近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
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太宰治「千代女」

2012-12-15 16:09:03 | Weblog

12月10日の例会は太宰治「千代女」の二回目の発表でした。
引き続き発表者は3年の根本さんと2年の神戸さん、司会は私、山下が担当しました。

今回は和子の書きたくないという姿勢が書こうという姿勢に変化していくところに注目した発表でした。
レジュメから広がった読みに、和子は女性のイメージを母として捉えているのではないか、綴り方の掲載が騒がれた当時の和子の「騒がれたことが嫌だった」という嫌悪とそれを悟ったとされている父の「和子だってこわがっている」という認識にはズレが生じていたのではないかというものがありました。
また、今回の発表は主要登場人物ひとりひとりを細かく分析する形式の研究だったので、そこから和子の「女はやっぱりだめ」とする部分、否定的な見方をもって母を語っていた部分は、父の古めかしい価値観・教育により生じたところなのではないかという意見も出ました。

最も掘り下げられた討論は、タイトルについてでした。
作中で「私は千代女ではありません」と語っていた和子は、しかしこの手記を小説として発表することで「書けないことを書く」千代女となりえるだろうことから「千代女」というタイトルがつけられたのだろう、という発表者の方々の読みに沿って、「千代女」というタイトルのために和子は「書けない」と言ってはいけないのではないか、といった懐疑が持ち出されたりしました。

岡崎先生からは、一人称の文体から小説家和子としての姿を読み解けるというご指摘をいただきました。
加えて作家や作品の内容の観点からは、女性としての経済的自立を目指す傾向が強調され、そこに父の存在を対にさせることで家制度の限界を表現する、太宰自身の作品発表当時の綴り方ブームへの反発が表れている側面にも注目して読むことができるというお話もしていただきました。

今回は初めて司会に挑戦させていただいて、いきなり二週発表の担当となったからか思っていたよりも緊張してしまいましたが、無事やり遂げることができたのでほっとしています。ありがとうございました。

次回は太宰治「魚服記」の研究発表です。
それでは失礼します。

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