近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
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平成30年5月14日川端康成「抒情歌」研究発表

2018-05-21 20:51:04 | Weblog
こんばんは。遅くなってしまいましたが、5月14日に行われた川端康成「抒情歌」の研究発表のご報告です。
発表者は2年佐々木くん、古瀬さんです。司会は4年吉野が務めさせていただきました。


「抒情歌」は、昭和7年2月に「中央公論」に掲載され、翌昭和8年6月に新潮社『化粧と口笛』に収録されました。
「私の近作では「抒情歌」を最も愛してゐる」(「文学的自叙伝」/「新潮」昭和9年5月)と発言が残っている通り、川端本人にとっても思い入れの強い作品であったようです。研究史は三島由紀夫の言及に始まり、川端自身の宗教観や人生、また冒頭と結末の相似といった語りの構造に言及されてきました。文体の美しさや様々な資料の引用がちりばめられていることなど、読みどころの多い作品です。

発表者は、作中にたくさん引用されている資料や、龍枝という主人公の一人称が、亡き元恋人に語りかけるという独特な形式などに着目しました。発表では、作中の「超能力」について、本当に龍枝に超能力があったのかということや、登場する資料について龍枝がどう考えているか、また龍枝が元恋人と綾子について語るときの具体的なエピソードの有無などについて言及がありました。


質疑応答では、超能力についての掘り下げなどがなされました。「超能力」は、二人以上人がいるときでないと発動しないという指摘や、それに関連して安藤宏論の紹介などがなされました。ほかにも、龍枝が「あなた」を呪い殺したという既存の読みに対し、その真偽を検討しました。先生からは、事実が超能力の有無ということまで含めて、事実が探り出せないように書かれているというご指摘をいただきました。また、この作品における「美しさ」とは何かという疑問が提示されました。これについては、龍枝が認めたり、肯定的に捉えているものではないかという意見が上がりました。探り出せないように
語りについては、先生から文中の語りの矛盾を追っていくという方法のご指導をいただきました。たとえば、龍枝が「あなた」とやりとりした二通の手紙は、同一化の証拠として挙げられていますが、仔細に検討してみるとそうとも言い切れない、思い込みの面が強いのではないかというご指摘を頂きました。
他にも、「転生」は思い込みでしかないという指摘や、それに対して龍枝はある程度自覚的であるという指摘がなされました。それに対して、先生からは輪廻転生を信じられないということは、宗教など資料が盛り込まれて分かりにくくはなっているが、それだけ龍枝の思いが深みにあるのではないかというご指摘がありました。
タイトルについても、なぜ作中に登場する「抒情詩」ではなく「抒情歌」なのかという疑問が提示されました。発表者は、「詩」の集まりとして「歌」という言葉を用いているという意見でした。他にも死んだ「あなた」に対する語りかけであり、「歌」とタイトルに入っててはいるが単なる鎮魂歌ではないという指摘がありました。この「あなた」は他者としての相対化ができる「あなた」というよりも、龍枝=「私」の中の「あなた」であるという意見も挙がりました。
他にも、「香」というモチーフが作品にどう影響を与えているのか、近代において優位に位置づけられている視覚と、視覚に劣るとされているその他の感覚と比較したり、作中の「愛」についてなど様々な意見があがり、大変有意義な例会となりました。

次回は、菊池寛「藤十郎の恋」研究発表です。
新入生もそろそろ参加する発表作品が決まった時期です。今年度もいい研究会にしていきたいですね。