しました。こちらでは、『詩と写真 白の風景』という貴重な本をいただきました。そのほかにも、館内には井上靖にかかわる貴重な資料が展示されており、大変勉強になりました。

 

(左)井上文学館への途中には吊橋が…こんなに楽しそうに吊橋をわたっていますw
(右)先生方と記念撮影する伊豆方面合宿実行委員長。今回初めて合宿の運営にかかわった実行委員長ですが、みんな大満足でした。お疲れ様でした!

ここからは自由行動。各自三島駅まで(といっても、みんな三島駅までは一緒に移動しましたが…)バスで戻り、そこから各々見たいところを見学に回りました。

 

私エンドウと傳馬先生は、Z-KAIが文化事業の一環として創設した「大岡信記念館」と「三嶋大社」を見学に行ってきました。話に聞くところでは、メンバーの大半が三嶋大社にお参りに来ていたようです。こちらの神社には、天然記念物の樹齢1200年という金木犀があり、非常に圧巻でした。また、神鹿として、鹿も飼育されていました(やや臭いが…)。

これで、今回の合宿は無事全行程を終了。行きと同じルートで帰路に着きました。今回は、実行委員のすばらしい計画もさることながら、多くの人に助けられて成功した合宿になりました。人のぬくもりを感じたとてもいい合宿だったと思います。その意味で、文字だけではわからない、“経験”ができ、近研の合宿の目的が完成された、と感じました。


しおりと今回の合宿でいただいた品々と読書会のテキスト(新潮文庫版「檸檬」)。しおりは、今年度夏合宿と同じレベルのクオリティで、とても見やすく、すばらしい出来でした。こういうしおりだと本棚に保存しておこう(個人的にしおりなどは保存しているので)、という気持ちになれます。

さて、いかがでしたでしょうか。乱筆乱文にて簡単にレポートいたしました。これはあくまで僕の体験談ですので、おそらく、この記事のコメント欄などで、ほかの参加者の方の感想も加えられると思います。ぜひ、そちらもご覧になってください!!!

(追記)平成22年3月5日00:10 一時的に“湯川屋”と表記すべきところを、“湯本館”と表記しておりました。訂正しお詫び申し上げます。大変失礼いたしました。